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「誤解しないための日韓関係講義」(木村 幹 著)読了 [読書]

読むと違和感を覚える。それが次第に苛立ちに変わり、やがて怒りにまで成長する。

著者は、日韓関係の悪化の原因は、日本人の誤解、認識不足によるものだと言いたいようだ。あるいは日韓関係を良くするためには日本人はもっと韓国を知るべきだと言いたいのか。多少、ひいき目に見たとしても、日韓関係を気にするのは日本が韓国の現実を知らないからだということだろうか。

特に違和感を覚えるのは、第3章の「植民地」をめぐる話しだ。

著者は、植民地の定義を「他民族支配型植民地」と「移住型植民地」に分けて議論し、「日本は韓国を植民地支配していない」という言説はそういう定義をわきまえない理解不足に基づく主張であり、戦前の日本に文献上「植民地」の文字が無いのは、日本が植民地を「外地」と読み替えたからに過ぎないという。

実際のところは、保守派の主張は、日本の韓国統治は両国間の合意協約に基づく合法的な「併合」であったからだというもの。さらに日本は明治以来の基本的な考え方として欧米列強によるアジア植民支配に反対する立場を持っていた。だから自らの植民地を「外地」と読み替えた。台湾、旧・韓国は、そういう西欧の収奪型ではなく、両国とも日本統治下で教育などインフラ整備や経済発展が得られたではないかというのが保守派の主張だ。

安倍首相(当時)が侵略・戦争を否定し「植民地支配から永遠に訣別し、すべての民族の自決が尊重される世界にしなければならない」と発言したことをもって、安倍ですら植民地支配が「悪しきこと」であったと認めているではないかとの指摘には呆れるしかない。安倍は、《日本の戦争はアジアを欧米植民地支配から解放するものだった》という戦前のレトリックを用いているに過ぎない。安倍は、日本の過去の植民地を植民地と思っていない根っからの植民地主義者だ。著者の引用はまさに噴飯ものだ。

そもそも著者は、日韓関係を良くしようとは微塵も思っていないのではないか。

私自身はかねてから日韓関係はもはや重要ではないと思っている。両国間のあいだにはもう大した課題は残っていない。経済面、安全保障面で互いに利を認める範囲で地域連携を深めればよい。複雑な東アジアの現実の中で、日韓が無条件で親密であることなどあり得ない。むしろ互いに民主主義国家であればあるほど、近ければ近いほど、今以上の連携は難しい。もはや両国関係はさほど重要ではない。

だからこそ「歴史認識」問題への配慮など必要はない。反日感情は、そう簡単には解消しないだろう。しかし、日本人もその理非曲直については、大いにはばかることなく声をあげて反論するべき。だからといって、今の日韓の経済交流、文化交流、ひとりひとりの友情はびくともしないだろう。「配慮外交」はもうやめようということ。

本書にはそういう考えに近い示唆が多い。ならば、そのように明確に言えばよい。ところがなぜかそうならない。

むしろ本書では、管政権時の韓国への半導体材料の輸出規制強化について元徴用工問題への報復処置であると決めつけるような記述を一度ならず繰り返している。それはまさに韓国側の主張そのものだ。しかし問題の本質は、安全保障面での信頼関係にあった。自衛隊機へのレーダー照射問題がきっかけであり、何より対象品目の第三国への横流しのようなコンプライアンス上の深刻な問題もあって事前に何度も改善要請をした上での処置だった。規制強化といっても特別待遇のホワイト国を外す処置であって、即ち普通の手続きを求めるという《格下げ》に過ぎない。本書は、そのことに触れず「報復処置」「規制強化」と繰り返す。日本側の不当な対応と言わんばかり。そういう過剰な反応を招いたのはマスコミのバイアスだと言いつのる。実態は真逆ではないか。

何やら無知な学生に正学を垂れるみたいな形式を取っているが、日韓関係への無知にさらに誤解を吹き込むようなもの。だから苛立ちと怒りが募るばかり。


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誤解しないための日韓関係講義
木村 幹 著
PHP新書

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