河の流れのように (神尾真由子 バッハ パルティータ全曲) [コンサート]
何度聴いても、神尾真由子はすごいヴァイオリニストだと思ってしまいます。しかも、こうして何年かぶりに聴いてみてその進化が著しいとも感じてしまうのです。
バッハのパルティータも、すでに2年前にこの浜離宮朝日ホールで全曲録音しています。後でじっくりと聴いてみましたが、この日の演奏は録音のそれよりさらにまたバージョンアップしていると感じます。つくづく素晴らしいヴァイオリニストです。
バッハといえども構えたような重たい音楽ではありません。第1番のアルマンド冒頭の重音もとてもさりげなく優雅。付点のついたリズムが静かで軽やか。そして、とにかく音色がとても艶やかで美しい。6年前に河村尚子さんとのデュオで聴いたときは、グァルネリ・デル・ジュスを使用していましたが、今は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス(1731年製作「Rubinoff」)を使用しているとのこと。グァルネリの輝くような色彩にも少しも劣ることなく、しかもいかにもストラドらしい深みと繊細さを湛えた美音。今まで聴いた多くのストラディヴァリウスの中でも飛びきりの美音です。
2番目のプレストの《ドゥーブル》は、ほんとうに息も止まるような思いでした。すごい速度でのスケールが鮮やかに、しかも、信じられない滑らかさで疾走していきます。その美麗で優雅なわくわくするようなスリルは格別のもの。この曲に限らず、とにかく一音、一音が明瞭なキレがありながら実に滑らかにつながっている。欧米の演奏家は大なり小なり、ひげ文字(フラクトゥール)のような角張ったドイツ語ですが、神尾さんのはさらさらと美しいひと筆書きのかな文字のように優美で流麗な筆致です。
何よりも蠱惑的なのは、正確な音程の重音。重くならず軽く上に吹き抜けていくビロードのような触感で重なりが着実に大きいハーモニー。すべて楽譜通りに繰り返しをしていますが、音量や音色の変化は目立たせず、それがかえって舞踏曲としての魅力を感じさせます。装飾音や表情のニュアンスの違いは、ほんの少しだけ。その微妙さがとても奥ゆかしい。それでも重音に埋め込まれる装飾音のアルペッジョなどは驚異的な技巧です。そうしたこまやかさが、今回の演奏では特に顕著です。
やはり圧巻は、最後のシャコンヌ。
これもとてもさりげなく開始されますが、ゆっくりと次第に熱を帯びていく。しかも、フレージングは滑らかで滞ることもなく走るところもなく、あくまでも優雅。さながら河の流れのように、絶えることもなくしかも少しも同じところがない。最後に再び戻ってきたテーマも、決して激情に走らず、静かで平穏な余韻が残りました。
いつまでも聴いていたいバッハでした。
浜離宮ランチタイムコンサートvol.212
神尾真由子ヴァイオリン・リサイタル
2022年3月25日(金) 11:30~
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(2階R列10番)
神尾真由子 (ヴァイオリン )
J.Sバッハ:
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ
第1番 ロ短調 BWV1002
第33番 ホ長調 BWV1006
第3番 二短調 BWV1004
(アンコール)
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
第1番 ト長調 BWV1001 より第1曲アダージョ
バッハのパルティータも、すでに2年前にこの浜離宮朝日ホールで全曲録音しています。後でじっくりと聴いてみましたが、この日の演奏は録音のそれよりさらにまたバージョンアップしていると感じます。つくづく素晴らしいヴァイオリニストです。
バッハといえども構えたような重たい音楽ではありません。第1番のアルマンド冒頭の重音もとてもさりげなく優雅。付点のついたリズムが静かで軽やか。そして、とにかく音色がとても艶やかで美しい。6年前に河村尚子さんとのデュオで聴いたときは、グァルネリ・デル・ジュスを使用していましたが、今は宗次コレクションより貸与されたストラディヴァリウス(1731年製作「Rubinoff」)を使用しているとのこと。グァルネリの輝くような色彩にも少しも劣ることなく、しかもいかにもストラドらしい深みと繊細さを湛えた美音。今まで聴いた多くのストラディヴァリウスの中でも飛びきりの美音です。
2番目のプレストの《ドゥーブル》は、ほんとうに息も止まるような思いでした。すごい速度でのスケールが鮮やかに、しかも、信じられない滑らかさで疾走していきます。その美麗で優雅なわくわくするようなスリルは格別のもの。この曲に限らず、とにかく一音、一音が明瞭なキレがありながら実に滑らかにつながっている。欧米の演奏家は大なり小なり、ひげ文字(フラクトゥール)のような角張ったドイツ語ですが、神尾さんのはさらさらと美しいひと筆書きのかな文字のように優美で流麗な筆致です。
何よりも蠱惑的なのは、正確な音程の重音。重くならず軽く上に吹き抜けていくビロードのような触感で重なりが着実に大きいハーモニー。すべて楽譜通りに繰り返しをしていますが、音量や音色の変化は目立たせず、それがかえって舞踏曲としての魅力を感じさせます。装飾音や表情のニュアンスの違いは、ほんの少しだけ。その微妙さがとても奥ゆかしい。それでも重音に埋め込まれる装飾音のアルペッジョなどは驚異的な技巧です。そうしたこまやかさが、今回の演奏では特に顕著です。
やはり圧巻は、最後のシャコンヌ。
これもとてもさりげなく開始されますが、ゆっくりと次第に熱を帯びていく。しかも、フレージングは滑らかで滞ることもなく走るところもなく、あくまでも優雅。さながら河の流れのように、絶えることもなくしかも少しも同じところがない。最後に再び戻ってきたテーマも、決して激情に走らず、静かで平穏な余韻が残りました。
いつまでも聴いていたいバッハでした。
浜離宮ランチタイムコンサートvol.212
神尾真由子ヴァイオリン・リサイタル
2022年3月25日(金) 11:30~
東京・築地 浜離宮朝日ホール
(2階R列10番)
神尾真由子 (ヴァイオリン )
J.Sバッハ:
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ
第1番 ロ短調 BWV1002
第33番 ホ長調 BWV1006
第3番 二短調 BWV1004
(アンコール)
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ
第1番 ト長調 BWV1001 より第1曲アダージョ
神尾真由子のリサイタルが、サンフランシスコで、来年あるみたいです....
http://www.chambermusicsf.org/2024_San_Francisco_CONCERTS.htm
MAYUKO KAMIO, violin
with NOREEN POLERA, piano
SUNDAY, MAY 12, 2024 at 3 PM
by サンフランシスコ人 (2023-02-16 07:28)