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サルビアとショスタコーヴィチ (クァルテット・エクセルシオ) [コンサート]

サルビアホール(音楽ホール)は以前から行ってみたかった音楽会場です。

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100席ほどの小さなホールですが、とても豊かな音響が自慢で室内楽には理想的。弦楽四重奏には最適で、クラシック音楽の演奏会場としてはそこに集中しています。奇しくも東日本大震災の直前に開館しましたが、以来、サルビアホール・クァルテット・シリーズ(SQS)としていくつもの弦楽四重奏団の演奏会が続けられています。毎月1回、3月ずつを1シーズンとして、今回で46シーズン目。

数年前にこの会場のことを知って、一度は行ってみたいと思い続けていましたがなかなか実現しませんでした。そういう敷居を越える機会をいただいたのが友人のコンサートでした。

その初体験が、クァルテット・エクセルシオ。

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このクァルテットは、ペーター・レーゼルや河村尚子との共演など何度かその演奏に接する機会がありましたが、純然たる弦楽四重奏曲の演奏は初めて。しかも、ショスタコーヴィチの厳しい音響。とにかく音量が大きいことに瞠目。大ホールの大空間でステージ上に展開する大編成オーケストラの大音量とは違って、濃密かつ峻厳。とても濃厚な音楽体験となりました。

曲は、いずれも1948年から始まり56年のフルシチョフのスターリン批判まで続いたいわゆる《ジダーノフ批判》の最中に作曲された3曲。プレトークでの梅津紀雄氏の話では、第4番については作曲者はまだ演奏可能であり初演されることを期待していたという。交響曲は無理であっても弦楽四重奏曲なら可能だというわけだ。一方で、第5番ではもはや初演は無理だと思いつつ書いたのだろうとのこと。

聴いてみると、むしろ第4番のほうが外見的な厳しさが勝っていて前衛的な試みを押し出してくる。バルトークばりのシンメトリーなアーチ形式を多用し、緩徐楽章ではヴァイオリン協奏曲のパッサカリアが用いられているし、そこかしこにユダヤ的な要素があって、尖っている。

弦楽四重奏曲というのは、交響曲の原型のような構想も持てるし、一方でとてもプライベートな内向性もある。そのことはベートーヴェンの後期作品でよくわかるが、スターリニズムの下で芸術的自由を奪われ、真情を表現することもままならぬ立場にあったショスタコーヴィチの音楽はとても複雑で一筋縄ではいかないところがあります。

もはや公開演奏は不可能と割り切った第5番では、前衛的な挑戦は大きく後退してむしろ古典的な雰囲気で始まるのに、内的には厳しさを増していて秘められたものも過剰なほどプライベート。ショスタコーヴィチのイニシャル音型を埋め込んだり、当時、作曲者が入れ込んでいた若い女性の弟子への思いが込められたり。前衛というよりは、感情の起伏が激しく俗っぽいまでの変拍子も多出する。楽章が切れ目無く続くだけに、聴き手には高い緊張感を持続することを強いられる。第一楽章と第二楽章との経過部に残るヴァイオリンのフラジオレットの持続音とか、第三楽章の開始を告げるヴィオラなど、目に見える要素も加わって感情が揺すぶられます。爆発するような感情の高ぶりなど凄まじい濃密なトゥッティの高揚感があって、この夜の白眉とも言える演奏でした。

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休憩をはさんでの第6番は、むしろ、雪解けを予感させるような田園的な曲想で少しばかり緊張も緩むような感覚があります。妻を亡くし、子供の養育という現実問題もあって、あの女性弟子に結婚を申し込むもすげなく拒絶され、それで、出会ったばかりの別の女性と再婚という波瀾万丈の私生活だったそうですが、曲そのものは存外、幸福感もほの見えるほどで平穏。第5番で炸裂させた私的感情さえも隠してしまうことに慣れてしまったのか、ほんとうに再婚直後の束の間の幸福感を表しているのか、本心は読み取りにくい。

律儀に作曲の順番通りに演奏されましたが、個人的にはもう少し演奏順に工夫があってもよかったように思えました。

それにしても、エクセルシオの技量の高さ、音量の大きさ、各奏者の感情移入の凄みに圧倒される思いがしました。それも、この弦楽四重奏演奏の隠れた殿堂ともいうべきホールの音響効果があってこそだと思います。サルビアの赤い花とショスタコーヴィチがよく似合うという感じでした。




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ラボ・エクセルシオ ショスタコーヴィチ・シリーズ Vol.2
2022年3月14日(月) 19:00~
横浜市鶴見 サルビアホール
(C列10番)

クァルテット・エクセルシオ
西野 ゆか 北見 春菜  (Vn)
吉田 有紀子 (Va) 大友 肇 (Vc)

ショスタコーヴィチ:
弦楽四重奏曲 第4番 ニ長調 Op.83
弦楽四重奏曲 第5番 変ロ長調 Op.92

弦楽四重奏曲 第6番 ト長調 Op.101
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