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「モーツァルト」(岡田暁生著)読了 [読書]

「楽しいのに寂しい、強いのに壊れそう」

モーツァルトの音楽の魅力を、そう喝破したのは「ミスター」こと巨人の長嶋茂雄さんだそうだ。

長嶋さんは、立教時代や巨人に入ったばかりの頃に、よくモーツァルトを聴いていたという。同じ曲が、ある時は自分を元気付け、ある時はあちらから悲し気に共感をもとめてくるのが不思議だったと言っているそうだ。そのあまりに当を射たモーツァルト像に驚嘆したと対談した指揮者の井上道義氏がエッセイに書いているそうだ。

著者自身が述べているようにモーツァルト本はあまりに多い。それでも多くの人々がモーツァルトの音楽あるいはその人となりを知りたがるのは、それだけモーツァルトの音楽が魅力的だからだろう。

ところが、あまたあるモーツァルト論だが、《具体的に》その天才と魅力を解き明かしたいという気持ちを満足させてくれるものがなかなかない。

確かに、「疾走する哀しみ」などと言われても、もはやいかにも陳腐で、そういう受け売りを得意満面に言われれば加齢臭すら漂ってくる。レトリックが過剰で、余計な言葉を連ねすぎている。「モーツァルトの音楽の輝くシンプルさは、言葉の余剰と空回りをあっという間に浮き上がらせてしまう」というわけだ。

本書は、そのモーツァルトの音楽の魅力、人間モーツァルトの身近な葛藤と活気にあふれた才気、そういう天才を生み育んだ家庭や時代背景などなどを、より具体的に解き明かしていく。中味は、とっつきやすくて読みやすい軽さがあって、しかも、要点を外さずなかなか要領を得たもの。

例えば、自分の教育メソッドの証しとして自分の子供を天才神童ショー化して旅から旅へと連れ回したステージ・パパの存在。

モーツァルトの音楽の魅力のひとつはシンプルな原理の和声や音階の自在な展開だし、神童と周囲からもてはやされた少年の人なつこさに満ちている。しかも、「魔笛」のザラストロや「ドン・ジョバンニ」の騎士の石像など、常に「厳父」への畏怖ともいうべきコンプレックスの影が落ちている。喜遊と悲哀との跳躍、往還の魅力は、まるで命綱をつけないスタントマンのようだという。そういう著者が語るモーツァルトの魅力、美意識は、シンプルにモーツァルトの人生や人格形成と直結している。

モーツァルトが好きで、そこそこの曲ならちょっと鼻歌程度には思い浮かべることができるけど、今ひとつその魅力を渉猟しつくした気がしていない。かといって、文学過剰、知識過剰の重たいマウンティングもご免こうむりたい…

そういうモーツァルト・ファンには、是非、一読をおすすめします。



モーツァルト_1.jpg

よみがえる天才3
モーツァルト
岡田暁生 著
ちくまフリマー新書
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