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パリからの風 春が立つ (紀尾井ホール管弦楽団定期) [コンサート]

こんなふうにフランスを感じるなんて思いもよりませんでした。

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前日の雪は一転して、外堀の堤には青空が広がり2月とは思えないような陽気があふれています。そのせいなのか、まさにパリからの爽やかな風に立春大吉。

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指揮者は、紀尾井ホール管初登場のパスカルは、南フランスの出身。そしてショスタコーヴィチで鮮やかなソロを聴かせてくれたアルトシュテットは、ハイデルベルク出身のフランス系。そんなふたりに二十世紀に芸術の都として花開いたパリの馥郁とした風を感じてしまうのです。

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コンサートの白眉は、やはり、ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲。

スターリンの大粛正時代を生き抜いてきたショスタコーヴィチは、旧・ソ連(ロシア)の囲いもののような生涯を送ったけれど、若い頃から西欧の進歩的な音楽を貪欲に吸収していました。多くのピアニストや作曲家が活躍したパリにも憧れていたに違いありません。

スターリンの没後の雪解けで、そのカーテンが一陣の風でさっと開いたような時期の音楽。そんな前向きさと、うっ屈した環境のなかで身につけたシンプルな楽想とわくわくさせるような超絶技巧が、この曲には満載。第一楽章は、春爛漫の小径を早足で歩む行進曲のようだし、第二楽章は春ののどけさをかみしめるような安逸と恍惚のひととき。間奏曲ふうの第三楽章のカデンツァで聴かせる超高音に至るソロの超絶技巧は壮絶。そこでため込まれた緊張と期待が終楽章で一気にはじけ飛ぶ。こんなに気持ちをもっていかれる曲だったなんて、今まで思ってもみなかった。

アルトシュテットの音色は、とてもレンジが広く自在。冒頭ではとても深みのある雄渾な音色にはっとさせられたのですが、次第に色彩の振幅の大きさに心が躍らされていく。アンコールでのバッハは、さながらガット弦を弾いているかのような質感と古めかしい舞曲のステップが軽やか。実際、エンドピンを引き込んでバロックチェロのように膝にはさんで弾いています。ピリオド楽器と奏法を極めて、モダンとを行き来するというのは最近のトップアーティストの大きな潮流になっているようですが、そこにこのチェリストの創造の未来が開けているように感じます。外見的な人気に埋没せずに大きく成長してほしい。

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最後のベートーヴェンも堪能しました。「北欧神話の巨人にはさまれてギリシャ乙女」なんていうステレオタイプにはまらない、優美軽快かつ活気にあふれた音楽。やっぱりこれもまさに春が立つという音楽。マロニエの花咲くパリの並木道に飛び出していくというたとえはあまりに俗っぽいかもしれませんが、霧がよどむような序奏の暗がりが、ぱあーっと晴れた陽光のなかにはじけて飛び出していく気分は、まさにアレグロ・ヴィヴァーチェ。

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絶賛しておきたいのは、紀尾井ホール管の木管パート。

縦横に大活躍だったホルンの日橋さんはもちろん格別。全曲にわたって印象的だったのは、ファゴットの河村幹子さん。岩佐雅美さんとともに低域のステップが陽気で軽快で、アンサンブルのハーモニーを美しく下から支えていた。ベートーヴェンでは一本だけで加わったフルートの上野博昭さんも線がとても綺麗。オーケストラの顔ぶれも徐々に若くなっています。そういえばティンパニの川瀬達也さんもショスタコーヴィチでの一撃がとてもかっこよかった。

反面、前半、ちょっと影が薄かったのが弦楽器パート。最初のフォーレはまとまりが悪くて木管パートに完全に主役をゆずった感じ。本来、このオーケストラは弦楽器が自慢。あえて苦言を呈すれば、コンマスの千々岩さんは解釈上のリーダーシップに若干欠けるところがあります。もちろん、最後のベートーヴェンでがぜん汚名返上・名誉挽回の素晴らしい大活躍でしたが。

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紀尾井ホール室内管弦楽団 第133回定期演奏会
2023年2月11日(土) 14:00
東京・四谷 紀尾井ホール
(2階センター 2列13番)

マクシム・パスカル 指揮
二コラ・アルトシュテット チェロ
千々岩英一 コンサートマスター
紀尾井ホール室内管弦楽団

フォーレ:組曲《マスクとベルガマスク》op.112 + パヴァーヌ op.50
ショスタコーヴィチ:チェロ協奏曲第1番変ホ長調 op.107
(アンコール)
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調BWV1007より第4曲サラバンド

ベートーヴェン:交響曲第4番変ロ長調 op.60
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