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この夜にあったことなど… (ファビオ・ルイージ N響定期) [コンサート]

久しぶりにオーケストラコンサートに出かけました。

N響の首席指揮者にファビオ・ルイージが就任することが決まったとのこと。そのルイージがさっそくお披露目ということで、ご無沙汰しているN響定期に出かけてみようと思い立ったのです。それと、NHKホールの大改修ということもあって、当面、池袋の東京芸術劇場での公演がメインになるとか。池袋なら地の利もあるし、N響があのホールをどんな風に鳴らすのか、そこにも興味が湧いたという次第。

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ところが、プログラムを見ているうちに、ついBプログラムをポチっと。Aプロは、ブルックナーのモノカルチャー。Bプロには、ソリストにフランチェスカ・デゴがパガニーニを演るというし、メインのチャイコフスキーとルイージのちょっとしたミスマッチ感にも惹かれてしまったのです。Bプロが、芸劇ではなくサントリーホールだということをうっかりしました。…というわけで、サントリーホールも久しぶり。

デゴさんは、もうステージに立っただけでドキリとするほどの、イタリアン・ビューティ。すらりとした長躯は、モデルとも見まごうほど。ところがロングドレスに余裕のある笑みと仕草はとても品があって地味なほどに控えめ。使用楽器は、クレモナのフランチェスコ・ルジェッリ(1697年製)だそうだ。先日聴いた諏訪内晶子さんのグァルネリ・デ・ジュスに較べると華やかさ妖艶さは控えめ。むしろ琥珀のような飴色の味わい深い音色だし、音量もさほど大きくないところはアマティのイメージに近い。

パガニーニというと、ド派手なアクロバティックな技巧をどうだとばかりの身振りで演奏されると思い込んでいましたが、デゴの演奏はここでも控えめ。

最初は、ちょっと期待外れというような居心地の悪さを感じていたのですが、曲が進み聴くほどにどんどんとひきこまれていきます。パガニーニという人は、熱狂的な人気があったと伝えられるようには派手なヴィルトゥオーゾということではなくて、けっこう遅咲きだったそうです。とにかくヴァイオリンの新しい奏法技術の開発に一心に取り組んできた人のようです。そういう技術優先のところはあるけれども、音楽表現のツールとしての技術であって必ずしも見てくれの技巧ではない。そういうことがデゴの演奏を聴いているとつくづくとわかる。見かけの美貌とはミスマッチなほどに、玄人好みのヴァイオリニストだという気がします。

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よいヴァイオリニストを知ることができました。ブラーヴァの声をかけられないのが残念。

さて…

ルイージのチャイコフスキーは、出だしは思いのほかゆっくり。クラリネットはもう少し走りたがっているというような…。ルイージには、職人的実務的な即物的イメージもあるし、一方で、数年前のサイトウ・キネンや読響のシュトラウスで見せてくれたかぁーっと燃え上がるような白熱的演奏のイメージもあります。日本人にはとっては、格別の感情移入を呼び込むチャイコフスキーではどうなのか。出だしは実に瞑目的で感情が沈潜するような出だし。

こういうテンポは、弦楽器では同調しやすいのですが、息づかいが難しい木管やホルンではむしろ難度が高くなります。そういう懸念が顕在化したのが第二楽章のホルンでした。ここは、まさにホルンの腕前の見せどころ。聴く方も息をこらしながら聴き入るところですが、どうにも居心地が悪い。ついに、かなり大きなキズを作ってしまいました。初日ということもあって、指揮者の意図やテンポ感がオーケストラには浸透していなかったような気がします。コロナ感染対策の影響で、ルイージは待機期間が確保できずAプロの出演をキャンセルするというハプニングもあったようで、リハーサルも十分ではなかったのでしょう。

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座った席は、二列目の右手。ほぼコントラバスの真横。目の前には第二ヴァイオリン最後列奏者のかたわらに置かれた予備楽器が見えるという位置。ただでさえサントリーホールの1階席は、音が頭上を抜けてしまうのですが、さらに最前列に近いかぶりつきなので反射音中心の遅れ気味の間接音が多くなり芯のないサウンドです。前半のようにソリストのいる協奏曲ではかぶりつきの魅力はあるのですが、後半のようなフルオーケストラ曲では、ここの残響の長さがかえってうらめしくなるほど。もう二度とこのホールには来ないぞ…と、また思ってしまいました。それでも、つい来てしまうのがこのホールなのですが…。

それやこれやで、かなりモゾモゾしながら聴いていたのですが、演奏のほうは次第に熱を帯びてきます。第三楽章のワルツの優雅でメロディ豊かな音楽はチャイコフスキーの真骨頂。ワルツ特有の没入感覚の高まりが冴えます。先ほど不調だと言ったホルンですが、ここではゲシュトップフトの音色にはっとさせられる。クラリネットを始め、そういう木管楽器を中心としたオーケストレーションの色彩感の魅力も炸裂。さすがはN響。

ついに訪れる最終楽章のクライマックス。ロシア民族の輝かしい勝利と民俗大祭典の高まり。N響のメンバーがもう何の遠慮もなく鳴らしに鳴らしまくる。この最前列からかすかに垣間見えるチェロの渡邊方子さんがもう満面に笑みをたたえて嬉しそうに激しく弓を動かしている。チャイコフスキーは、ベートーヴェンばりに運命とそれに打ち克つ勝利のストーリーを描いている。ルイージは、全四楽章にわたるそういう長い長い構成の起伏を企図していたのでしょう。素晴らしいフィナーレです。

サントリーホールの客席は大盛り上がり。

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何度も繰り返しルイージを呼び出します。ついには団員が去ったステージに、コンサートマスターの篠崎史紀さんの介添えを得てルイージが登壇。はにかんだようなチャーミングな笑顔を見せながら、何度も答礼を繰り返していました。新しい首席指揮者を迎える素晴らしい歓迎の拍手。高齢化が進むN響定期会員と思いこんでいましたが、こんなに率直で若々しいオーディエンスに変身していたとは…とても意外に思えたほど。

だから、客席にもブラヴォーです。





NHK交響楽団
第1944回 定期公演 Bプログラム
2021年11月24日(水)19:00~
東京・赤坂 サントリーホール
(1階2列33番)

指揮:ファビオ・ルイージ
コンサートマスター:篠崎史紀
ヴァイオリン:フランチェスカ・デゴ

パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調 作品6
(アンコール)
 ジョン・コリリアーノ:レッド・ヴァイオリン・カプリス ― 第4変奏、第5変奏
 
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64

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