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別宮貞雄の協奏曲 (都響定期演奏会) [コンサート]

別宮貞雄といえば、私の若い頃には現代作曲家として大御所的な扱いだったと思います。

でも思い返してみると、ひとつも聴いたことがないし、これといった代表作をすぐに思い浮かぶわけでもない。私にとっては、ある意味では不思議な作曲家です。

というわけで、「別宮貞雄生誕100年記念:協奏曲三景」というテーマに惹かれて、久々に都響定期に足を運びました。独奏者は、これらの曲と初演などで関わった大御所の先生方ではなくて、いずれも今まさに旬を迎えようとしている若手たちばかりというのもうれしい。指揮者は下野竜也。

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東京文化会館は、かえって上層階の席の方が音が良いということを知ったのは、ほんの10年ほど前ぐらいですが、今回は4階中央の最前列が取れました。上層階の中央というのは初めてですが、左右のバルコニーに較べるとちょっと音が遠い感じがしますが眺望と音のバランスはやはり中央ならでは。

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最初のチェロ協奏曲には《秋》という副題がついていますが、聴いていると《晩秋》という感じで哀感というのか憂愁というのか、同じようなテンポの楽想が延々と続き、時おりざわめくように盛り上がる。ソナタ形式なのだそうですが、複雑過ぎてかえって茫洋とした印象の曲です。都響は最初はちょっと歯車が合わない感じがして、こんなにヘタクソだったかなという感じでしたが、徐々に調子を上げていきました。何と言っても岡本侑也のチェロの音色が素晴らしかった。

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ヴィオラ協奏曲は、オーケストラの独奏楽器が色とりどりに活躍し、主役が地味なヴィオラだけに、何だか管弦楽のための協奏曲といった印象。テーマや挿入句が様々な色彩で細かく織り込まれているという印象の曲。初演は今井信子さんだったそうですが、その今井に学んだというリダウトのソロ。曲の難易度のほどはわかりませんが、とても安定した演奏でテクニシャンぶりを印象づけました。

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休憩をはさんでの三曲目は、ヴァイオリン協奏曲。この曲が一番盛り上がった。断片が組み合わさって大きな曲想を形作って盛り上がっていくのは聴いていてわかりやすいし、たっぷりとしたテンポで情感が高まっていくところは感情移入しやすい。南紫音は、堂々としたカデンツァを聴かせてくれてさすがの貫禄を見せてくれます。最後のクライマックスも決まり、会場も大いに盛り上がりました。

別宮は、保守的と言われたそうですが、こうやって聴いてみると単に作曲様式が保守的というよりは、日本のクラシック音楽受容の道程そのものという感じがします。戦後のある時期までは、海外渡航できること自体稀で、ヨーロッパ留学というのはエリート中のエリート。そういう西欧の正統と豊潤に直に触れる機会を持った別宮の自負心と自尊心は想像に難くない。しかしアヴァンギャルドといった話題性に走ることもなく、むしろ教養主義的で、曲もどこかで聴いたことのある断片をあちこちの権威の殿堂から集めて密度高く凝結させたような音楽。

恐らく作曲当時には、オーケストラの規模も貧相で技術も高くなかったし、一部の評論家の言うなりの聴衆も、しょせんは上っ面のスノビズムばかりで楽理には成熟していなかっただろうから、こういう下がりものの国産品にはとても退屈したのだと思います。現代の聴衆は、経験も豊富で教養主義からはずいぶんと自由ですから、もっともっと演奏機会が増えたらその評価もどんどんと深まっていくのではないでしょうか。

ともあれ、希少なレパートリーに果敢に挑戦してくれた若手の三人にも、こういう機会を企画した都響にも大拍手です。


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東京都交響楽団 第959会演奏家Aシリーズ
【別宮貞雄 生誕 100年記念:協奏曲三景】
2022年9月30日 19:00~
東京・上野 東京文化会館大ホール
(4階1列18番)

指揮/下野竜也
ヴァイオリン/南 紫音
ヴィオラ/ティモシー・リダウト
チェロ/岡本侑也

別宮貞雄:チェロ協奏曲《秋》(1997/2001)
     ヴィオラ協奏曲(1971)
     ヴァイオリン協奏曲(1969)








第959回定期演奏会Aシリーズ
【別宮貞雄生誕100年記念:協奏三景】
[出演]
指揮/下野竜也
ヴァイオリン/南 紫音
ヴィオラ/ティモシー・リダウト
チェロ/岡本侑也
[曲目]
別宮貞雄:チェロ協奏曲《秋》(1997/2001)
別宮貞雄:ヴィオラ協奏曲(1971)
別宮貞雄:ヴァイオリン協奏曲(1969)

4階 1列 18番
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