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「アメリカ連邦最高裁判所」(リンダ・グリーンハウス 著)読了 [読書]

アメリカの司法制度は、わかりにくい。

日本の司法制度のことが一般にどれほど理解されているかということを抜きにしても、相当にわかりにくいと感じる人々は多いと思う。そのわかりにくいという実感は、その際立った政治性にあると思う。とにかく目立つのだ。大統領選挙がらみでやたらにマスコミに登場する。日本の最高裁など、判決が話題になっても、その存在感自体は薄い。

連邦最高裁判所は、実のところ合衆国憲法に規定される唯一の裁判所である。

日本国憲法では、1章7条にわたって規定されている。これが立法・行政・司法の三権分立の手本とされる合衆国憲法の実態なのだ。逆に、だからこそ連邦最高裁判所は、常に大統領や議会と激しく対峙している。アメリカでは、裁判所も政治的・イデオロギー的対立の渦中にあり、そうであることを隠すことすらもしない。

他国との大きな違いは、終身制であること。任期が無い。死去、辞任するまでその地位は終身保証される。

影響力を残したい大統領は若くてイデオロギー性の明確な人材を指名したがるし、対立する政党が上院の多数派の場合は審議が紛糾する。勢いその任期は長い。アメリカでは、司法の時代区分が、しばしば長官の名前を冠して語られるのもそのせいだそうだ。

そういう実態だから、判決はしばしば世論の多数とも対立する。日本のように「法の正義と安定性」「司法の独立」などという常識とは違って、あくまでも党派的駆け引きの結果としての多数派形成がもたらす評定なのだ。しかも、長い任期の中でイデオロギー的信条を逆転させてしまう判事もいて、ことはそう単純ではない。

審判についても、必ずしも全員一致を建前としない。原則、多数決であり、しかも僅差を争うことも少なくない。各判事がその立場を明確にして賛成・反対の意見を開示する。だからこそ、指名・任命は大きな政治的な駆け引きとなり政治的スキャンダルとなる。日本では誰が長官や判事なのかなど誰も気にしていない。日本とは大違いの政治的大騒動となるのは、そのせいなのだ。

連邦最高裁判所が管轄権を持つのは、連邦法に関するものや、外交に関するものの他、州をまたがる訴訟や州政府が当事者となる事件に限られる。申請されるものに較べて実際に審理されるものは極めて少ないという。一方で、合憲審理は多く連邦最高裁判所が違憲と判決すれば、連邦議会の法律はそのまま無効とされることが判例上確立している。合憲違憲がいつも曖昧にされてしまう日本とは大違いだ。

本書は、そういう連邦裁判所制度の歴史や経緯、現在の姿を、著名事例をふんだんに散りばめて、簡潔に解説する。むしろ簡潔すぎて門外漢にはかえってわかりにくい。文章も独特の法律的修辞が多くハードルが高い。文章がわかりにくいのは、多分に翻訳のせいもありそうだ。

三権分立にふさわしい司法が絶対的権限を持って積極的に関与する違憲審査のあり方や、立法府内の根本的な対立に一定の法的決着をつける司法の役割など、参考にしたいことは多く、テーマとして興味深いものがあるのだけれど、本書はそういう探究心をあまり満たしてくれなかった。




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アメリカ連邦最高裁判所
基礎法学翻訳叢書 6巻
リンダ・グリーンハウス (著), 高畑 英一郎 (翻訳)
勁草書房

【目次】

序文
第一章 起源
第二章 連邦最高裁判所の任務 1
第三章 連邦最高裁判所判事
第四章 連邦最高裁判所長官
第五章 連邦最高裁判所の任務 2
第六章 連邦最高裁判所と他の政府機関
第七章 連邦最高裁判所と国民
第八章 連邦最高裁判所と世界

参考文献
引用判例
文献案内
ウェブサイト
訳者あとがき

付録1――アメリカ合衆国憲法三条
付録2――連邦最高裁判所規則
付録3――判事一覧

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