SSブログ

森のなかのリスニングルーム (M1おんちゃんさん別宅訪問記 仙台オーディオ探訪 その4) [オーディオ]

仙台の熱い皆さんをお訪ねするオーディオ遠征ツアーのお話しの続きです。
 
Yさん宅でのオフ会が少し長引きましたが、M1おんちゃんさんの運転で、Harubaruさん、Yさんの3人で、M1さんの別荘を目指します。そこにはすでにEさんがお腹を空かしてお待ちかね(笑)。途中でスーパーに寄って弁当やつまみ、お酒を買い込んで山を上っていきます。すっかり日が暮れて、山の端には中秋の名月がぽっかりと浮かんでいます。
 
懇親会も兼ねた宴会はすっかり盛り上がりました。
 
オーディオ談義もさることながら、Yさんの音楽談義も楽しいものでした。皆さんのメートルが上がるにつれて、その内容は微に入り細に入り、どんどんと熱を帯びていきます。面白かったのは、Yさんの「クラシック音楽はテンポがめちゃくちゃ」というもの。さすがバンドのリズムを支えたYさんです。「リズムは正確にきっちり刻むもの。クラシック音楽はその点いい加減で聴いていて気持ち悪くなる」というわけです。
 
なるほど、確かにクラシックは、アゴーギグ(テンポやリズムの揺らぎ)の妙を競うところがあって極端なルバートに大喝采を送る通ぶったファンも多いですね。その辺りは、特に、ロマやユダヤなどの音楽の影響を受けた中央ヨーロッパの音楽に色濃い。私も、ウィンナワルツの三拍子の不等価性を引き合いに出して応戦です。その点、アフリカやラテンなど第三世界の音楽はリズム中心。インテンポで正確で複雑なリズムが繰り返されていくことに高揚感があるというわけです。
 
そんなこんなで、話しはいつまで経っても終わらない(笑)。本題に入ろうということで、やおら皆さんが立ち上がったのは夜もとっぷり更けてからのこと。
 
M1さんの別宅は、別荘とはいえ大きなリビングルームがあって、そこで三種類の大型システムが楽しめるようになっています。本宅のハイエンド王道のシステムとはちょっと趣向が違っていて、いずれもそれぞれに一家言ある個性派のシステムです。M1さんは、多い時は毎週のようにこの隠れ家に通って楽しんであられるのだとか。まったくうらやましい限りです。
 
IMG_4413trm_1.jpg
 
部屋を縦使いにして、正面は、JBL K2をオール・マッキンでドライブするという、ある意味では本宅とは対照的なハイエンドシステム。
 
後面は、フラットスピーカーのFALを据えてこれを真空管アンプでドライブするというもの。
 
IMG_4422_1.JPG
 
FALは、その昔、秋葉原の外れの横町の工房を訪ねたことがありますが、一般家庭でこれを聴くのは初めてです。
 
その足元にはまたまたウェルデルタ。
 
IMG_4420trm.jpg
 
かつてショップで聴いた印象からは、ずいぶんと進化しています。ピンフォーカスの清澄な音像輪郭はそのままに、音場の前後左右の立体感もとてもナチュラル。こうした個性もウェルデルタの導入でさらに生きてきたとのことです。実験的に、もう少し壁から離して部屋中央側に引きだしてみました。こういうチューニングもこれからいろいろ楽しめそうです。
 
中間に、横使いでハーヴェスまであります。
 
IMG_4423_1.JPG
 
M1さんは、表向きは、シンプルな王道をゆくシステムで楽しむ温厚なオーディオ愛好家といった面持ちですが、その背後には長いキャリアを積み重ねてきたとてつもない機器蒐集家ともいうべきオーディオフリークなのですね。その素顔がこの秘密の隠れ家的リスニングルームにひそんでいました。
 
