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ブダペスト祝祭管弦楽団 (ウィーン&ブダペスト音楽三昧 その1) [海外音楽旅行]

ウィーン&ブダペスト音楽三昧の初日は、ブダペスト祝祭管弦楽団(Budapest Festival Orchestra)の初見参でした。

BFOは、1983年創設の新しい楽団です。創設者は、ピアニストのゾルターン・コチシュと現在も音楽監督を務めるイヴァン・フィッシャー。当初は年に3、4回ほど、音楽祭などのイベントで演奏する《祝祭》オーケストラでしたが、92年に常設オーケストラとなり、現在では定期公演や室内オーケストラや子供向けコンサート、サマー・コンサートなど様々な公演を行っています。日本で言えばサイトウ・キネンのようなものでしょうか。

2008年に英国の音楽雑誌「グラモフォン」が世界のオーケストラ・ランキングを発表し、ベルリンやウィーンなど並み居るトップ・オーケストラに互して堂々とトップテンに入っていて驚いたことがあります。今回は、その実力をこの目で確かめたいという思いがあったのです。

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最初にこのオーケストラを知ったのは、諏訪内晶子さんのこのアルバム。

17年前の録音で諏訪内さんもまだまだ若くアイドル的な扱いで、96年にレコーディング・デビューを飾り、これが4枚目のアルバムでした。当時の印象は、田舎の無名の、しかも臨時編成の楽団を伴奏に選んだのだろうとというのが正直なところ。解説には「フィッシャー率いるブダペスト祝祭管弦楽団というハンガリー楽壇をリードする若き実力者たち」という触れ込みでした。

その後、BFOはフィリップスからチャネルクラシックスに移籍し、ピュアDSDの優秀録音という触れ込みでオーディオファイルにも知られるようになりました。私自身も、試聴会などでよく耳にするようになったのが「ハルサイ」。

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確かにハイファイ好みの好録音ですが、果たしてこれが世界ランキングのトップテンに入る真の実力オケかどうか半信半疑だったというわけです。

もうひとつの着目は演奏会場です。

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その名も“芸術の宮殿”と称するコンサートホールですが、実際に行ってみると最新のオーケストラホールで2005年にオープンしたばかりとのこと。市の中心からやや外れたドナウ川河畔の再開発地区の一画に建設された芸術センターで、ベーラ・バルトーク国立コンサートホールのほか、フェスティバル劇場、ルードヴィッヒ美術館とコンプレックスを構成しています。

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旅程では、メインは現地3日目のコンサートでしたが、ブダペスト到着当日のコンサートにも時間的に間に合うかも知れないと急遽チケットを買い足しました。これがちょっと甘くて、案の定、遅刻してしまいました。

フライトは極めて順調で予定より早めに空港に到着。手はず通りにタクシー乗り場に直行しホテルにチェックイン。余裕十分と思ったのが油断でした。着替えてみると結構時間が押しています。タクシー頼みだったのがいけなかった。ホテル前でタクシーを待ってもなかなか来ず、やっと乗り込んだタクシーの運転手は新米で“芸術宮”と言っても生返事のまま出発。しばらく走って方向違いの街角に止めて無線で問い合わせ、カーナビにセットする始末です。料金をぼられたわけではないのですが、もたもたしているうちに大遅刻となりました。

会場に着くと、案内されたのは最上階の桟敷席。ここが遅刻者のテンポラリーな席というわけです。1曲目が終わると、その合間にドアを開けて会場に入ります。席は自由とのことで、左サイドの椅子席、あるいは立ち見でバーからステージをのぞき込むという按配でした。

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1曲目のモーツァルトのアリアアリア「この麗しい御手と瞳のために」(K612)を聴き逃したのは残念です。ソロ・コントラバスのオブリガート付きのバスアリアの実演は滅多に聴けるものではありません。

