「暗い夜、星を数えて」(彩瀬 まる 著)読了 [読書]
前年に公募新人文学賞を受賞したばかりだった著者は、二泊三日の東北旅行に出かけた。松島に一泊後、友人を訪ねて仙台駅から福島いわき市を目指して常磐線の列車に乗る。
その電車が、相馬市手前の新地駅で停車していたときに東日本大震災に遭う。
その時の体験と後日の福島再訪を描いている。地震の被災そのものも希有の体験だが、そのあとに津波が押し寄せる。かろうじて避難したあと、居合わせた見知らぬ人の縁で相馬市から南相馬へと南へ南へと引き寄せられるように移動していき、そこで原発事故の報に遭う。
未曾有の被災体験の記憶だけれども、文章は簡明で短い。しかし、この人は文章の達人だ。その証拠に、この体験の記録は、災害後すでに十余年経ってなお生々しいほどに鮮度を保っている。
記述には、そこで出会った人々の何気ないひと言が捕獲されてピンで刺した昆虫の標本のように不思議な生命の煌めきとともに残されていて、胸を打つ。その証言の内容には、当時の混乱とどうしようもない切羽詰まった状況とともに、原発事故という現実に対する人々の悲しいまでの憤りがあって、なおかつ暖かい厚情が込められている。著者の「胸の泡立ち」にも様々な濁りと暗い色彩があって次から次へと新しいものが沸き上がる。
ここに描かれている人々には、非情なまでの状況にあっても優しい心遣いを失わない日本人の原点のようなものがある。当時の海外メディアに登場する、彼らにとって不思議な日本人の秩序だった社会への驚きも記憶としてよみがえってくる。
行政や事業者の原子力事業へのいまだに無反省な執心にも、これを読むと今さらのように静かな憤りが沸き上がる。
伝えるべきことを伝え、言うべきことを言う、という、ささやかで、なおかつ、凜とした文学の原点がここにはあるという気がする。ひとつひとつの文字を追いながら、思わず目が冴え渡る。
震災直後に書き起こし、書き継がれ、すっかり年月が経った著書だけれど、文庫、Kindleと、アクセシビリティは容易で高い。ぜひ、一度は目を通して欲しい一書だと思う。
暗い夜、星を数えて
3・11被災鉄道からの脱出
彩瀬 まる (著)
新潮社
その電車が、相馬市手前の新地駅で停車していたときに東日本大震災に遭う。
その時の体験と後日の福島再訪を描いている。地震の被災そのものも希有の体験だが、そのあとに津波が押し寄せる。かろうじて避難したあと、居合わせた見知らぬ人の縁で相馬市から南相馬へと南へ南へと引き寄せられるように移動していき、そこで原発事故の報に遭う。
未曾有の被災体験の記憶だけれども、文章は簡明で短い。しかし、この人は文章の達人だ。その証拠に、この体験の記録は、災害後すでに十余年経ってなお生々しいほどに鮮度を保っている。
記述には、そこで出会った人々の何気ないひと言が捕獲されてピンで刺した昆虫の標本のように不思議な生命の煌めきとともに残されていて、胸を打つ。その証言の内容には、当時の混乱とどうしようもない切羽詰まった状況とともに、原発事故という現実に対する人々の悲しいまでの憤りがあって、なおかつ暖かい厚情が込められている。著者の「胸の泡立ち」にも様々な濁りと暗い色彩があって次から次へと新しいものが沸き上がる。
ここに描かれている人々には、非情なまでの状況にあっても優しい心遣いを失わない日本人の原点のようなものがある。当時の海外メディアに登場する、彼らにとって不思議な日本人の秩序だった社会への驚きも記憶としてよみがえってくる。
行政や事業者の原子力事業へのいまだに無反省な執心にも、これを読むと今さらのように静かな憤りが沸き上がる。
伝えるべきことを伝え、言うべきことを言う、という、ささやかで、なおかつ、凜とした文学の原点がここにはあるという気がする。ひとつひとつの文字を追いながら、思わず目が冴え渡る。
震災直後に書き起こし、書き継がれ、すっかり年月が経った著書だけれど、文庫、Kindleと、アクセシビリティは容易で高い。ぜひ、一度は目を通して欲しい一書だと思う。
暗い夜、星を数えて
3・11被災鉄道からの脱出
彩瀬 まる (著)
新潮社
タグ:東日本大震災
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