Harubaruさんの提案で、本宅から持参してきたバベルを、正面システムのトーレンスの下に入れてプレーヤー全体を持ち上げてみました。
 
IMG_4416_1.JPG
 
アナログプレーヤーにもバベルは絶大な効果があるとのこと。
 
確かに私も、プレーヤーの下にウェルフロートボードを入れていますし、さらにラックにもウェルデルタを導入したところ、よりSNが上がって音楽の細かな彫琢まで拾い上げるようになったと感じています。アナログがデジタル的になる感覚です。ここでも同じことが起こっているということだけは言えます。
 
むしろ、精密度が飛躍的に増したバベルでこそ、機械振動とのインターフェースであるアナログプレーヤーには効果的だとのこと。見かけは、何だかちょっと不安定なので、がっしりどっしりを好む伝統的なセッティングのイメージに反するところがありますが、CDプレーヤー本体や外部クロックと同じようにSNが上がって音楽のディテールが浮かび上がってきます。
 
IMG_4418trm_1.jpg
 
比較試聴としては、私もいささかアルコールが過ぎて、しかも、太田裕美ときてはもうメロメロです。あまり冷静に聴けていませんし、記憶も不確かです(笑)。ここではこれ以上の詳細コメントは控えさせて頂きます。
 
懇親宴会、オーディオ談義、音楽談義、さらにはバベルの比較試聴と、本宅以上に盛りだくさんでこの上なく楽しいオフ会でした。あっという間で、気がついたらもう11時を過ぎていました。
 
近くの遠刈田温泉の宿に宿泊し、翌日は再びM1さんのご案内で蔵王を経て山形側に向かいます。この続きは、さらに続編ということで。
 
(続く)


nice!(0)  コメント(0) 

バベルの恩寵 (M1おんちゃんさん本宅訪問記 仙台オーディオ探訪 その3) [オーディオ]

IMG_4362_1.JPG


仙台オーディオ探訪の旅。ウェルデルタ導入の成果に驚喜されたM1おんちゃんさんが、さらに検討されているのは…というお話の続きです。


それは、ウェルフロートの最新のバベル。


10707-2-1030x800.jpeg


M1さんは、その貸出しを受けたので、実際にすでに導入されているHarubaruさんのアドバイスをいただきながら、私、さらに同好のEさんも交えて四人で聴き較べをしてみようというのが、今回のメインイベントなのです。


Harubaruさんのアドバイスで、最も効果がありそうな外部クロックとCDP本体をバベルの上に置くことで比較することにしました。バベルは一台しかないので両方に挿入するというわけにはいきませんが、それでも4通りの比較となります。さらに、私の提案で、外部クロック無し(内部クロック)での試聴も加えてもらいました。


cd20171211_12_1.jpg


ソフトは、結局、私も聴き慣れたこれ。Harubaru邸でも果てしなく繰り返したことがあるおなじみのCDです。ボーカルやストリングスもあり、ベースのピッツィカートもあって皆さんにも聴きやすいソフトです。


このソフトの、比較試聴のチェックポイントについては、以前にHarubaruさんのところでのオフ会日記に書いたことがあります。そちらからそのまま引用します。


 ①(00:01~)弦楽オーケストラの立体感、チェロ序奏とコントラバスの定位

②(00:37~)ボーカルの定位・前後の立ち位置

③(01:14~)コントラバスのピッチカートの響き

④(01:50~)バックの弦楽オーケストラの各パートの分離、折り重なる音色と響き

⑤(02:28~)ボーカルの高音フォルテの声色、透明感、抜けや伸び(そのⅠ)

⑥(03:00~)弦楽オーケストラのヴァイオリンパートの音艶、響き、各パートの分離

⑦(04:18~)ボーカルの高音フォルテの声色、透明感、抜けや伸び(そのⅡ)




さて…


(以下は私の個人的な印象です。)


(1)外部クロック

(2)内部クロック(外部クロックを外す)


(1)と(2)の対決ですが、これは面白いことになりました。(2)内部クロックのほうが、わずかながらですが良いと感じるのです。よりナチュラルで定位も少々ほぐれてきて好ましい。外部クロックが必ずしも良いとは限らないのです。


(3)内部クロック(本体+バベル)

