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Verite, verite……? [コンサート]

死の床にあってメリザンデが静かにつぶやくように反問する。
「真実、真実…?」

真実って…?
それを知りたいの?
それを知ってどうなるのかしら。
それはいったいどこにあるのかしら。
そんなものがほんとうにあるの?
それは自分にもわからない。

メリザンデは出生も年齢も不明なのに、高貴で、いとおしい。そして、小鳥のように傷つきやすく、透明で、鏡のように誠実で、そよ風のようにあいまいでつかみどころがない。
…まるで自身が「真実」そのものであるかのように。

ペレアスは「明日、僕は旅立つ」といくども繰り返すが、囚われ、離れられず、いつも孤独で、メリザンデに恋し、とうとう自由になることがなかった。
ゴローは、奥深い森の闇のなかでペレアスを見出し、自分の空虚を満たそうとして、迷い、疑り、傷つけ、そして自らも苦悶する。
盲目の老王は、生死の営みの傍らを虚ろに通りすぎていくものが見えているのに、全てを許し、受け入れ、最後まで何も追おうとしない。

ドビュッシーの音楽は、森の深淵や、泉の透明なきらめき、海辺の青い洞窟、夜明け、日没、星空の夜更けなど、自然の響きで満たし続け、ついには生死の輪廻を静かに奏でながら闇に消えていく。


オペラ「ペレアスとメリザンデ」
6月29日 新国立劇場中劇場 演奏会形式での公演。指揮は総監督の若杉弘。フル編成の東フィルはピットに沈められ、そこからあふれ出る精妙かつ濃密な音色でたった1000席ほどの空間を贅沢に満たしてくれたし、歌手もすべて日本人でいずれも出色の好演だった。

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