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ウィーン・フィル マーラー「復活」 (ウィーン&ブダペスト音楽三昧 その6)

ウィーン音楽三昧は、早くもクライマックス。王宮礼拝堂の日曜ミサを途中退出して向かったのは、いよいよムジークフェラインでのウィーン・フィル…というお話しの続きです。

高まる気持ちを抑えきれずつい足早に向かったのは楽友協会の建物。

そのファサードで、私たち夫婦はひとつの決断を迫られます。2枚のチケットは席がばらばら。ただでさえ入手が難しいチケットなので、申し込み時にはいつものように続き席という条件を外してばらばらでも可としたのですが、ものの見事に席は離れています。プログラムはマーラー「復活」だけなので休憩はありません。ふたつにひとつ。

迷っている時間はありません。私がえいやっと選んだのは、2階正面バルコニーの3列目右寄りの中央。一方、妻の席は1階席の後ブロック左です。果たしてこれがどうだったのか…?コンサート後の妻の言葉に、私は何とも言えない複雑な心境になるのですが、それはお話しの最後ということに。

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席について、ホールを一望すると、その美しい内装に感激します。ほんとうに美しいホール。

周囲には、ドイツばかりではなくイタリア語、フランス語が飛び交い、例によって席に迷ったり間違いを指摘されて席を移るなどの騒動がくり返されます。ウィーン・フィルの定期公演は入手が難しい。ニューイヤーコンサートも日本人にとっては高額のツアーにでも参加しない限り難しいのではないでしょうか。ねらい目が、このウィーン芸術週間ということになります。ムジークフェラインの体験ということなら、世界トップオーケストラが集まるこの機会が一番です。私たちは、幸い、初日のウィーン・フィルによるコンサートを聴くことができるのです。

それは、もう素晴らしいコンサートでした。

このホールは見た目が美しいだけではなく、その音が素晴らしい。おそらく世界の他のどこよりも美しい音響であり、他のどこでも聴けないような随一の音響といえるでしょう。そしてその素晴らしさはやはりウィーン・フィルではないとその魅力を最大限に発揮できないし、ウィーン・フィルの魅力はこのムジークフェラインで聴いてこそのもの。やはり、《ウィーン・フィルはウィーンで聴け》なのです。

ホールは、マーラーのような大編成のオーケストラにとってはむしろ小さめの空間容量といえるでしょう。しかも非常に響きが豊か。アメリカのオーケストラなどが大音量で鳴らせばどこか破綻してしまう難しさがあります。気難しい一面を持つウィーン・フィルであっても指揮者次第のところがあります。

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その点でも、ズービン・メータは申し分のない指揮者です。メータはインド生まれですが、もともとはウィーン国立音楽大学でハンス・スワロフスキーに師事した、いわばウィーン育ち。アバドもイタリア人ですが同じウィーン国立音楽大学で学びスワロフスキー門下ということで兄弟弟子。かつては小澤征爾とともに若手三羽烏と称された三人。メータは他の二人に較べ一時期はやや精彩を欠いた印象もありましたが、ここのところ成熟度を深め特にこのウィーン・フィルとは随一の相性を示しています。この日も、見るからに団員の崇敬を集めている様子が感じ取れますし、聴衆の人気も限りなく熱い。この組み合わせはいま望みうるなかで最高のもののひとつであることは間違いありません。

ソリストは第二楽章のところで入場。

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ソプラノのヒェン・ライス(Chen Reiss 発音表記に自信はありません)は、イスラエル生まれの美貌のソプラノでここのところメーターがよく起用し人気急上昇。「ばらの騎士」ゾフィー、「ジークフリート」森の小鳥などが当たり役で、伸びの良い美声は天から降りてくる天使の啓示のようで、一方のエリザベート・クールマンの地底から佇立するかのような深々とした叡智にあふれた声と素晴らしい対比を聴かせてくれるのです。こんな形でクールマンの歌唱が聴けるだけでも幸せです。

「原光」の厳かで崇高な調べから、ステージ外からのこだまのような金管コラールは、ムジークフェラインの空気を一遍に澄み切ったものに変えてしまいます。二階正面バルコニーからはステージが遠景のように見えるだけにすーっとホールの天井も壁が意識されないように夢幻の空間が拡がっていくのです。ホールの響きは上から降ってくるだけでなく下からも湧き上がってくる。ふっと重力の意識が無くなってしまうような高揚感に包まれます。

終楽章のクライマックスは、さながら大宇宙のよう。合唱、オルガンが加わったトゥッティははちきれんばかりの大音量ですが、突き抜けるように無限の大空間へと放射されていくかのよう。奇蹟のような音響体験に身が震えました。1階席で聴いた妻は「床が震えるようだった」と興奮で顔を紅潮させていました。この床が振動し音で身を包まれるという感覚はムジークフェライン独特のもの。これを体験できなかったのは至極残念ですが、2階席の宇宙の中心に居るかのような浮遊感も、メータによる「復活」ならではのものだったのかもしれません。

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終演直後の客席は、騒然とした興奮に包まれまるでホールが揺れるよう。ようやくその騒ぎもおさまり興奮の余韻のなかで階段を下りながら窓の外を見ると楽友協会前とカールス広場との間の大通りは人で埋まっています。

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外に出てわかったのですが市民マラソンのスタート地点となって大変な喧噪の世界。これが完全に遮音されていたのは驚き。まさに奇蹟のようなホールだと思いました。





ウィーン芸術週間コンサート
2016年5月8日(日) 11:00
ウィーン 楽友協会大ホール

マーラー:交響曲第2番ハ短調「復活」

指揮:ズービン・メータ
ソプラノ:ヒェン・ライス
アルト:エリーザベト・クールマン
合唱:ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
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