不滅のフォルテピアノ (川口成彦 & V.シェレポフ) [コンサート]
フォルテピアノの連弾――しかも、フォルテピアノは、スクエアピアノも加えて2台、さらにモダンピアノも加えて3台を弾き分けるという、ちょっと豪華なコンサート。
ピアニストは、目下、大活躍中の川口成彦さん。その川口さんと同世代で、ブルージュ国際古楽コンクールやローマ・フォルテピアノ国際コンクールなどで最高位を受賞しているヴィアチェスラフ・シェレポフさんとのデュオ。シェレポフさんは初来日。
連弾というのは、とても家庭的。ふたりの奏者が体を寄せ合ってひとつの鍵盤に向き合って弾く光景はとても微笑ましい。最初に演奏されたのは、モーツァルトの「4手のためのソナタ」。使用楽器は、1814年製のスクエアピアノ。だからより家庭的な雰囲気でいっぱい。
続けて、川口の独奏でヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのソナタ。使用楽器は、ウィーンで活躍した製作者アントン・ヴァルターの1795年頃のピアノの復元楽器。いかにもウィーンの古典派前期を思わせる雅でロマンチックな音色です。
ここからは、モダンピアノでの演奏が続きます。
先ずは川口のソロで、モンポウ。続いては、連弾でロドリーゴ。スペイン好きを自認する川口らしい選曲ですが、モンポウの「子供の情景」には家庭愛とか親密なくつろぎの中に、どこかまがまがしい暗部が隠されているのは、第一次世界大戦の陰を落としているからでしょうか。一方のロドリーゴには、この作曲家独自の哀愁が漂う素晴らしい連弾曲でした。
休憩をはさんで、シェレポフの独奏で、グリンカ。
これがこの日の白眉だったかな。シェレポフさんはモダンピアノの大変な名手。そのせいなのか、調律が良かったのか、このスタインウェイが素晴らしい音色でした。特に低域が重く、しかも、少しも滲むことなく強く沈むように長く響く。いかにもロシア。フォルテピアノと聴き合わせることで、かえって、モダンピアノの良さも浮かび上がってくる。ロドリーゴもグリンカも、もっとピアノ曲を聴いてみたいと思いました。
続いては、土臭いロマンスがたっぷりのドゥシークを川口が弾く。ヴァルターのフォルテピアノの音色も相まってウィーン情緒たっぷりです。そしてクレメンティの4手のソナタから、シューベルトの幻想曲D940と素晴らしい音楽史の流れです。
アンコールでは、再びスクエアピアノでの連弾でモーツァルト。今度は、上蓋を閉じての変奏。家庭用だったからアップライトと同様に蓋を閉じるのが通常。音量は小さくなるけど、不思議なことに音の粒立ちが明瞭でより繊細な感じがします。ヴァルターのフォルテピアノとの個性の対比がより際立って浮かび上がってきます。
3台のピアノを弾き分けてのソロや連弾。18~19世紀に急激な進化を遂げたピアノは、いかにも近代工業技術がもたらした楽器のようであって、ひとつも同じ楽器がない。決して規格品なんかじゃない。そういう楽器の個性の豊かさを俯瞰できる素晴らしく楽しい一夜でした。
川口成彦 & V.シェレポフ 不滅のフォルテピアノ
2024年7月29日(月) 19:00
東京・北区王子 北とぴあ さくらホール
(1階 L列 21番)
フォルテピアノ/ピアノ 独奏・連弾:
川口成彦
ヴィアチェスラフ・シェレポフ
◎モーツァルト:4手のためのソナタ 変ロ長調 K.358
○W. F. バッハ:ラメント(『ソナタ F.7』より) ソナタ ホ短調 BR A9
●モンポウ:子供の情景
◎ロドリーゴ:黄昏
○グリンカ:舟歌
アリャビエフの歌曲「ナイチンゲール」の主題による変奏曲
●ドゥシーク:「ロスライン城」の主題による変奏曲
◎クレメンティ:4手のためのソナタ ハ長調 op.6-1
◎シューベルト:幻想曲 ヘ短調 D940
(アンコール)
モーツァルト:メヌエット K.15
4手のためのソナタ 変ロ長調 K.358より 第3楽章
【使用楽器】
フォルテピアノ(A.ヴァルター:1795年頃/太田垣至復元)
