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「雪渡の黒つぐみ」(桜井真城 著)読了 [読書]

東北の歴史舞台上に繰り広げられる、キリシタン+忍者の活劇時代小説。

キリシタンといえば天草や長崎。忍者といえば伊賀・甲賀。…というのが、ひと頃までのお決まり。それが、近年では東北のキリシタン、忍者という広がりを見せてきた。

東北のキリシタンといえば、西欧交易に熱心だった伊達政宗が派遣した遣欧使節。率いたのは支倉常長。メキシコを経てローマに至り、時の教皇パウルス5世に謁見した。しかし、日本へ帰国した時には、すでに禁教令が出されキリシタン弾圧が始まっていた。

支倉は失意のうちに没するが、同じ伊達政宗の家臣に後藤寿庵がいた。

見分村(現在の岩手県奥州市水沢福原)の領主。熱心なキリシタン領主で天主堂などを建設し、全国から宣教師や信徒を集めた。寿庵の人望、キリシタン伝授の鉱山開発、土木工学技術を惜しんだ政宗は、布教をしないことを条件に信仰を許そうとしたが、寿庵は拒否。陸奥南部藩に逃亡したとも、出羽秋田藩に渡ったとも伝えられるが、その生死は定かではない。

一方の忍者集団。戦国大名はそれぞれにこうした集団を抱えていた。織田信長は「饗談(きょうだん)」、武田信玄は「乱波(らっぱ)」、上杉謙信は「軒猿(のきざる)」といった具合。

東北の忍者といえば、伊達家に仕えた「黒脛巾組(くろはばきぐみ)」。これに対抗する南部藩の忍者は「間盗役(かんとうやく)」と呼ばれた。

東北のキリシタンも、忍者も、一般にはまだまだ馴染みがないが、近年の郷土史研究で、なかなかの史実的存在感を発揮しているというわけだ。

会話文が、すべて「東北弁」。

方言だから、かなり読みづらい。

しかし、そこには意味がある。――スパイ小説には、他国に潜入しなりすましたスパイがちょっとし仕草や言葉遣いで身元がばれるという仕掛けがよく使われる。ここでも東北弁の独特の語法が仕掛けとして隠されている。東北弁の面倒くささの果てにどんでん返しがあるから、読みづらさは我慢のしどころというべきか。

伊達藩と南部藩との確執、岩手・秋田に豊富な金鉱資源を、隠れキリシタン+忍者活劇に結びつけたアイデアは秀逸。

なかなかの力作。


桜井真城.jpg


雪渡の黒つぐみ.jpg


雪渡の黒つぐみ
桜井 真城 (著)

講談社
2024年6月17日 第一刷

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