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音の魔術師 モーリス・ラヴェル(酒井有彩&東京フィルハーモニー) [コンサート]

来年は、モーリス・ラヴェルの生誕150年だそうだ。

ラヴェルのピアノ作品を深く愛するという酒井有彩が、東フィルと組んで一夜で彼の2つのピアノ協奏曲を弾く。しかも、「ソナチネ」「水の戯れ」という独奏作品も織り込んだオール・ラヴェルという意欲的なプログラム。

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ラヴェルの管弦楽作品は人気で親しみやすい名曲ばかり。しかも、音の魔術師と呼ばれるようにその絢爛たる色彩感はまさに管弦楽の華。そういうこともあってか、会場は満席に近く雰囲気もどこか親しみやすさとうきうきとした雰囲気でいっぱいです。オーケストラにとっても、個人技も披瀝する場面もいっぱいだからやりがいのあるプログラムなのでしょう。そういう楽しげな気持ちも伝わってきます。

日本のオーケストラのレベルアップは、ほんとうに隔世の感があります。こんなプログラムをさほどの緊張もなく楽しめる時代になったと実感します。もちろん世界の一流オケに較べれば、音の色彩感、響きのバランスや深み、音響そのもものスケール感、音やリズムのキレ、アンニュイな陰鬱の表現など大きな差は感じますが、「亡き王女…」の冒頭のホルンなど実に安定していますし、どの曲もラヴェルを満喫するに十分。

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できばえとしては、後半の「左手のための…」のほうが断然面白かった。

個人的には、実演はもちろん、CDなどで聴くのも久しぶり。近年は、ト長調の協奏曲のほうが断然人気のような気がしますが、かつては「左手」のほうがよく耳にする機会が多かったと思うのは私だけでしょうか。40年も前のことですが、ちょうど、レオン・フライシャーが左手のピアニストとして各地でこの曲を盛んに演奏していて、シカゴで実演を聴く機会もあって、たまたま印象が強かったということかもしれません。フライシャーは、2000年代になって新療法により回復し両手のピアニストに復帰しました。

もうひとり記憶に残るのはミッシェル・ベロフ。天才的なピアニストでしたが、マルタ・アルゲリッチへの熱愛のあまりか精神的な大スランプに陥り右手も故障してその自由を失いました。落ち込んでいたベロフを救ったのが愛人のアルゲリッチ。彼女のはからいでアバド/ロンドン響との録音でアルゲリッチと分担する形で「左手」のほうを担当したのです。これが復帰のきっかけとなりました。

もっぱら聴いていたのは、デュトワ/モントリオール響と録れたパスカル・ロジェのCD。彼は、その後、ト長調の協奏曲をド・ビリー/ウィーン放送響と再録していますが、これもガーシュインのヘ調協奏曲とともに飛び切り冴え渡った演奏。

オーケストラの色彩と微妙に重ね合わせるト長調に較べると、「左手」の方は交互にやり合う対話性が主体なので思う存分に強い打鍵ができるのか、ピアノがよく鳴っていました。見かけによらず酒井さんはマッチョなところがあるのかもしれません。

ラヴェルは、好きなだけについつい耳をそばだてて聴いてしまうところもありましたが、それはとにかく、ちょっとローカルな雰囲気も楽しんで、大いにくつろげるコンサートでした。




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酒井有彩&東京フィルハーモニー交響楽団
――音の魔術師 モーリス・ラヴェル――

2024年10月16日(水)19:00
東京・初台 東京オペラシティコンサートホール

酒井有彩(ピアノ)
渡邊一正(指揮)
東京フィルハーモニー交響楽団

オール・ラヴェル プログラム

亡き王女のためのパヴァーヌ(管弦楽版)
「ソナチネ」(ピアノ独奏)
ピアノ協奏曲ト長調

「水の戯れ」(ピアノ独奏)
左手のためのピアノ協奏曲ニ長調
(アンコール)
サン・サーンス 「白鳥」(ゴドフスキー編曲)

「ボレロ」(管弦楽版)
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