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「紅珊瑚の島に浜茄子が咲く」(山本貴之 著)読了 [読書]

第15回日経小説大賞受賞作。

江戸時代後期の奥州を舞台に繰り広げられる極上の歴史ミステリー。

選考委員3氏の全会一致での選出だったそうだ。なるほど、謎解きとほのかな男女愛の機微とを絡ませた筆致はエンタテインメントとして見事で、そこに幕末時代の幕藩体制の揺らぎとその背景を描いていて経済小説的な面白さがある。

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江戸時代後期、文化文政の世。小藩の四男、部屋住みの響四郎は、羽州新田藩の継嗣として迎えられる。外様とはいえ大藩である羽州藩支藩への末期養子。それは幕閣の出世頭である浜松藩主・水野忠邦の斡旋によるもの。新田藩が預かる幕府直轄の島では、蝦夷地の花として知られる浜茄子が咲くという。この異例の斡旋には、この島の謎めいた内情を探らせるという密命めいた使命を帯びていた。近習の中条新之助は、響四郎につき従って新田藩に赴く。

筆者は、東京大法卒、ジョージタウン大学法学修士。銀行勤務の後、コンサルティング会社を経て、現在は北海道で空港運営に携わるという元サラリーマン作家。

物語は、もう一本の筋である紙問屋の若女将千代と響四郎が、根津権現で出会うことから始まる。筆者は、学生時代の下宿から根津神社の境内の庭を日々散策し、風趣豊かな情景に接し慣れ親しんでいたという。

羽州藩とはおそらく米沢藩をモデルにしているのだろう。新潟県沖には、粟島(あわしま)という島があって江戸時代には村上藩から天領となり庄内藩預かりとなっていて、その統治の歴史は複雑だったようだ。筆者は、そこに北海道と畿内、長崎を結ぶ北前船の物流航路の隠された要衝とその利権を想定したというわけだ。筆者が日頃暮らす雪深い北海道の風物を重ね合わせたことで、鮮やかなリアリティを生んでいる。

主流を外れて、取引先や関係会社に出向させられ、孤立無援のなかで、内々に潜んだ慣行や不正に向き合わざるを得ないというのは、サラリーマン人生にはありがちなこと。幕藩体制末期なら、藩主といえどもそういう天下り、派遣されたサラリーマン役員と変わらない。誰が敵か味方なのか、何を自分に期待されているのかもわからないというシチュエーションは、サラリーマンにとってあるあるの世界だが、それを時代小説に取り込んだところがユニーク。しかも成功している。

そんな現代人の共感を呼び込みながらの謎解きに一気に読み進み、その晴れやかな結末と、さわやかな読後感もなかなかに良い。


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紅珊瑚の島に浜茄子が咲く
山本貴之 (著)
日経新聞出版
2024-3-1 第一刷

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