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年の瀬のゴルトベルク (鈴木理賀 チェンバロ演奏会) [コンサート]

このところ、とても小さなリサイタルスペースの近江楽堂にすっかり目覚めてしまって、今年11月以来、このホールでの3度目のコンサート。

きっかけはWAONレーベルの新しいCDの記念演奏会でした。その時に手にしたちらしで目にしたのが、このゴルトベルク変奏曲だけのリサイタル。

ああ、年末のゴルトベルクというのも久しぶりにいいなぁと思ってチケットを買い求めました。年末恒例といえば、何と言っても第九。あるいは、クリスマスのメサイア。そういう大がかりなイベントに少しばかり抵抗して、学生時代に年末恒例に定めたのが上野の小ホールでの小林道夫さんのゴルトベルク変奏曲演奏会でした。小林さんは今でもそれを続けておられて、今年で何と49回目。一度も欠かしていないそうです。それを知ったのは、このリサイタルのチケットを買い求めた後でした。

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それでも、この60席限定の小さくて、古楽にふさわしい響きのスペースでチェンバロが聴いてみたいという思いは変わりません。こういう間近な距離でチェンバロの響きを聴ける機会はあまりないと思ったからです。

あのアリアが弾き始められると、ほんとうに素晴らしい音色に心打たれました。

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楽器はミートケのジャーマンタイプのレプリカ。ブルース・ケネディ1995年製作とあります。装飾も少なくシンプルなプロポーション。対位法の絡み合う旋律線が鮮明であることはジャーマンタイプの特徴ですが、特に、この楽器は透明感があって美しく、ジャリジャリとかガシャガシャといったチェンバロ特有の雑音がほとんどありません。簡素で美しい音色はまるでオルゴールのようです。

鈴木さんのアリアも、そういう楽器の音色にふさわしく、ゆっくりと静謐な情感のこもったもの。

演奏は、とても丁寧で真摯なもの。変奏毎に自ら譜めくりをしながらの演奏で、繰り返しは一切ありませんでした。それだけに簡素で飾り気のない印象です。休憩なしで1時間足らず。とてもシンプル。

こういう難技巧の大曲でも難なく弾きこなす若手がどんどん出てくる時代になりましたが、技巧やスタミナ、あるいは、あれこれと強弱や装飾の変化の限りを見せつけたり、ことさらに哲学ぶった大家的な演奏が多くなりましたが、鈴木さんのこの演奏はその対極。

正直言って、技術的には高いレベルとは言えない演奏です。簡素で平明に流れるということだけではなく、ところどころ指がうまく回らず、はらはらする場面も少なくなかったのです。第14変奏では落ちる寸前。上下に大きく跳躍し左右の腕を交差させてのトリルというのがうまく乗り切れないのか、三度も最初に戻って助走をつけて跳躍のやり直し。…それでも何事もなかったように続けてしまうということに妙に感心しました。折り返しの第16変奏も、やや間合いを取り損ねて入ってしまい、フランス序曲風の荘重な仕切り直しが不発気味。

昨今の演奏家は技術的に完璧で、それに慣れてしまっている聴衆はキズが多いとなかなか音楽に入っていきにくいものかもしれませんが、この鈴木さんの演奏は、むしろ、そういう大曲への挑戦というのか、献身的な忠誠心というものを感じさせて、むしろ、聴き手にどこか心の居ずまいをたださずにはいられないような気持ちを促すところがあります。ひたむきに大バッハに向き合うという姿勢には胸を打つものがあります。

演奏が終わってみると、とても爽やかな気持ちが後を引きます。

コロナで明け暮れた、とても気持ちの持ちようが難しい一年でしたが、来年こそは元通りの平穏な日常を取り戻したい…そういう、祈りの歌をいただいたような暖かい気持ちになりました。

会場の拍手もとても親密で心のこもったもの。しめくくりの鈴木さんのスピーチも謙虚で胸を熱くさせるものでした。





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鈴木理賀 チェンバロ演奏会
ゴルトベルク変奏曲 BWV988
2020年12月28日(月) 14:00~
東京・初台 東京オペラシティ 近江楽堂
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