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「クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇」(ケイシー・ミシェル 著)読了 [読書]

「クレプトクラシー」とは「泥棒政治」のこと。権力者や政治エリートが国庫や国民から膨大な富を盗み取り私服を肥やす。汚職による横領収奪や賄賂などで得た違法の金を「洗浄」して合法的な資産に変えようとする。

本書の主役は、主にふたり。

まずは、アフリカの小国・赤道ギニアの独裁者の息子。この小国に、たまたま産出する石油利権をこの親子が独り占めする。おかげでアフリカでも一二を争うGDPを誇るこの国の国民はアフリカでも最貧の生活を強いられる。その息子は、王子を自認して放蕩三昧。父親に統制能力を認めさせるために、ついにはマイケル・ジャクソンの遺品を支配するコレクターになることを思いつく…という倒錯した人物。

この狂気的な驕奢ぶりにはいささかうんざりさせられる。しかも、アメリカ人にありがちな過剰で饒舌で、醜悪で不快な叙述が延々と繰り返される。不正な金が、アメリカに流れ込み「洗浄」され安全に隠匿される。今やアメリカこそが世界最大の課税回避のオフショア市場だということには驚くが、これがアメリカの主導する貪欲資本主義が招いたことと思えば、他人の行状をとやかくいうことに何の意味があるのかと辟易する。

ところが、ふたりめの主役、ウクライナのオリガルヒの登場に至って、少々、話の様相が変わってくる。オリガルヒとは、ロシアをはじめとする旧ソ連圏諸国の経済崩壊と産業民営化のどさくさからのし上がった新興財閥のこと。その国富簒奪の資金もやはり米国オフショア市場になだれ込む。

資金洗浄のテクニックの次第がようやく飲み込めてくる。それは、要するにアメリカの法規制のあちこちに穿たれた《匿名性》の穴のことなのだ。

過疎や産業衰退に苦しむ中西部やラストベルトのコミュニティが、あれこれと優遇や特例、特権をもうけてこうした資金の流入をはかる。それは地域銀行などの金融にとどまらずやがて不動産業界にも及ぶ。不動産こそは《匿名性》の巣窟なのだ。単に放蕩息子の御殿の購入にとどまらない。それは、クリーブランドの中心に買い手もなく取り残された高層オフィスビルや、オハイオの陳腐化した製鉄所やイリノイの片田舎に半ば廃屋と化したモトローラの巨大な携帯電話工場にも及ぶ。

買い手がついた一瞬は、地域経済の活性化や衰退産業の復活に結びつくかと地域社会は色めき立つが、実のところオーナーは無為のままに放置、あるいはコスト削減を強いて収奪を進め、仲間内の転売を繰り返し表面的な価格維持をはかる。最後には廃墟となっても土地という残存価値は残る。こうしたクレプトクラシーは、むしろ、地域経済を廃墟へと追いやるのだ。

問題は、それだけにとどまらない。こうしたクレプトクラシーの不動産売買で巨額な利益を得て大統領にまでのし上がったのが他ならぬトランプというわけだ。不正にまみれ、実利のためには手段を選ばぬ悪党どもは、アメリカの民主主義政治そのものをも蝕んでいく。

ここにきてようやく著者の意図が飲み込めてくる。

専制主義国家との戦いは、かつての東西冷戦のようなイデオロギー対立ではない。専制主義は、絶対的な不正腐敗のうえに成り立っている。現代の反米活動や反民主主義的政権は、共産主義のような非合理的で偏狭なイデオロギーやファシズムのようなゆがんだ思想に根ざしているわけではない。それらはいずれも貪欲を基盤としている。「武器化された腐敗」は、国外において悪意ある活動を定着させ、拡大し、強化させている収奪政治である。その腐敗は民主主義国家に侵入し、それを内側から腐らせていく。

著者は、そういうことに警鐘乱打する。

幸か不幸か、今の日本は外資の恩恵に与ることもないしマネーロンダリングの草刈り場とはなっていない。外国人の不動産取得も、主に中国人を対象に安全保障の文脈だけで部分的に語られているだけだ。果たして、そういう「清貧」がこのまま続くと思っていてよいのだろうか。


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クレプトクラシー
資金洗浄の巨大な闇
世界最大のマネーロンダリング天国アメリカ

ケイシー・ミシェル (著)
秋山 勝 (訳)
草思社

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