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バッティングセンターのピアニスト 實川風 (芸劇 名曲リサイタル・サロン) [コンサート]

プロの、しかもトップクラスのピアニストのポジションニングの難しさということに、ちょっと考えさせられてしまいました。

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この日のゲストは實川 風(じつかわ かおる)さん。八塩圭子さんのインタビューにもはきはきと応え、物怖じせず快活によく語ります。なんでも野球が好きとのことで、趣味というのか気晴らしによくバッティングセンターに行くそうです。見るからに健全そうな好青年。

実は、この日は予定されていた福間洸太朗さんがコロナ感染の影響で来日の目処が立たず、實川さんは急遽ピンチヒッターに立ったというわけです。プログラムは、そのせいか、ちょっと脈絡が見えにくい。それでも《北欧から東欧への音楽の旅》ということなんだそうです。

シベリウスの「ロマンス」は、きれいな音でさらりと弾き終わる。ショパンの「大ポロネーズ」もなかなかの大曲だし、ポーランドの民族舞踊を踏まえたショパンの力作だし、指さばきは華麗ですが、やっぱり聴き終えた余韻はあっさりとしています。

こういう印象は、チャイコフスキーの珍しい「ロシアの農村風景」でも同じ。《ドゥムカ》というのはいわば「バラード」のポーランド版で叙事的な民謡を踏まえたもの。ドヴォルザークのピアノトリオ『ドゥムキー』がおなじみ。

バルトークの「ルーマニア民族舞曲」を聴くに至って、なるほどと思いました。ショパン以下は、いわば民俗色の強い音楽ばかり。ヨーロッパの国々を巡る旅というわけです。

同時に、この好青年の弾くピアノへの印象の意味合いも飲み込めた気がしました。そういう曲ばかりのはずなのに、作曲家の持つ強烈な郷土愛とか郷愁とか、あるいはそれぞれの国や民族の土臭い粘っこい愛着が感じられない。バルトークのソナタなど、呆れるほど見事に指が回り、リズムもしっかりしている。でも、楽器の音量とかダイナミックスが不足していて、どうも胸に浸透してこない。楽器が響かないのです。強弱の起伏や色彩の絢もいまひとつ届いてこない。いつにも増して、この芸術劇場の大ホールで室内楽を聴くことの歯がゆさを感じてしまうのです。

どこか控えの二番手…という印象の薄さが拭えない。かといってトップクラスの実力を持つピアニストであることは間違いない。ピアニストというのは、ちょっとした町の先生でも素人の聴き手にとっては、驚くほどの実力者がたくさん居て、トッププロとも聴き分けが難しいほど。音楽教室の先生ということで終わるはずはないキャリアだし、こうして、ピンチヒッターとはいえ晴れ舞台にも立つ。でも聴衆をあっと言わせるほどではない。独特の味とかユニークなキャラクターとか、独自のこだわりのレパートリーがあるわけでもない。

そういうピアニストって、どうやってキャリアを展開していくんだろう…と、ついそんなことを考えてしまったのです。


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芸劇ブランチコンサート 名曲リサイタル・サロン
第15回 實川 風(じつかわ かおる)
2021年11月10日(水)11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階J列17番)

シベリウス:ロマンス 変ニ長調 op.24-9
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ op.22
チャイコフスキー:ドゥムカ~ロシアの農村風景~ハ短調 op.59
バルトーク:6つのルーマニア民俗舞曲
      ピアノ・ソナタ ホ長調

ピアノ:實川 風
ナビゲーター:八塩圭子

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