さらに良くなりました。高弦が落ち着き、ボーカルの透明感が増します。やはりバベルの効果は顕著に現れます。


(4)外部クロック(本体+バベル)

これには驚かされました。外部クロックの効果がここで現れました。つまり、(4)は単に(3)に外部クロックをつなぎ切り換えただけなのですが、特にボーカルの透明感が増してきたのです。幸田さんの伸びやかなソプラノが心地よい。弦楽オーケストラの定位がさらにほぐれてきてアンサンブルの中の個々の楽器の美しい線も見えてきます。


(5)外部クロック(外部クロック+バベル)

ここでバベルを本体から、外部クロックの下に敷きました。もともと外部クロックはフロアにベタ置きでした。この変更はとても大きかった。間違いなくこれがベスト。ボーカルの高音フォルテのところにどうしてもつきまとっていたビビリ、いきりのようなところが顕著に減じてきました。

もっと驚いたのは、弦楽器群の各パートの定位や存在感。特に序奏部でのチェロとコントラバスが中央にべったりと凝集してしまっていたのが(5)になって劇的に是正されました。以前は、こういう定位や空間表現はもっぱらスピーカーのセッティング(焦点合わせ)だと思っていました。いわゆる“トントン”です。しかし上流の対策によっても変わります。今回もスピーカーには一切手を触れていません。



結論を言えば、バベルはクロックに最も顕著な効果がある、ということです。比較したケースでは、外部クロックにバベルを入れるのがベスト。当初の比較では外部クロックそのものの効果にかなり疑問符がつきました。つまりは、外部クロックは万全の振動対策をしてこそ初めて本領を発揮するということです。


これだけ改善すると、聞こえているサウンドの世界が変わってきます。


当然、まだまだバベルをどこにどのようにセッティングするかは、今後も引き続き検討されるでしょうし、複数導入することもあり得るわけですし、ラック内部などスペースが限られる場所では、ウェルフロートボードの追加などもあり得るわけです。そういう検討のステージでも聞こえているクォリティが上がると、今までになかった気づきもあり、耳の感応度も上がり、問題箇所の発見も容易になっていくのだと思います。


すぐに気づくこととしては、スピーカーのウェルデルタの底部にフェルトを貼ること。AVとの入れ替えなどには床も傷つけないし、とにかく音のクウォリティがさらに上がります。バベルで持ち上がる場合、エソテリックの脚(ピンポイント脚)の受け側になるフットスタンドが宙に浮いた状態になり振動するので、フットスタンドを全て外してしまうことなどです。


M1さんは、リスニングルームを大幅に改修されることを考えておられるとか。どのような構想をお持ちなのかお聞きしませんでしたが、とにかくバベルでレベルアップされた聞こえ方で、様々な気づきとアイデアが浮かぶと思います。オーディオはよく泥沼などと言われますが、そういうスパイラルアップがあるから、これまた楽しいのです。


その後、場所を変えてのバベル実験は続きます。M1さんは、蔵王のほうに別荘をお持ちで、そちらでもまた違ったステレオセットを複数お持ちなのです。長くなりましたので、そのお話は、また、続編ということで。


(続く)

nice!(0)  コメント(0) 

何も足さない・何も引かない (M1おんちゃんさん本宅訪問記 仙台オーディオ探訪 その2) [オーディオ]


M1さんは、仙台の閑静な住宅地にお住まいです。車で仙台駅までお迎えいただきそこからご自宅に向かいます。青葉通りを青葉城のほうに向かい大橋で広瀬川を渡ると、そこは東北大学の広大な川内キャンパスが拡がっています。仙台で生まれた私自身、大昔にこの地域に住んでいたことがあるのでとても懐かしい。仙台二高を通り再び広瀬川を渡り大前神社の前を通り過ぎる。幼少の思い出に、正月のどんと焼きの思い出がよみがえります。そんなローカルな昔話が通じるうれしさに気持ちは早くも高ぶってしまいます。
 
