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横山幸雄の弾き振りでベートーヴェン(パシフィックフィルハーモニア東京) [コンサート]

パシフィック・フィルハーモニー東京(PPT)を聴くのはこれで2度目。

横山幸雄は、初登場。私自身は、恥ずかしながら、横山を聴くのは初めて。

それだけにまったく予断のない虚心坦懐のままに聴きましたが、これはもう極上のベートーヴェン。ピアニズムや管弦楽法にベートーヴェンらしさが満開で、とても幸せな気持ちになりました。

ピアノは、客席に背を向けオーケストラと相対する形で設置。上蓋は外してあります。オーケストラは、古典的な2管編成で、とてもシンプル。

そのピアノが実に良い音がした。ひとつひとつの粒立ちが明瞭でそろっていて精確。それでいて明るい彩色で響きが良くて連綿と音が連なる美しさが心地よい。こういう美音と粒の美しさが、横山の技術の美点なのでしょうか。

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演奏後の挨拶で、横山は「協奏曲は、室内アンサンブルを大きく拡張したもの」と強調していました。

まさに、そういう演奏に徹しているのが、弾き振りの効果。ソリストにとって、オーケストラは指揮者に任せっきり。ソリストとオーケストラは対立的になりがち。よく言えばオーケストラの自主性だとか対話の楽しさとも言われるが、場合によっては『どちらがボスだ?』ということで双方の楽想の違いから妥協も生じてしまう。特に、ピアノ協奏曲は、弦楽器主体のオーケストラとは発音原理が違うから、むしろ、協調的に音の響きを作るのは難しい。

横山の弾き振りは、オーケストラとの協調・協和を徹底的に磨き上げている。オーケストラの現代的なテヌートが徹底していて、ピアノの音の粒子をつなげるように支え、その持続音のなかにピアノ粒だった煌めきが美しく踊る。ナチュラルトランペットを使用していたが、それはその音色に着目したのであってオーケストラの音作りはあくまでもモダン。その中でテヌートやスタッカートなどのアーティキュレーションを綺麗にピアノに合わせている。だから、ベートーヴェンの管弦楽法が際立ってくる。

それが最も生き生きと現れたのが、最後の第4番。

この協奏曲の初演は、「田園」や「運命」といった名交響曲と同じ演奏会でした。まさに傑作の森のなか。巧みな木管楽器の組み合わせ、弦の弾き分けによるアーティキュレーションの快感がここにある。その交響曲的な音響のなかでピアノの名人芸が彩りの艷や輝きをさらに多彩にする。

技量としては、正直言って凡庸だし、横山のピアノもことさらに際立たない。それでいてホルンは安定しているし、オーボエの音色も美しく、クラリネットの音色もいかにもそれらしい。だからこその「室内アンサンブルの拡大版」ということなのでしょう。

台風の来襲で、前日のリハーサルは中止。たった2日だけで、これだけの仕上がりというのは驚きます。日数の短縮を、横山は残念がったのか、あるいは短期間でこれだけの仕上がりにできたことを誇っているのか、そこはよくわかりません。もし、残念がっていたとしたらもっとアンサンブルに冒険ができたということではないでしょうか。やや遅めのインテンポは、安全運転ということでもあったかもしれません。アゴーギクやアクセントも大きく変化をさせることもない。とにかく、オーケストラとピアノがまったりと同調し融合させることで一貫していました。

もし、もう少し大胆に様々な揺らぎを入れていたらどうだったのでしょう。それはわかりませんが、結果としては形式美や均整の取れた古典派の美意識と現代楽器の多彩な色彩との幸福なマリアージュとなっていました。本当によいベートーヴェンでした。




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パシフィックフィルハーモニア東京
第168回定期演奏会
横山幸雄との新たなる幕開け
渾身の弾き振りで贈るベートーヴェンのピアノ協奏曲
フランス音楽の神髄
2024年8月17日(土)14:00
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(2階J列46番)

指揮・ピアノ:横山幸雄

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第1番 ハ長調 作品15
ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品19

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58

(アンコール)
ベートーヴェン/ピアノ三重奏第4番 変ロ長調「街の歌」作品11より第2楽章
ベートーヴェン/ピアノソナタ第17番 ニ短調「テンペスト」作品31-2より第3楽章

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