オールホーンの音作り(Tさん宅訪問)後編 [オーディオ]
Tさん宅をお訪ねしたオフ会の報告の続きです。
訪問のテーマは「立体音場再生」。
「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」のか??という、こちらでのやりとりが、きっかけでした。
実際にお伺いして聴いてみれば、「立体音場再生」の思いも目指す方向性も、私と同じ、ということでした。
「立体感」というと、奥まった音場空間に幽霊のような音像がホログラフィックに林立するというイメージが一般には多いようです。特に「ハイエンド」を標榜するような人々。ここでの「立体音場再生」というのはそういうことではありません。もちろん録音によってはそういうものもあるのでしょうが、むしろ、それはコンサートフィデリティということではかえって人工的で不自然。
ひと言で言えば、眼前のステージが拡がる感じ。ホールにワープするような感覚。決してシャープでキレのあるということに限らない。音楽が部屋いっぱいに展開する。空気の共有感…。
どのようにしてそれを目指すのか?ということをTさんに聞いてみました。普段心がけていることとか、どんなことに注意を払っているかとか…。
一番のキーワードは『音圧』なのだそうだ。
実は、これまでもブログなどでTさんが『音圧』ということを仰っていることは知っていました。ところが、その言葉の意味がピンと来なかったのです。今回、直接お聴かせいただきながら会話させていただけたことでわかったような気がしてきました。
まず、強調されていたことは〈タイムアライメント〉。
ドライバーの振動面を合わせること。
各ユニットの設置位置を厳密に合わせる。それはドライバー振動面とリスニングポジションまでの距離を厳密に合わせるということ。言い換えれば、ドライバー振動面を仮想的に点音源とするように面を厳密に合わせることになります。中核となっている中低音ホーンの開口部が突出していて、しかもワンターンの折り曲げホーンになっているので見た目では気づきにくいのですが、ドライバー面はぴったり合っているそうです。ウーファーも後の壁際にあたりまえのように置いてあるのですが、よく見ればツィターも後の壁際にあって、すべてのユニットの振動源は後の壁際の二次元面にぴたりとそろっています。
勝手な思い込みかもしれませんが、『音圧』の意味合いは、全てのユニットがタテヨコぴったりと合っていること。タテ(片chの上下)だけでなくヨコ(両chの対応する左右)もピッタリと合わせてある。ネットワークも相当に年季の入ったもので時間をかけてバランスを細密に調整されてきたのではないでしょうか。
つまりは、レガッタのエイトのオールみたいなもの。
ボートは、複数のオールで漕ぐもの。エイトともなると8人で8本のオールを合わせる。ひとりひとりの体力と技術もさることながら、8本のオールをぴたりと合わせることでとてつもないスピードの差を生みます。スピーカーで全ての振動源がぴたりと合うことがすなわち『音圧』。
ホーンスピーカーの振動板は小さく、スロートを絞っているので点音源に近い。数理的に計算されたホーン形状で抑制された拡散なので干渉や反射の無い純粋な波動が得られる。その点ではコーン形よりもずっと有利です。純度の高さという意味では平面型も近いものがありますが、点音源ということではホーン型には敵わない。
ホーンスピーカーの欠点、扱いの難しさは山のようにあって、なかなか一般的普及には耐えないわけです。さらにウーファーまでホーン型というのはなかなか実現できない。たいがいはコーン型ウーファーを使うのですが、それだけでつながりが悪くなり致命的にバランスを崩してしまう。その点でもTさんは徹底しています。お聞きするとネットワークは6dB/octの一次フィルターなんだとか。これも驚きです。帯域はかなり被ってしまうわけですが、それを丹念に調整してきたのでしょう、結果として各ユニットの位相や音色のつながりが完璧に近い。しかもドライバーユニットは全て励磁に改造してあるという徹底ぶり。
振動源を合わせ焦点密度を高めたことから生まれるサウンドのエネルギーと純度は素晴らしいものがありました。もちろん、「立体音場再生」という点で部屋全体をホール音響で満たし、その中に包み込まれる。そういうオーディオの豪奢な愉悦は極上のものでした。
もうひとつ共感したのは、ジャンルの幅の広さ。
よく、クラシック向き、ジャズ向き、ロック向きだとか、ジャンルに合わせてシステムを何通りも使いわけることを自慢する人がおられます。完璧なオーディオなんて存在しないというのはわかりますが、かといって何か特定のものに合わせたものというのは主客転倒の独りよがりに過ぎないと思うのです。どんなジャンルであっても音楽ソースの隅々までバランスよく鳴らすことができてこその完成度。様々な音楽ソースを聴いてチューニングを重ねるということがオーディオの本道だと思うのです。ソースによって多少の調整をしたければトーンコントロール(あるいはグライコ)による帯域バランスの調整で十分だし、それが本道。
立体音場再生のテーマからは外れますが、モノラル再生あるいはカートリッジの比較なども楽しませていただきました。特にEMTやデッカのカートリッジのキャラクターの違いが面白かった。デフォルトはオルトフォンですが、そのことにも納得。それと比較すると、なるほどこういうことだったのかと、その違いがとても鮮やか。認識を改めました。これもまた趣味のオーディオ。ジャンルや自分の好みという独り合点の型にはめるというのではなくて、ユニットそのものの音味の違いを楽しむということ。それもオーディオの趣味性だと思うのです。
最後に、昭和歌謡をリクエストさせていただいたら、取り出したのは何と因幡晃の「わかって下さい」。低音はご謙遜だったのに、そのイントロのパイプオルガンのサウンドにはあっけにとられました。
残念だったのは、やはり、アンプや励磁電源、ネットワークのコンディショニングでしょうか。次回はぜひ、トラブル無しで安定したベストチューニングでお聴かせください。
楽しい時間をありがとうございました。
訪問のテーマは「立体音場再生」。
