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すべての人々の魂を呼び覚ます(ポール・ルイス-シューベルト) [コンサート]

大きな期待をさらに超えた。深く心をえぐり出すような凄味があった。

ポール・ルイスは、私にとっては新たな才能あふれるピアニストの登場として夢中にさせてしまったピアニスト。CDなどはずいぶん聴いているのに実際の演奏を聴く機会を逃していました。それだけに期待は大きかったのです。

天才とか英才教育とは対極的な異色のキャリアですが、実にオーソドックスな音楽作りと音色の持ち主。端正な音楽というほどに正統で、しかも、底知れぬ魅力を備えている。いかにも英国のピアニストと思ったのですが、その演奏や音色を聴いて思い浮かべたのはアルフレッド・ブレンデル。――ルイスの師ですから、当然といえば当然なのかもしれません。

ブレンデルと言えば偉大な中庸のピアニスト。若い時代には決してそうではなかったようですが、円熟してから、旧フィリップスに遅咲きともいうべきメジャーデビューした頃には、ベートーヴェンやハイドン、シューベルト、リストらの中欧正統音楽の伝統をバランスよく体現する規範的で中庸の音楽を奏するピアニストでした。

そのブレンデルの衣鉢を継ぎながらも、もっと現代的で磨かれた美しい音色と沈潜する熱が発する輻射熱量の高い音楽。……そういうものが、コンサート前のイメージであり、彼のシューベルトへの期待だったのです。

それが完膚なきまでに覆りました。

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音色はもちろん濁らず美しいのですが、もっとずっと強く力感にあふれていて雄弁。ロマンチシズムの振幅の幅は、驚くほど大きく雄大。それはヤマハホールの親密な空間と、やや小さめのヤマハのコンサートグランドということもあるのでしょうか。小さいことが、かえって大きく感じさせる。

シューベルトが、内省的な音楽であることは確かなのですが、もはや個人主義的なロマンチシズムをはるかに超えた全人類的なもっと何か大きなものの肉声あるいは心の声を聴くような広壮な広がりと深みを持っているシューベルト。

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D959のアンダンティーノなどは、ショパン以前にすでにバラードが在ったといかのように感情のストーリーが鮮やか。その悔恨のうねりを打ちのめすような怒りの爆発、あるいは運命的な落雷なのか、その果ての諦観あるいは祈り。ストーリーは明らかだと思えるのに、それが具体的に何なのかがつかみどころがない。それだけ大きなもの……例えば、繰り返され絶え間の無い戦争のことなのか……とにかく、とてつもなく大事で大きなものだと思えるのです。

ブレンデルが到達した普遍的中庸から出発しながら、ずっと激しい深いものへと音楽が巨大化し、感情の発露としての歌が細密化していっているというように感じます。

ほんとうに凄いピアニストです。


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ポール・ルイス -シューベルト ピアノ・ソナタ・シリーズ Ⅱ-
ポール・ルイス(ピアノ)
2024年9月8日(日)14:00
東京・銀座 ヤマハホール
(1階H列11番)

F.シューベルト/
ピアノ・ソナタ第9番 ロ長調 D.575
ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D.959

ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D.960
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