M1さんの、システムは、ハイエンドの王道ともいうべきB&W800D3とEsotericのフラッグシップ機という顔合わせで実にオーソドックス。部屋もオーディオ専用でうらやましいほどのスペースを確保されていますが、そのスペースでさえ狭いと思えるほど大柄な機器がぎっしりと並べられ、壁にはCDやLPレコードが詰まっていて、いかにも充実したオーディオライフを楽しまれているご様子。
 
IMG_4362_1.JPG
 
さらには、全く別系統のAVも楽しまれておられるということですが、私もHarubaruさんもピュアオーディオ派ということで、2chのみを聴かせていただきました。
 
IMG_4371_1.JPG
 
そのサウンドは、ハイエンドの王道というにふさわしいもの。M1さん曰く、ほとんどポン置きのままとご謙遜ですが、確かにとても素直なサウンドで、あれこれ弄らない、いわゆる「何も足さない、何も引かない」というウェルバランス。B&WやEsotericそのものの素性がそのまま出ています。Yさんがマルチシステムの音色バランスの模範として何度も通ったというお話しにもうなずけます。
 
71Xjel6CqRL._SX522_.jpg
 
時間も限られていたので聴かせていただいたソフトは限られますが、印象的だったのはファウストのバッハ無伴奏ソナタ。
 
これまでこのCD(SACD)を聴かせていただいたなかでも最上と言っても過言ではないバランスのとれた音色でした。やはり、ハイエンドの王道の機器からそのままに素直にそのサウンドを引き出しておられるということに尽きるのでしょう。
 
このソフト、決してオーディオ映えする録音ではないと思えるのですが、しばしばオフ会のデモで取り上げられます。しかも、決してその再生は容易ではないのです。使用している楽器は、150年ものあいだ屋根裏に死蔵されていて弾かれることのなかったストラディヴァリウス『スリーピング・ビューティ』。ファウストが最初に鳴らし込むのに5年かかったというのも頷けるように、基音に対して高域倍音がとても豊かな独特の音色です。倍音が立ち過ぎて基音がなかなか聴き取れないとか、逆に、倍音が不足して楽器の個性が聞こえてこないとか、再生システムの音質に個性があると、かなりまちまちの再生音になってしまうところがあります。一聴してファウストだと感じさせ、音色に違和感がない…そういうことはとても稀なことなのです。
 
「ポン置きのまま」とのことですが、実は、ごく最近、大々的にウェルデルタを導入されたとのこと。
 
IMG_4365trm_1.jpg
 
800D3の足元を見ると、なるほどウェルデルタになっています。ついこないだまでは、竹集成材を使用した重量級のボードを使用されておられたそうです。なるほど傍らにはヴァイオリンのf字孔のようなものが空いたボードが放り出してあります。それをウェルデルタに置き換えて、その違いに驚喜されたのだとか。
 
IMG_4372trm_1.jpg
 
デジタル系のラックの足元も、同じようにウェルデルタが導入されています。こちらもその成果を発揮したとのこと。定評のあるラックでも、足元にウェルデルタを加えると音が違う。屋上屋を架すような話しだし、しかもラックで音が変わるのかと初めは誰もが半信半疑ですがその効果はてきめん。しかも、音に色づけするようなところは全く無い、音色やバランスはそのままに解像度や鮮度を上げて、雰囲気や空気感をよりリアルに感じさせてくれる。そういう体験談を申し上げるとM1さんもうなずいておられます。
 
さて…
 
ウェルデルタを一気に導入されたM1さんが、今回、検討されておられるのは…
 
 
 
長くなりましたので、この続きは次回へ。
 
(続く)

nice!(0)  コメント(0) 

マルチでハイブリッド (Y氏邸訪問記 仙台オーディオ探訪 その1) [オーディオ]

仙台に遠征しました。
 
仙台のオーディオ仲間の皆さんが熱い。しかも、そういう皆さんのあいだで、ウェルフロートの話題が盛り上がっているとのこと。そもそもは、HarubaruさんとM1おんちゃんさんとの間で、ウェルデルタや最新のバベルの使いこなしのことでやりとりがあり、私もお誘いをいただき今回の訪問が実現しました。
 
