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「仲蔵狂乱」(松井今朝子 著)読了 [読書]

門閥外の下積みから江戸歌舞伎の看板役者へ駆け登った不世出の名優・中村仲蔵の波乱の生涯。

立川志の輔の人情噺や、神田伯山の講談で知るひとも多い。私の場合は、NHKで一昨年放映され昨年度の文化庁芸術祭 テレビ・ドラマ部門「大賞」を受賞した。それが昨年末に前編・後編という形で再放送され、それを見て夢中になってしまったのです。その後、目にとまったのが、この時代小説でした。

忠臣蔵狂詩曲.jpg

「忠臣蔵狂詩曲No.5」と題されたTVドラマでは、忠臣蔵五段目「二つ玉の段」斧定九郎役で大当たりを取るところで大団円となる。

團十郎(市村正親)の引き立てで人気が上がり、それを面白く思わない立作者三笑(段田安則)に冷遇されて窮地に追い込まれる。三笑が割り当てたのは忠臣蔵では「弁当幕」と揶揄(やゆ)される五段目の全く見せ場のない場でのチョイ役。薄汚い盗賊に落ちぶれた家老の息子・定九郎を、黒羽二重の着付け、月代の伸びた頭に顔も手足も白塗りにして破れ傘を持つという当世の二枚目浪人侍に仕立て直して客席の不意をつき、せい惨な殺しの場面にして大評判を取るという仲蔵出世話のクライマックスだ。

この小説は、ここで終わらず仲蔵のその後も追い続け終焉にまで至る。生い立ちからその死までを綴ったまさに一代記だが、江戸歌舞伎時代の義理と人情といった人と人とのつながり濃厚な世界、しかも、歌舞伎役者や芝居小屋という人気商売の世界に渦巻く人いきれに思わずむせかえるような空気が伝わってくる。それはまた同時に、色恋や夫婦愛とともにその世界で生きる生身の情が醸し出す妬みや嫉み、恨みごとが人々の浮き沈み、命運を左右する様を描く社会小説という一面もある。

TVドラマでは制約のある男色やえげつないリンチなども遠慮容赦なく描き出すところは、これもまた画像音声のエンターテーメントとはまた違った小説を読む醍醐味。歌舞伎を観る眼も変わる。

面白かった。




仲蔵狂乱_1.jpg


仲蔵狂乱
松井今朝子
講談社(1998)
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