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「天皇と日本の起源」(遠山 美都男 著)読了 [読書]

このところ立て続けにこの著者の本を読んでいる。

本書は、「天皇」という称号や日本独自の元号、国名としての「日本」が成立した飛鳥時代から奈良時代にかけての国家形成の軌跡を描く。それは、即ち、推古・厩戸から天武・持統まで、王家の人々の足跡とその継承をめぐる権謀と動乱の過程でもある。

著者は、その中心に「飛鳥」という土地と王宮、王都の建設を置く。上代期は、即位のたびにその住居、執務場所を新設・遷移した。その意味は何だったのか。そして、それはやがて時代を経るにつれて本格的な王宮、あるいは、さらには大規模な都城の建設へと進化していき恒常的な王都建設へと発展していく。それは、すなわち国家観の形成そのものに直結している。

この時代には女性君主を多く輩出しているという点でも特異な時代。著者は、特に、推古、皇極(重祚して斉明)、孝謙(重祚して称徳)という三人の女帝に着目する。それは、この三人の在位が長かったというにとどまらず、何よりも都城建設に大きな力を注いでいたと強調する。言い換えれば、これらの女性天皇たちこそが国家形成の主役だったという言うわけだ。

そういう着目はとても面白い。女性君主は、時間稼ぎの暫定傀儡だったという定説にも真っ向から挑む。斉明天皇は、蝦夷平定により日本統一国家を確立し、その勢いを借りて朝鮮半島にも野望を抱き軍事介入する。中大兄皇子は、母帝の遠征に筑紫まで付き随い、その客死後、未即位(称制)のままその失敗の後始末に追われることになる。あるいは天武天皇は飛鳥京を制圧確保することで壬申の乱を勝ち抜き、諸豪族を超越することで「天皇」を号することになるが、その「倭京」から本格的な都城建設に邁進したのは、孝徳天皇だったという。女帝の政治的野心はすべからく都城建設を動機としていたという。

着目は面白いが、説得力には欠ける。

従来の定説を批判するが、根拠が無いと否定するものの反論にもさしたる根拠がなく、あくまでも解釈の問題だから。状況証拠からどう読み取るかということでは従来説を否定したところで、別の読み取り方をしているに過ぎない。本当に専制君主だったのか、あるいは神輿に担がれていただけなのか、後付けの歴史観に粉飾された文献から判断するのは難しい。女性軽視の偏見だと切り込んでみても、今様のフェミニズムの主張だと言い返されればお互い様としか言い様がない。要するに新しい物的証拠も、覆すような新証言も無いのだ。

平成になって様々な発掘もあり、あらたな科学的解析技術も考古学に導入されている。木簡など、同時代の文献・記録の発見もあった。日本の上代史も、そろそろ歴史観批判の時代ではないのではないかとも思う。啓蒙書というにもあたらず、かといって発想の転換を促すほどの刺激がある本でもない。



天皇と日本の起源.jpg

天皇と日本の起源
「飛鳥の大王」の謎を解く
遠山 美都男 (著)
講談社(現代新書)

タグ:皇位継承
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