仙台までは、東京から新幹線であっという間。皆さん、独自の取り組みをされていて、目からウロコもあるし、何よりもその熱心な取り組みと交遊が素晴らしくて、とても楽しい充実したオーディオ交流となりました。
 
IMG_4394trm_1.jpg
 
まず最初にご紹介するのは、訪問の順番とは前後しますがYさんのお宅です。
 
デジタルチャンネルデバイダを使用した4ウェイのマルチドライブシステムで、まさにオンリーワンのシステムです。ほとんどが自作で、既製品も使用されていますが何らかの手が入っているようです。
 
Yuze System_01_1.jpg
Yuze System_02_1.jpg
 
まず、目につくのはスピーカー。
 
根っからのジャズファンだそうで、その中核にあるのはJBL2441ドライバとHL88。HL88は、通称「ハチの巣」。帯域は、760Hz~3.78Hzの音楽帯域のほとんどを受け持っていますので、システムのキャラクターを支配していることは間違いありません。一見、2ウェイのコンパクトスピーカー風に見えるのが、SCANSPEAKのツィターとPURIFIのミッドバスを入れたテーラーメイドの箱。
 
何よりも驚いたのは、ウーファのTAD TL-1601の低域です。軽やかで明解な低音には深みとゆとりがあり、他のユニットとも奇跡的なほどのつながりの良さで、低音楽器の自然な質感を見事に表現していてこのユニットに対する既成概念を大いに裏切っています。とにかくマニアックで個性的な見かけと違って、4つのユニットが一体となって密度の高いサウンドを聴かせてくれるのです。
 
アンプは真空管アンプが主力ですが、重いウーファーには駆動力の高い半導体アンプを投入する。良かれと思えば、デジタルであれ、半導体のハイパワーアンプであれ躊躇なく導入する。オーディオに対する確かな見解と腕力がなければできないことだと思います。
 
IMG_4394_welldelta.jpg
 
実は、つい最近までは、なかなかこういう低域が出せなかったそうで、この素晴らしい低音と全体的なウェルバランスが実現したのがウェルデルタの導入だったのだそうです。
 
全体的には平行法配置ですが、ミッドのハチの巣だけは少しだけ内向きに調整されています。
 
IMG_4407_1.JPG
 
セッティングは、レーザーポインターで厳密に墨出ししたとのこと。私が、「え?幾何学的に合わせただけですか?」と問い質すと、「もちろん、それは出発点。その基準点はとても感覚では決められませんよ」と笑っておられます。そうなんですよね。幾何学的に合わせるのはあくまでも出発点。そこからは自分の聴感を頼りにファインチューニングしていくしかない。ハチの巣だけは水平の振り角度が調整できるようになっています。ものすごく手が込んでいて、しかも、実践的。
 
Dexter Gordon.jpg
 
デクスター・ゴードンのテナーなどは、まさしくJBLならではの質感。腹腔に直接響き魂を震わせるような音はまさにホーンならではのもの。ハチの巣は、けっこう珍しくて、たぶん初めての体験だと思うのですが、これは感涙もの。
 
ところが、このJBLホーンは、クラシックをかけると少しも自己主張せずに、他のユニットとしっくりと溶け込む。これもまた驚愕でした。オイストラフのベートーヴェンのロマンスでは、実にしっとりとした、しかも、オイストラフらしい太めの深い艶のあるヴァイオリンの線の描出が見事で、しかも穏やかなオーケストラのハーモニーが心地よい。
 
この盤は、ドイツグラモフォン(DG)のオリジナル盤のようですが、ジャケットをふと見るとジャケット左上に小さく鉛筆書きで「ffrr」との文字が…。「カーブは、ffrrなんですか?」と聞くと、これはRIAAではまったくダメなんだそうです。
 
