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「日本史の論点」(中公新書編集部編) 読了 [読書]

歴史研究は、新資料の発見や論考など日々更新され蓄積されていく。特に、日本史は、戦前の皇国史観から戦後の占領政策へと教育内容が一変しているだけに、その解釈の変転が著しい。本書は、古代から現代まで各時代の論点ととなるテーマをあげて、最新の研究成果を紹介するというもの。

まず構成と執筆者を一覧すると…

第1章:古代 3世紀初頭~1086(院政開始)         倉本一宏
第2章:中世 1086~1573(室町幕府の滅亡)         今谷 明
第3章:近世 1573~1867(大政奉還)            大石 学
第4章:近代 1867~1945(終戦)             清水唯一朗
第5章:現代 1945~                    宮城大蔵

やはり面白いのは、第1章の《古代》。

「論点1・邪馬台国はどこにあったか」は、要するに九州北部説。そこでのシャーマニズム的集落国家であって、古代国家の源流となる畿内の大和政権との関連性は見いだせないとのこと。そういう素っ気なさは、一方で本書全体の誠実な研究姿勢を象徴している。

そうであっても、「論点2・大王はどこまでたどれるか」あるいは「論点2・大化改新はあったのか、なかったのか」「論点4・女帝と道鏡は何を目指していたのか」といった論点は新鮮だ。戦後教育を受けた私たちの世代であっても《万世一系》や颯爽たる《改新》、《悪人・道鏡》を教え込まれていたからだ。

第2章《中世》もなかなか面白い。

そもそも「中世」という言葉自体が、西洋史学を国史に当てはめたものだと気づかされると、明治以来の日本史研究はそうとうに歪んだものだったと思い当たる。「論点3・元寇勝利の理由は神風なのか」も、《神風》どころか台風でさえなかったと言われて、これは目からウロコ。

第3章《近世》は、江戸時代というものの大いなる価値を納得させられる。

《明治維新》を強調するあまり江戸時代の社会的・文化的な成熟と蓄積が意図的に隠蔽、軽視される傾向は戦前・戦後にかかわらず続いていたけれど、最近の歴史ブームが私たちの知識を豊かにしてくれて、大いに新たな《江戸時代観》を醸成したのだと思う。この章は、それだけに読みやすく面白い。「論点7・明治維新は江戸の否定か、江戸の達成か」などを読むとつくづく江戸時代の恩恵を近現代の日本は受けているのだと痛感させられる。

第4章《近代》は、現代の日本を考えさせられる多くの論点を提示している。

「論点1・明治維新は革命だったのか」は、前章の視点を引き継ぐものでやや重複感が否めないが、江戸時代を「封建制」と決めつけるのがいかに浅薄かということを納得させられるのが「論点2・なぜ官僚主導の近代国家が生まれたのか」だ。そこを踏まえると、この章で、とても重要な論点だと思えてくるのが「論点3・大正デモクラシーとは何だったのか」だ。大戦への反省という意味で、ここの論点は今後もっと論じられてはよいのではないか。

第5章《現代》は、残念ながらいかにも見劣りする。

いわゆる《歴史認識の問題》(例えば「侵略戦争か防衛戦争か」など)も、第4章と第5章との狭間に抜け落ちている。戦後の「吉田路線」も「田中角栄」論も、いい尽くされた範囲を越えておらず《論点》になっていない。ましてや「高度成長」のどこが論点なのかさえわからない。

唯一、論点らしい論点は、「論点5・象徴天皇制はなぜ続いているのか」なのだが、前章の近世・近代との連携もなく、「護憲か改憲か」の視点にも欠けていて、今後への問題意識も皆無。個人的には、この問題に関しては、そろそろ「平成天皇は名君か、凡君か」ということも論じ始めても良いのではないかと思っている。《象徴天皇》は、確かに言葉としては占領下の憲法の作文だが、その実質は、戦後社会と皇室が不断の努力を積み重ねて磨き上げ定着させてきたものではないかと痛感するからだ。



歴史を学びたい人、論ずるのが好きな人にはなかなかの好著で、しかも取っつきやすい。巻末の『日本史をつかむための百冊』も実用的。


日本史の論点_1.jpg

日本史の論点
―邪馬台国から象徴天皇制まで
中公新書編集部編
中公新書

タグ:日本史
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