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「ジュリオ・チェーザレ」 (新国立劇場) [コンサート]

こんな素晴らしいプロダクションが日本に居ながらにして楽しめるなんて。ヘンデルのバロック・オペラを堪能しました。面白くて面白くて、4時間半の長丁場もあっという間。お尻は痛くなりましたけど…。

演出は、ロラン・ペリー。もともとは2011年にパリ・オペラ座で初演されたもの。まずは、博物館の古代文明収蔵庫で繰り広げられる古代の歴史劇という巧妙な舞台が目を引きます。

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かといって現代などへの置き換えということではなく、物語そのものはあくまでもシーザーとクレオパトラ。衣装もローマ時代のエジプト。原作をいささかも損なわない。実に、巧妙な演出です。

もうひとつの魅力はジェンダーフリー。

バロック・オペラの時代、その花形はカストラート。それは去勢された男性歌手のこと。カストラートは歌舞伎の女形同様に、その技を磨きに磨き、音楽的にも、肉体的にも、技術的にも最高の歌手。その高音域で人々を魅了する。歴史的には、市民社会の人権意識の伸長とともに当然に衰退し絶滅してしまう。それを現代のジェンダーフリーで再現する。英雄シーザー(初演カストラート)はソプラノ、女王クレオパトラもソプラノ(初演も同じ)、トロメーオ(初演カストラート)はカウンターテナーという具合。

その効果は、もちろん原作にある高い声域で歌われるアリアの華麗さ、軽妙さの魅力。ハイトーン・ボイスはいつの時代だって魅力なのです。そして、交錯するジェンダーが平等にやりとりする不思議な魅力。英雄と女王は、恋のかけひきを繰り広げるけど、同時に、政敵との覇権争い、陰謀への復讐でも共闘する。オペラ・セリアであっても決して深刻で陰惨にならないのがジェンダーフリーの絶大な効果。だからバロック・オペラは、エンターテイメント。ファンタジーやユーモアでも楽しませてくれます。

《博物館の収納庫》には現代のリアリズムが写し出されていて、それだけに史劇のファンタジーが引き立ち、歴史への想像力をかき立てるのです。

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第二幕で、クレオパトラが色仕掛けでシーザーを籠絡される場面も、ロココ調の衣装に変わっていて、バロック時代の宮廷風の衣装の美女のバンダに合わせて、ルーブル美術館の名画の巨大な額縁に入ったり、周囲を巡ったりのアリアがなんとも色っぽい。

この場面で特に引き立つのが、ダ・カーポ・アリア。歌手の技量を披露するために、同じ旋律を繰り返し、繰り返し聴かせる。そこに変幻自在の変化をつけるのが歌手の聴かせどころだったわけですが、それを舞台狭しとくるくると周り巡り、演技の動的変化を視覚的にみせながらの歌唱が、この舞台と演出のもうひとつの巧妙な仕掛けになっているのです。

クレオパトラの森谷真理は圧倒的なヒロイン。ほとんどタイトルロール。とにかく出ずっぱり歌いっぱなしの全3幕で歌えば歌うほどに声の量感と艶が増していく。第一幕の超エロチックな衣装からして、とにかく体当たり的な歌唱。

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同じくらい体当たりなのが、トロメーオの藤木大地。もはや、古楽復古のカウンターテナーのアカデミズムの衣など脱ぎ捨てて、それこそ半裸に姿をさらしてまでの歌唱と演技には目を瞠るほど。クレオパトラとの対峙は、シリアスなエンターテイメントがあふれています。

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シーザーのマリアンネ・ベアーテ・キーランドには、中性的な魅力がいっぱい。英雄につきものの汗臭さはこれっぽっちも無くて、とても格調があって清廉でハンサム。ズボン役とはまたちがったローマ時代のレリーフの裸像のような魅力を感じます。彼女の出演は、コロナ禍で2年半延期となった不幸がかえって呼び込んだ僥倖なのだそうです。

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出色だったのは、クレオパトラの侍従ニレーノ役の村松稔之。これもまた両性具有の美少年、あるいは、いたずら好きの妖精パック。美声とスリムな容姿と、巧まざる身体能力を駆使した演技は最高に楽しいものでした。

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ポンペーオの寡婦コルネーリアの加納悦子、コルネーリアの息子セストの金子美香も、新国立常連の実力派。単なる脇役ということではなくしっかりとした存在感のある持ち場を見せてくれたのも、今回の公演の楽しさ。

視点をピットに移すと、これまた、東フィルの古楽スタイルの演奏の変身ぶりにびっくりするやら、感心するやら。ここまで古楽スタイルに徹した演奏が可能だなんて想像もしていませんでした。ミラノ・スカラ座など世界の歌劇場オーケストラはこうした演奏スタイルの早変わりで、はるか先を行っていると思っていましたが、まさか、東フィルがそれをやってのけるとは。第1幕での、勇壮なホルンのソロ(ナチュラルホルンではなくてピストン付でしたが)は見事でした。もちろんエキストラも入っているのでしょうが、舞台上のロココ調の女性バンダもそうですが、個別のクレジットがないのでわかりません。そのことがかえって残念です。

指揮者のリナルド・アレッサンドリーニは、音楽をすべて把握してコントロールしきっていました。ダ・カーポ・アリアの最後を告げるリタルダンドとフェルマータはいかにもバロック。ピットはどこまで浅く引き上げられていたのかわかりませんが、ステージ上で演奏されるヘンデルの合奏協奏曲を聴いているような響きと渋いガット弦のような音色で魅了します。東フィルから、バロック音楽の魅力を引き出したのは、当然に彼の力量でしょう。

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最後は、死んだはずの敵役のトロメーオもアッキラもそろっての、お定まりの祝勝の大団円。客席にとっても大いに気持ちの上がる大団円でした。


(写真は新国立劇場のHPから拝借しました)



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新国立劇場
クロード・ドビュッシー 「ペレアスとメリザンド」
2022年10月5日 17:00
東京・初台 新国立劇場 オペラハウス
(1階5列16番)


指揮:リナルド・アレッサンドリーニ
演出・衣裳:ロラン・ペリー
美術:シャンタル・トマ
照明:ジョエル・アダム
ドラマトゥルク:アガテ・メリナン
演出補:ローリー・フェルドマン
舞台監督:髙橋尚史

ジュリオ・チェーザレ:マリアンネ・ベアーテ・キーランド
クーリオ:駒田敏章
コルネーリア:加納悦子
セスト:金子美香
クレオパトラ:森谷真理
トロメーオ:藤木大地
アキッラ:ヴィタリ・ユシュマノフ
ニレーノ:村松稔之

合唱指揮:冨平恭平
合唱:新国立劇場合唱団
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
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