「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」のか??という、こちらでのやりとりが、きっかけでした。
実際にお伺いして聴いてみれば、「立体音場再生」の思いも目指す方向性も、私と同じ、ということでした。
「立体感」というと、奥まった音場空間に幽霊のような音像がホログラフィックに林立するというイメージが一般には多いようです。特に「ハイエンド」を標榜するような人々。ここでの「立体音場再生」というのはそういうことではありません。もちろん録音によってはそういうものもあるのでしょうが、むしろ、それはコンサートフィデリティということではかえって人工的で不自然。
ひと言で言えば、眼前のステージが拡がる感じ。ホールにワープするような感覚。決してシャープでキレのあるということに限らない。音楽が部屋いっぱいに展開する。空気の共有感…。
どのようにしてそれを目指すのか?ということをTさんに聞いてみました。普段心がけていることとか、どんなことに注意を払っているかとか…。
一番のキーワードは『音圧』なのだそうだ。
実は、これまでもブログなどでTさんが『音圧』ということを仰っていることは知っていました。ところが、その言葉の意味がピンと来なかったのです。今回、直接お聴かせいただきながら会話させていただけたことでわかったような気がしてきました。
まず、強調されていたことは〈タイムアライメント〉。
ドライバーの振動面を合わせること。
各ユニットの設置位置を厳密に合わせる。それはドライバー振動面とリスニングポジションまでの距離を厳密に合わせるということ。言い換えれば、ドライバー振動面を仮想的に点音源とするように面を厳密に合わせることになります。中核となっている中低音ホーンの開口部が突出していて、しかもワンターンの折り曲げホーンになっているので見た目では気づきにくいのですが、ドライバー面はぴったり合っているそうです。ウーファーも後の壁際にあたりまえのように置いてあるのですが、よく見ればツィターも後の壁際にあって、すべてのユニットの振動源は後の壁際の二次元面にぴたりとそろっています。
勝手な思い込みかもしれませんが、『音圧』の意味合いは、全てのユニットがタテヨコぴったりと合っていること。タテ(片chの上下)だけでなくヨコ(両chの対応する左右)もピッタリと合わせてある。ネットワークも相当に年季の入ったもので時間をかけてバランスを細密に調整されてきたのではないでしょうか。
つまりは、レガッタのエイトのオールみたいなもの。
ボートは、複数のオールで漕ぐもの。エイトともなると8人で8本のオールを合わせる。ひとりひとりの体力と技術もさることながら、8本のオールをぴたりと合わせることでとてつもないスピードの差を生みます。スピーカーで全ての振動源がぴたりと合うことがすなわち『音圧』。
ホーンスピーカーの振動板は小さく、スロートを絞っているので点音源に近い。数理的に計算されたホーン形状で抑制された拡散なので干渉や反射の無い純粋な波動が得られる。その点ではコーン形よりもずっと有利です。純度の高さという意味では平面型も近いものがありますが、点音源ということではホーン型には敵わない。
ホーンスピーカーの欠点、扱いの難しさは山のようにあって、なかなか一般的普及には耐えないわけです。さらにウーファーまでホーン型というのはなかなか実現できない。たいがいはコーン型ウーファーを使うのですが、それだけでつながりが悪くなり致命的にバランスを崩してしまう。その点でもTさんは徹底しています。お聞きするとネットワークは6dB/octの一次フィルターなんだとか。これも驚きです。帯域はかなり被ってしまうわけですが、それを丹念に調整してきたのでしょう、結果として各ユニットの位相や音色のつながりが完璧に近い。しかもドライバーユニットは全て励磁に改造してあるという徹底ぶり。
振動源を合わせ焦点密度を高めたことから生まれるサウンドのエネルギーと純度は素晴らしいものがありました。もちろん、「立体音場再生」という点で部屋全体をホール音響で満たし、その中に包み込まれる。そういうオーディオの豪奢な愉悦は極上のものでした。
もうひとつ共感したのは、ジャンルの幅の広さ。
よく、クラシック向き、ジャズ向き、ロック向きだとか、ジャンルに合わせてシステムを何通りも使いわけることを自慢する人がおられます。完璧なオーディオなんて存在しないというのはわかりますが、かといって何か特定のものに合わせたものというのは主客転倒の独りよがりに過ぎないと思うのです。どんなジャンルであっても音楽ソースの隅々までバランスよく鳴らすことができてこその完成度。様々な音楽ソースを聴いてチューニングを重ねるということがオーディオの本道だと思うのです。ソースによって多少の調整をしたければトーンコントロール(あるいはグライコ)による帯域バランスの調整で十分だし、それが本道。
立体音場再生のテーマからは外れますが、モノラル再生あるいはカートリッジの比較なども楽しませていただきました。特にEMTやデッカのカートリッジのキャラクターの違いが面白かった。デフォルトはオルトフォンですが、そのことにも納得。それと比較すると、なるほどこういうことだったのかと、その違いがとても鮮やか。認識を改めました。これもまた趣味のオーディオ。ジャンルや自分の好みという独り合点の型にはめるというのではなくて、ユニットそのものの音味の違いを楽しむということ。それもオーディオの趣味性だと思うのです。
最後に、昭和歌謡をリクエストさせていただいたら、取り出したのは何と因幡晃の「わかって下さい」。低音はご謙遜だったのに、そのイントロのパイプオルガンのサウンドにはあっけにとられました。
残念だったのは、やはり、アンプや励磁電源、ネットワークのコンディショニングでしょうか。次回はぜひ、トラブル無しで安定したベストチューニングでお聴かせください。
楽しい時間をありがとうございました。
タグ:訪問オフ会
2024-09-09 21:09
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0