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エリーザベト・レオンスカヤ~シューベルト・チクルス Ⅲ [コンサート]

レオンスカヤのシューベルト・チクルス。実は第二回はよんどころない事情があってスキップしてしまいました。二週間全6日にわたる全曲演奏は、ほぼ2日おきのコンサート。弾く方はもちろんですが、聴く方にもなかなかの負担です。皆勤とならなかったことは不本意です。

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3日目のプログラムの第1曲目は、第2番のソナタ。初日の第1番から半年後に書かれたソナタ。これも第1番と同じで未完成のソナタでした。レオンスカヤは、補完として第4楽章にハ長調のアレグレットD346を弾きました。このことは、シューベルト全集(ウィーン原典版)を補筆完成させたマルティーノ・ティリモの全集盤でもそうなっていて確立した慣習となっているようです。もっともティリモは、別の選択肢としてメヌエット・イ短調D279も提示しています。

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このソナタもいかにも初期のソナタという風で、いささか杓子定規な開始なのですが、第1番に較べるとはるかに骨太で堂々たる風格をも持ち合わせています。レオンスカヤも、多少指の回りが不安定なところはありますが、堂々たる滑り出し。シューベルトの初期ソナタがいくらウィーン古典派にならうものだと言っても、その規模や劇的な技巧はやはりすでにロマン派時代の作曲家なのだと改めて納得させるものがあります。決して指慣らし的な曲ではありません。そのまますぐに第2楽章に入ろうとしたレオンスカヤですが、遅刻してきた客を会場に入れたために、一度、手を止めて客席が落ち着くまで待たざるを得ませんでした。

続いての第13番は、中期の作品で、いかにもシューベルトらしい作風が芽吹いています。番号こそ13番目ですが、それまではなかなかソナタとしての構成を完成できず、楽章を欠いた“未完成”やソナタと名乗ることのない“小曲集”の楽譜が累々と重ねられます。この13番目は、完成されたソナタとしては4番目のもの。後期のソナタが4楽章の構成になるのに対して、このソナタは3楽章。けれども、その軽さがこのソナタの女性的な愛らしさを湛えた魅力になっているような気がします。

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リヒテルは、西側デビュー間もない最初期にEMIにこの曲を録れています。「さすらい人幻想曲」とカップリングされた1963年録音のアルバムはフランスACCディスク大賞を受賞していますが、「さすらい人」は名演名盤として記憶されていてもソナタの方は印象が薄いのではないでしょうか。実際、聴き直してみるとこの曲の愛らしさが不足して骨がごつごつした硬い演奏だとの印象を受けます。アンダンテも過度に耽溺的で瞑想的です。

レオンスカヤは、女性らしい叙情味あふれる可憐なシューベルトで見事でした。ヤマハもほんとうにこの曲にぴったりの透明度の高い柔らかで滑らかな肌合いを感じさせて魅力的。リヒテルのピアノのように重くいかり肩になるところがなく、均質で楚々とした小輪の花が咲き誇る桜のような情緒があります。そのことは第1楽章が始まってすぐに現れ、アンダンテで穏やかなたたずまいを見せて移ろいゆき、最後のアレグロであわただしく華麗に散っていきます。シューベルトの魅力あふれるレオンスカヤのピアノでした。

16番のソナタは、やはり傑作の森ともいうべき1825年の作曲で、生前に出版された最初のピアノ・ソナタ。作曲者にとっても自信作だったそうで、こうして聴いてみるとなるほど紛う方なき傑作だと思います。この曲も、ポリーニが「さすらい人幻想曲」の相方に録れています。1973年11月ローマRCAスタジオでの録音でした。

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イ短調ではあっても、晩年のソナタのような深刻さはなく、中期のシューベルトらしい叙情や詩情に溢れています。第1楽章は堂々たるソナタ。第2楽章を聴き始めて、それが変奏曲になっていると感じてはっとした。レオンスカヤの主題旋律の提示がとても女性らしい愛らしさがあって変奏曲の彩がとても引き立つ。

シューベルトの変奏曲はすべて傑作。もはやシューベルトはピアノソナタに変奏曲を持ち込むことをためらわなかったのか…?ところが、解説によると実はこればシューベルトの全ソナタ中唯一の変奏曲なのだそうです。そういえば、「さすらい人」もヴァイオリンとピアノのための曲も、シューベルトは“ソナタ”とせずに“幻想曲”にしてしまったのですね。。

続く第3楽章の田園的でリズミカルなスケルツォ、そして第4楽章の転調を繰り返すロンドも、ソナタの楽章構成として完璧。晩年の独自の心境と再現のないような心情の移ろいをすべて満々と湛える器はここで完成されていた…そういう静かな感動が胸のなかに広がっていきました。







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エリーザベト・レオンスカヤ (ピアノ)
~シューベルト・チクルス Ⅲ

2018年4月8日(水) 11:00
東京・上野 東京文化会館小ホール
(J列23番)

シューベルト:
  ピアノ・ソナタ 第2番 ハ長調 D279
   I. Allegro moderato
   II. Andante
   III. Menuetto. Allegro vivace
   IV Allegretto D346
  ピアノ・ソナタ 第13番 イ長調 D664
   I. Allegro moderato
   II. Andante
   III. Allegro
  ピアノ・ソナタ 第16番 イ短調 D845
   I. Moderato
   II. Andante poco mosso
   III. Scherzo. Allegro vivace
   IV. Rondo. Allegro vivace

 [アンコール]
 シューベルト:5つのピアノ曲 D459a より 第3番 Adagio
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