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去る者は日々に疎し(?)(紀尾井ホール室内管・定期演奏会) [コンサート]

ピノックの指揮にはもともとあまり良い印象を持っていなかった。

それが、コロナ禍で遅れていた首席指揮者就任記念コンサートで素晴らしいスタートを切ってくれたとほっとした思いだったのだけど、再び、不安に突き落とされたような気分。

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何よりも音楽が楽しめなかった。

最初のウェーバーでの荒っぽさは、ロマン派の幕開けともいうべき曲の特性もあるし、プログラム冒頭のアンサンブルということもあるだろうと納得してはいた。中間の亡霊のささやきのようなヴァイオリンの8重奏は、やはりこのオーケストラの美質が満開だったし、それなりに楽しんでいたのだけど。

ドヴォルザークのコンチェルトのクリスティーネ・バラナスは、これが日本公式デビュー。

ラトヴィア出身とのことだが、長身の美形。真っ白なパンツスーツでさっそうと登場。演奏は、見かけによらず繊細で人を驚かすような音量でもないし、むしろ細身の音色で、出だしのいきなりのカデンツァでは少し神経質な堅さもあった。延々と続くカデンツァ風の楽想をなんとか無難に過ごすと、そこからが本領発揮というところだっと思う。

けれども、それと同時にウェーバーから引きずっていた不満がいっそう気になってしまった。オーケストラの音の粗さと、どうにもアンバランスな響きのことだ。ドヴォルザークは民謡的な旋律美の宝庫のはず。それが平板で音量が大きいだけのオーケストラにかき消されてしまう。800席のホールでの2管編成でここまで鳴らす必要があるのかと疑問がわいてしまう。とにかくその単調さに聴いていて集中力が続かない。だから、バラナスのヴァイオリンの印象は薄いままに終わってしまった。

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結局、そういう不満は後半のシューマンで一層拡大した。

ただでさえシューマンの管弦楽法は、初期ロマン派の稚拙さがある。二十世紀の指揮者はそれをあれこれいじり回したり、ことさらに美音に仕上げようと不自然なテヌートで装った。それが自然な音律ではどれだけ端正で人間的なハーモニーで鳴るかを証明するのが二十世紀後半から台頭したピリオド派だと思うのだけれど、ピノックは楽員任せの音の強弱でまるで放任主義みたいな指揮をしているように思えてしまう。集中力が続かないのは、ドヴォルザーク以上だった。

一時は、ピノックの首席指揮者就任を受け入れたつもりだったけど、少々、鬱陶しい気分が拡がってきた。

褒めたいのは、木管陣。

相澤政宏のフルートにはほんとうに感じ入った。オーボエの吉村結美は、先日のN響定期で聴いたばかり。若いのに八面六臂の活躍。クラリネットの勝山大輔、亀井良信のお二人も実に息の合ったふくよかな美音。ファゴットの水谷上総はさすがとしか言いようがない。ウェーバーでもドヴォルザークでもこの木管と弦パートの強弱バランスが良ければ、ずっとずっと幸せになれたはず。

コントラバスの池松宏さんが、このコンサート限りで退団するという。池松さんの姿を見るのが楽しみだっただけに、この唐突な知らせに落胆。ピノックが歩み寄って堅い握手をしていたが、花束すらも無い。寂しい限りだ。



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紀尾井ホール室内管弦楽団
第139定期演奏会
2024年6月21日(土)14:00
東京・四ッ谷 紀尾井ホール
(2階C席2列13番)

指揮:トレヴァー・ピノック
ヴァイオリン:クリスティーナ・バラナス

紀尾井ホール室内管弦楽団
コンサートマスター:玉井 菜採

ウェーバー:歌劇《オイリアンテ》序曲
ドヴォルジャーク:ヴァイオリン協奏曲イ短調op.53
(アンコール)
バッハ:無伴奏ヴィオリン・ソナタ第3番より《ラルゴ》

シューマン:交響曲第1番変ロ長調《春》op.38

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