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オルガンとチェンバロで聴き比べるゴルトベルク(大塚直哉レクチャー・コンサート) [コンサート]

大塚直哉さんが、2018年以来続けているレクチャー・コンサートが、久しぶりにさいたま芸術劇場に戻ってきたもの。

このシリーズは、もともとこの劇場備え付けのポジティヴオルガン(M.ガルニエ・オルガン製作所製)を主役に据えて、チェンバロとの弾き比べなど様々な視点からバッハを楽しもうという企画。

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今回は、ゴルトベルク変奏曲。

まずはオルガンで《アリア Aria》を演奏。オルガンは持続音なので、旋律はとても情緒豊かに歌い、低音の基音がよく響きコード進行がはっきりします。《変奏曲》とは言うけれど、実は、この低音のコード進行の上に30の変奏曲が作曲されている……というお話し。アリアの旋律のヴァリエーションではないのです。あくまでも、この32の低音が主題だというわけです。

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32の低音主題。前後のアリアと30の変奏曲で合計32曲。こういう数学的構造や対称性をバッハは作曲のなかで隠し文字のように埋め込んでいます。30曲の変奏は、3曲ずつの単位を成して全体で10単位で30曲。1単位の3曲は、1曲目がガヴォットやアルマンドといった既存の書式・様式の曲、2曲目は2段鍵盤を活かしたトリオ・ソナタ。そして3曲目にはカノンが置かれている。

そのカノンが、精妙巧妙な造りになっていて、同じ音程から始まり、2度のカノン、3度、4度と音程を広げている。同じ音程の旋律の単なる追いかけっこではない。最後は8度とオクターブで元に戻り、ついには9度のカノンにまで達する。

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演奏の間に、林 綾野さんとの対談をはさみます。

林さんは、美術展覧会の企画をするいわゆるキュレイター。その傍ら、絵画鑑賞のワークショップ、美術書の企画、執筆も手がけるマルチタレント。特に、その時代の食の嗜好などを研究、紹介し「おいしい浮世絵展」などを企画し、「フェルメールの食卓」という著作も出版している。

はきはきとした口調で、そのお話しはとても面白い。

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バッハの時代の日常の食卓は、どうやらとても貧しかったらしい。ブリューゲルの絵(「穀物の収穫」)をよく見ると農民が食べているのは雑穀粥で、しかもいまのようなミルク煮ではなくて、バターやチーズを搾り取った酸っぱくて臭い脱脂乳のようなもの。

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バッハは、役得で大変なご馳走を食べていたという記録がある。まだ若かったワイマールの宮廷オルガニスト時代に、ハレの聖母教会のオルガン建造に巨匠たちとともに助言し、完成時には鑑定人として招待されて大接待を受けている。牛肉煮込み、羊や子牛のローストと高タンパクで、グリーンピースにアスパラガスなどいかにもドイツの5月といった旬のメニューで、これは確かに大饗宴。

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その他、コーヒーやタバコなどバッハの嗜好品や、自筆譜に染み込んだワインのシミなどバッハの日常の食生活などの面白いエピソードが満載でとても面白かった。

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最後は、変奏の最後の第30変奏。

この最後のユニット3曲で、バッハはかなり羽目を外してしまう。大塚さんも、左手をチェンバロ、右手をオルガンと両手を広げてアクロバチックな二重奏というお遊びまで披露する。最終曲は、カノンではなくて二つの主題をごちゃごちゃに歌い合うというクォドリベット。バッハの時代、食卓で家族がこの俗謡を歌って大いにはしゃいだのだという。その食事の賑わいが目に浮かびます。

ゴルトベルク変奏曲というと、つい、厳めしく構えてしまいそうだけど、人生の日常に欠かせない食のお話しで大いに俗っぽく盛り上がった楽しいレクチャーコンサートになりました。



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大塚直哉レクチャー・コンサート第10回
 オルガンとチェンバロで聴き比べるゴルトベルク
2024年7月7日(日)14:00~
彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
(1階 P列15番)

大塚直哉(演奏・お話し) チェンバロ、ポジティブオルガン
ゲスト:林 綾野 (キュレイター、アートライター)


J. S. バッハ:ゴルトベルク変奏曲 BWV988
 
【対談1】バッハの時代の食事情を想像する
【対談2】バッハが食べたごちそう
【対談2】きゃべつとかぶらの民謡

(アンコール)
《ゴルトベルク変奏曲》の低音主題に基づく即興演奏

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