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情熱のメンデルスゾーン (葵トリオ@紀尾井レジデント・シリーズ) [コンサート]

3年にわたり1年に1回の演奏をじっくりと聴かせるという「紀尾井レジデント・シリーズ」。

葵トリオは、シューマンの3つのピアノ・トリオを1曲ずつ配して構成しています。そのシリーズ第2回。

ピアノ・トリオというのは、どうしても名人3人が集まってということが多く、常設のトリオというのは珍しい。一体となったアンサンブルの緻密さが持ち味のストリング・クァルテットに対して、ピアノ・トリオは、むしろ個性のぶつかり合いでスターたちのスリリングなやり取りこそ面白い。

葵トリオの凄味は、アンサンブルの精密さが驚異的なのにもかかわらず、三人がそれぞれに自由にやりたいことをしていること。みっしりとした全体造形が基本にあって、しかも、三人がそれぞれに違った文様を描くようなところ、お互いに他をちっとも縛らずに語り合う面白さがあります。

第1回では、現代曲でいきなりそのアンサンブルの精密さと細部の紋様の重なり合う波紋を見せつけて度肝を抜かれましたが、今回は、テーマであるシューマンをプログラム第1曲目に持ってくるということで意表をつかれました。

2曲目は、何とショパン。

古典的で直截、平明で楽器間の均衡のとれたシューマンの2番に対して、ショパンは、まるでピアノ協奏曲の室内楽版。ひときわ個性的でマイペースの秋元さんが縦横無尽にショパンのロマンチシズムを弾きまくる。協奏曲とは違って、他の奏者がステージの前縁にあるという違いはあっても、明らかに主役はピアノ。点と点をつないでいくピアノにはどうしても足らないテヌートやハーモニーの厚みをヴァイオリンとチェロが華麗なペルシャ絨毯のように敷き詰めていく。そこがシューマンとまるで違うのに、立ち上っていくロマンチックな多幸感はまったく同質的。そこにまた度肝を抜かれる思いがします。

最後に、ピアノ・トリオというジャンルの数少ないとびきりの名曲を持ってきてコンサートを大いに盛り上げるというのが、どうやらこのグループの企みらしい。

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そのメンデルスゾーンが半端なかった。

メンデルスゾーンといえば、流麗優美で心地よく聴きやすいけれど、どこか予定調和。柔和に溶け込むようなアンサンブルに徹すればどこかBGM的で、逆に思い入れたっぷりに演奏すれば「らしくない」…ということになりがち。ところが、葵トリオにかかるととんでもなく情熱的なロマンチシズムが炸裂する。シューマンもショパンも、そして、メンデルスゾーンも同じロマン主義全盛の時代をともに生き、同じ土地を行き来したという実感がたっぷりとわいてきます。

そして、シューマン好きな文学青年も、ショパンが好きな多感な少女も、そして、ちょっと控えめでひとり夢見るようなメンデルスゾーン好きのお嬢さんも、みんなこぞってエミリー・ブロンテの「嵐が丘」を読もうよ!…みたいな演奏。

ほんとうに楽しみな三人の演奏。次に聴く機会が待ち遠しい。


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紀尾井レジデント・シリーズ I
葵トリオ(第2回)
2023年2月3日(金) 19:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(1階 7列12番)

葵トリオ
小川響子(Vn)、伊東 裕(Vc)、秋元孝介(Pf)

シューマン:ピアノ三重奏曲第2番ヘ長調 op.80
ショパン:ピアノ三重奏曲ト短調 op.8

メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 op.49

(アンコール)
シューマン:ピアノ三重奏曲第1番ニ短調 op.63より
           第2楽章「活き活きと、しかし速過ぎずに」
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