それでも2曲目の「クラリネット協奏曲」は、大好きな曲でなかなかの演奏でした。

印象的だったのは、その清々しいほどに清明でクリアなホールのアコースティックです。1800席ほどのシューボックスのホールですが、最上階の桟敷には馥郁たる香り高いホールトーンとやや遠目ですがクリアな直接音が湧き上がってきます。こういう形のステージ真上のバルコニーは意外によい音で、その音は初台オペラシティのタケミツメモリアルの3階L1で聴いたときのことを思い出させるもの。

使用楽器が通常のクラリネットではなくバセットクラリネットであることは聴いていても、遠目に見ても明らか。プログラムの解説を探してみると「ヤマハ製バセットクラリネット」と明記してありました。ヤマハのカタログにはないので特注でしょうか。

軽やかで優美でありながらどこか哀愁を帯びた弦セクションの響きが心地よく、清澄な音色のクラリネットがとても純真に歌います。流れはスムーズで完璧でしたので、ほんの少しだけ微かなキズがあったのが意外だったほど。第一楽章でリードミスが2回ほどあったのと、第三楽章の出だし。無理にアタッカ風に続けたのが仇となって、客席のざわめきに乱されて呼吸が合わず慌ただしい開始となって再びリードミスを犯してしまったのです。

休憩が入って本来の席に着きました。

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到着当日のリスクを考えて、もともとあまりよい席を選びませんでした。日本円で2500円の席ですが、それでも2階左のバルコニー最前列でなかなか良い席です。

3曲目のモーツァルトの「レクイエム」も、やはりクラリネット協奏曲の演奏に通ずるような美しい響き。10-8-8-6-3の両翼対向左低弦の編成。といってもちょっと変わった配置で、かなり横長に配列され、中央にバセットホルンがありトランペットとティンパニのリズムセクションが右端に置かれます。面白いのはコントラバスで、弦五部を構成する左手の2台とは別に、そのリズムセクションに1台配置されていました。

そればかりではなく、そこかしこにフィッシャーのこだわりがあって、例の「トゥーバ・ミルム(ラッパは不思議な音を)」でソロを吹く本来のトロンボーンとは別に、合唱のアルト、テナー、バリトンと重ねるトロンボーン3人がオーケストラ最奥の左、中央、右に配置されています。最も特徴的だったのはソロの歌手陣。ソプラノ、アルト、テノール、バリトンの四人がオーケストラ内の弦と木管の中間にお立ち台の上に立って左から右へと孤立するように離されて歌うこと。このことでステレオ的な立体感が浮かび上がるとともに声もよく通るのです。

奏法は、ノンビブラートのピリオド奏法。弦楽器などすべてモダンなのですが、トランペットもホルンもピストンのない自然倍音の楽器を使用。BFOは、本来、現代楽器のオーケストラですが、弦パートは現代奏法もピリオド奏法も切り換え自由、金管パートは難なくこうした自然倍音楽器に持ち替えるようです。そういう教養があたりまえのようです。先日の紀尾井シンフォニエッタ東京のコンミスの玉井さんのお話しを思い出しました。

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「レクイエム」は、一時代前のようにいたずらに劇的になることもなく、オリジナル楽器にこだわって原色むき出しになることもなく、平明でとても美しく古典的な均整美に満ちた演奏でした。

素晴らしい「レクイエム」でしたが、これが果たしてトップテンなのかどうかということについては、まだまだ半信半疑のままだったのです。

しかし…

(続く)



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ブダペスト祝祭管弦楽団 演奏会
2016年5月4日(水) 19:45
ブダペスト 文化宮殿 ベラ・バルトーク・ホール

モーツァルト:
(「この麗しい御手と瞳のために」K.612)
クラリネット協奏曲イ長調 K.622

レクイエム K.626

Akos Acs, clarinet

Norma Nahoun, soprano
Barbara Kozelj, contralto
Bernard Richter, tenor
Hanno Muller-Brachmann, bass
Collegium Vocale Gent

conductor:Ivan Fischer

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