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コロナ感染禍を超えて (紀尾井ホール管弦楽団定期) [コンサート]

アンデルシェフスキーが指揮も兼ねるとのアナウンスを早呑み込みしていたので、最初のプロコフィエフが指揮者なしでいきなり始まったことに度肝を抜かれました。

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この曲は、楽団10周年の記念公演(当時:紀尾井シンフォニエッタ東京)で、やはり、指揮者なしで演奏されました。当時は、この難曲を指揮者なしで演奏することは《挑戦》でした。当時のリーダーだった澤和樹氏(現・東京芸大学長)らが「確かに挑戦だけれど、自発性の出てきた楽団にとって、メンバーの気持ちをさらに高めて、お客さんに喜んでもらいたい」ということを述べています。実際に、終演となったときにメンバー全員が満面の笑みで互いに握手して健闘をたたえ合った姿を感動をもって眺めていたことを今でもよく覚えています。

だから、この曲を皮切りにいきなりの快演を聴かせてくれたことには、驚喜し爽快な思いもしました。しかも、休憩後の1曲は、ルトスワフスキの「小組曲」のオリジナル室内オーケストラ版という、おそらくメンバーの誰もが初挑戦の現代曲。それをプロコフィエフにも勝る洒脱で活気にあふれた快演。プロコフィエフでのティンパニ、ルトスワフスキでのドラムと弾き分けた武藤厚の快気炎ぶりは特筆に値します。

もちろん指揮者なしの演奏は今では珍しいことではなくなりましたが、この新型コロナウィルス感染禍で、正指揮者のホーネックでさえ来日が難しくなり制約の大きい公演が続いていただけに、指揮者なしという公演にはまた新たな達成感を覚えるのです。

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ところが、そんな快演をさらに上回る鮮度の高さを聴かせてくれたのが、ゲストのアンデルシェフスキの指揮振りによるモーツァルト。

最初の12番の協奏曲は、耳にする機会は決して多くはないのですが、鳴り始めた途端に晴れやかなモーツァルトへの懐かしさが胸いっぱいに拡がります。

オーボエとホルンだけのシンプルなオーケストラは、まるで弦楽四重奏のように室内楽的で自発的。それが、ピアノの繊細でいてとても明快な粒立ちで転がりこぼれ落ちるように駆けめぐる楽想と、時には融け合い、掛け合い、一体となって走り回る。アンダンテのピアノの音色の繊細なこと。うっとりするほど美しい。そして、いたずらっぽくて親近感がこもったロンド・アレグレットの軽妙な喜び。

逆に、最後の24番は数限りないほどの演奏を聴いてきた名曲中の名曲なのに、初めてこの曲を聴いたかのような新鮮な驚きを覚えました。

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ピアノはオーケストラに相対するように置かれます。つまり、ピアニストは聴衆に背を向ける形。ピアノの天蓋ははずされてむき出し。それがかえって、音の粒立ちを鮮明にさせて繊細な小さな音がはっきりと表情豊かに聞こえてくるのは不思議なほど。ピアノは、ステージの空間でオーケストラと融け合うように一体となって聞こえる。掛け合いも同等、ピアノがオーケストラのサポートに回る場面でもよく聴き分けられることにも不思議を感じます。音というのは、音圧の空間合成なんだということを痛感します。だからアンサンブルの躍動に深みがあって楽しくて楽しくてたまらない。まるで身体の経脈にあるツボを駆けめぐるように押されているような快感を覚えます。

だから、ハ短調なのに晴朗そのもの。よく言われるようなデモーニッシュな暗い情熱だなんて微塵も感じません。だから別の新しい曲を発見したような驚きさえ走ります。そういう晴朗さのなかの哀感こそモーツァルト。調性という古典派が開発し駆使した、それまではなかった鮮烈なテンペラメントを描き出す顔料の登場に出くわした衝撃のようなものが身体中に浸透していきます。だからこそ、最終楽章はロンドではなくて変奏曲だったんだ!そんなことさえ初めて知ったような気分です。

アンコールも楽しかった。最高のエンターテイメント。そうだったんだね、ハイドンはモーツァルトさんのパパなんだ!

アンデルシェフスキ、素晴らしい才能です。

紀尾井ホール室内管にとっては、この2年間は試練だったはず。でも、本来の室内オーケストラらしいミニマルな編成の曲ばかり(最大の編成は、なんと最後のモーツァルト!)。そして、指揮者なし、あるいは弾き振りと、たったひとりのゲストだけという最大の効率性。試練を乗り越えてこその、このオーケストラへの期待がいちだんと高揚してきます。久々の東京の秋晴れにふさわしい素晴らしい公演でした。






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紀尾井ホール室内管弦楽団 第128回定期演奏会
2021年11月6日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列13番)

ピョートル・アンデルシェフスキ 指揮・ピアノ
玉井 菜採 コンサートマスター
紀尾井ホール室内管弦楽団

プロコフィエフ:交響曲第1番ニ長調《古典交響曲》op.25(指揮なし)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番イ長調 K.414

ルトスワフスキ:室内オーケストラのための小組曲(1950年オリジナル版)(指揮なし)
モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調 K.491

(アンコール)
ハイドン:ピアノ協奏曲ニ長調Hob.XVIII:11より第3楽章 ハンガリー風ロンド

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