J.ブロードウッド&サンズのスクエアピアノ:1814年/太田垣至修復)
モダンピアノ(スタインウェイ)
【奏者】
●川口成彦
○ヴィアチェスラフ・シェレポフ
◎連弾
ピアニストは、目下、大活躍中の川口成彦さん。その川口さんと同世代で、ブルージュ国際古楽コンクールやローマ・フォルテピアノ国際コンクールなどで最高位を受賞しているヴィアチェスラフ・シェレポフさんとのデュオ。シェレポフさんは初来日。
連弾というのは、とても家庭的。ふたりの奏者が体を寄せ合ってひとつの鍵盤に向き合って弾く光景はとても微笑ましい。最初に演奏されたのは、モーツァルトの「4手のためのソナタ」。使用楽器は、1814年製のスクエアピアノ。だからより家庭的な雰囲気でいっぱい。
続けて、川口の独奏でヴィルヘルム・フリーデマン・バッハのソナタ。使用楽器は、ウィーンで活躍した製作者アントン・ヴァルターの1795年頃のピアノの復元楽器。いかにもウィーンの古典派前期を思わせる雅でロマンチックな音色です。
ここからは、モダンピアノでの演奏が続きます。
先ずは川口のソロで、モンポウ。続いては、連弾でロドリーゴ。スペイン好きを自認する川口らしい選曲ですが、モンポウの「子供の情景」には家庭愛とか親密なくつろぎの中に、どこかまがまがしい暗部が隠されているのは、第一次世界大戦の陰を落としているからでしょうか。一方のロドリーゴには、この作曲家独自の哀愁が漂う素晴らしい連弾曲でした。
休憩をはさんで、シェレポフの独奏で、グリンカ。
これがこの日の白眉だったかな。シェレポフさんはモダンピアノの大変な名手。そのせいなのか、調律が良かったのか、このスタインウェイが素晴らしい音色でした。特に低域が重く、しかも、少しも滲むことなく強く沈むように長く響く。いかにもロシア。フォルテピアノと聴き合わせることで、かえって、モダンピアノの良さも浮かび上がってくる。ロドリーゴもグリンカも、もっとピアノ曲を聴いてみたいと思いました。
続いては、土臭いロマンスがたっぷりのドゥシークを川口が弾く。ヴァルターのフォルテピアノの音色も相まってウィーン情緒たっぷりです。そしてクレメンティの4手のソナタから、シューベルトの幻想曲D940と素晴らしい音楽史の流れです。
アンコールでは、再びスクエアピアノでの連弾でモーツァルト。今度は、上蓋を閉じての変奏。家庭用だったからアップライトと同様に蓋を閉じるのが通常。音量は小さくなるけど、不思議なことに音の粒立ちが明瞭でより繊細な感じがします。ヴァルターのフォルテピアノとの個性の対比がより際立って浮かび上がってきます。
3台のピアノを弾き分けてのソロや連弾。18~19世紀に急激な進化を遂げたピアノは、いかにも近代工業技術がもたらした楽器のようであって、ひとつも同じ楽器がない。決して規格品なんかじゃない。そういう楽器の個性の豊かさを俯瞰できる素晴らしく楽しい一夜でした。
川口成彦 & V.シェレポフ 不滅のフォルテピアノ
2024年7月29日(月) 19:00
東京・北区王子 北とぴあ さくらホール
(1階 L列 21番)
フォルテピアノ/ピアノ 独奏・連弾:
川口成彦
ヴィアチェスラフ・シェレポフ
◎モーツァルト:4手のためのソナタ 変ロ長調 K.358
○W. F. バッハ:ラメント(『ソナタ F.7』より) ソナタ ホ短調 BR A9
●モンポウ:子供の情景
◎ロドリーゴ:黄昏
○グリンカ:舟歌
アリャビエフの歌曲「ナイチンゲール」の主題による変奏曲
●ドゥシーク:「ロスライン城」の主題による変奏曲
◎クレメンティ:4手のためのソナタ ハ長調 op.6-1
◎シューベルト:幻想曲 ヘ短調 D940
(アンコール)
モーツァルト:メヌエット K.15
4手のためのソナタ 変ロ長調 K.358より 第3楽章
【使用楽器】
フォルテピアノ(A.ヴァルター:1795年頃/太田垣至復元)
J.ブロードウッド&サンズのスクエアピアノ:1814年/太田垣至修復)
モダンピアノ(スタインウェイ)
【奏者】
●川口成彦
○ヴィアチェスラフ・シェレポフ
◎連弾
コメント 0