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コクがあるのに、キレがある (諏訪内晶子 無伴奏ヴァイオリン・リサイタル) [コンサート]

諏訪内晶子さんの一人旅。

久しぶりの諏訪内さんだけれども、今まではコンチェルトばかりでオーケストラとの協演でしたが、今回はソロ。しかも無伴奏だし、小ホールで間近に聴けます。

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さらにもう一つ大きく違っていたのは楽器でした。

これまで諏訪内さんは、日本音楽財団から貸与されたストラディヴァリウスの「ドルフィン」。ハイフェッツも愛用した名器中の名器で、20年近くこれを使い続けていましたので諏訪内さんといえば「ドルフィン」というほど一体となった音のイメージがありました。

昨年、諏訪内さんはついにこの「ドルフィン」を返却し、新たに日系米人のDr.Ryuji Uenoより長期貸与された1732年製作のグァルネリ・デル・ジェズ「チャールズ・リード」を弾いているそうです。今夜はその音を確かめることになります。

諏訪内さんは、これまでコンチェルトが主体の活動で、ディスコグラフィーを見てもコンチェルトの他はヴィルトゥオーゾ的な名曲がほとんど。ベートーヴェンなどの大作曲家のソナタや室内楽は、これほどの世界的なヴァイオリニストなのにとても少ない。その諏訪内さんが、バッハの無伴奏全曲をリリースするという。すでに録音を終えていますが、今回のツアーはそれに先行するものとなります。

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プログラムの前半は、パルティータの2曲。

3番のパルティータは、軽やかで華やかな曲。バッハの曲のなかでもとびきり親しみやすく、曲集としては最後の曲ですが、この一夜のプログラムの入口としてはとても入りやすい。1番は、それに対して、荘重なアルマンドから始まります。重音奏法がふんだんに取り込まれています。諏訪内さんの重音は、あらゆるヴァイオリニストのなかで特段の響きの美しさがあって、聴くものにとってある種の陶酔を呼びます。

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プログラム前半は、『また再び出会いましたね…』というのか、お互いの近況を確かめるかのような感覚。確かな存在を実感しつつ、知らずに話しが弾みあっという間に時間が過ぎてしまいます。諏訪内さんは、一切の繰り返しをしません。どこかに拘泥したり、滞留することなく、一曲、一曲ではなくて、プログラム全体を構成しその流れを作っていくかのよう。

そのことが、とても成功していると納得したのは、後半になってから。

前半は序段のようなもの。後半は、1番のソナタのとてつもなく大きなフーガの峠道を越え、さらに最終曲としてそびえ立つあのシャコンヌの高揚に到達するのです。そういう毅然とした奏風と華麗にして荘重なバッハの音楽世界にすっかり魅入られてしまいました。

新しく手にされたグァルネリ・デル・ジェズの音は素晴らしかった。以前のストラディヴァリウスには、凜とした光沢があって、それが白熱とでもいうのかちょっと氷のような冷たい透明感もともない、それが私の諏訪内晶子さんのイメージだったのです。ところが新しく手にされたグァルネリは、華やかで薫り高く、しかもその色合いは琥珀のような飴色で艶にもコクがある。それでいて諏訪内さんらしい重音のキレが鮮やか。これこそ本来の諏訪内さんの音楽という印象さえ帯びています。この楽器を手にしたことによって、その音楽にさらに熟成味を深めていくだろうと確信させるものがあります。

これだけの大曲の後なのでアンコールは無しかと思っていましたが、アンコールは2番のソナタのアンダンテ。10年ほど前にゲルギエフ/ロンドン響との協演を聴きましたが、あの時もアンコールはこの曲でした。頂点を極めた後の安堵に満ちた下山道のおぼつかない足元を確かめるような静かな足取りに心打たれました。


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土曜ソワレシリーズ《女神との出逢い》  第296回
諏訪内晶子
無伴奏ヴァイオリン・リサイタル
2021年10月16日(土) 17:00~
横浜市・青葉台 青葉区民文化センター フィリアホール
(2階L列16番)

諏訪内晶子:ヴァイオリン


J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ&パルティータよい
 パルティータ第3番ホ長調 BWV1006
 パルティータ第1番ロ短調 BWV1002

 ソナタ第1番ト短調 BWV1001
 パルティータ第2番ニ短調 BWV1004

(アンコール)
 ソナタ第2番イ短調 BWV1003より アンダンテ
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