Yさんは、アナログ中心に聴かれるそうですが、チャンネルデバイダはデジタル。従ってアナログであってもフォノイコライザーの段階でデジタル変換しています。そのADCも兼ねたフォノイコライザーにM2TECH JOPLINを使用されていて、イコライザーもデジタル。従って手元のリモコンでカーブを一瞬にして切り換えておられます。
 
シベリウスの「フィンランディア」。ストリングスの美しい旋律と、奥まったところからしっとりと響く木管群の音色、咆哮する金管楽器群とティンパニで高揚します。
 
Karajan Sibelius.jpg
 
このカラヤン盤は、ステレオ初期の英国コロンビア盤。「これはカーブは何をつかわれているのですか?」と聞くと、「もちろんコロンビアカーブ」と破顔一笑。RIAAに統一された後のステレオ時代であっても、実際に聴いてみると各社それぞれで、たいがいはRIAA以外の独自カーブのほうがしっくりくるとのこと。こういうイコライザーカーブの違いは、マニアックな議論にもかかわらず、いざとなると確信も持てないしいちいちこの盤はこのカーブとちゃんと切り換えて聴いておられる人には出会ったことがありませんでしたので、思わず「う~ん」と唸ってしまいました。脱帽です。
 
アナログもネットワークのデジタル出力も、すべて、MUTECのDDCで96KHz/24bitに変換してしまいます。
 
IMG_4398_1.JPG
 
デジタルチャンネルデバイダは、確かに、アナログよりも機能的で位相も正確であるように思えますが、群遅延特性はなかなか解消できません。Yさんによると、そればかりではなく演算速度には帯域特性もあってむしろその弊害の方が聴感上は大きいとのこと。これもまた目からウロコ。これだけ変換、演算を繰り返すと、どうしても音の鮮度も落ちるものですが、聴いていると少しもそういうことを感じさせません。Yさんの話しを伺っていると様々な知見と独自の工夫を凝らしているようで、これほど、帯域が広く自然で、なおかつ、完成度が高く一体感のあるマルチシステムは初めてです。
 
meets rythm section.jpg
 
アート・ペッパーのミーツ・リズムセクションの《 You'd Be So Nice To Come Home To》。軽妙であって、それなのに、どこか切ないまでの哀感漂うペッパーのアルト。その音場感がとてもリアルで実在感があります。
 
このアルバムは、数限りなく版を重ね、ジャズ喫茶のオーナーが音の調整に使ったほど音が良いという神話もあって、デジタル、アナログ復刻盤までオーディオマニアにもてはやされていて、あちこちで聴く機会があります。
 
そういうなかでもYさんの再生は出色のもの。
 
「ほんとうのオリジナル盤であれば、左右泣き別れではなくてころほど自然な音場感があるんです。それは、この《STEREO》のロゴ入りのオリジナルのコンテンポラリー盤だけ。」とうれしそう。
 
確かに、いままで聴いたものは、LPであれCDであれ、左右のステレオ感が強調された、いわゆる中抜けの音がほとんど。ステレオが一般に普及する以前(1957年?)の録音ですから、むしろモノーラル盤こそオリジナルであって音も充実していると言うジャズファンも少なくない。
 
録音エンジニアのロイ・デュナンは、実のところごくありのままに録音していて、リヴァーブなどの加工はカッティングの際に行っていました。保存されたマザーテープの箱には、カッティング時の調整の詳細が彼自身のメモしたものとして残されているそうです。そのロイが自分の思い通りにカッティングしたのは、オリジナル初出盤のみ。その後は、レコード会社のプロデューサーの意向で変えられてしまうのです。特に、当時、普及し始めた一般家庭のハイファイセットでステレオ感を誇示するために、左右の分離をことさらに強調したものが広まってしまうことになるのです。厳重に保管されたマザーテープが残ったおかげで、復刻は可能なのですが、ロイ・デュナンの意図を再現するのはとても難しい。そのことが、このオリジナル盤が珍重されるゆえんとなっているというわけです。
 
「そういうお話は、それなりのジャズファンなら誰でも知っているのですか?」と聞いたら、「う~ん、知っているんじゃない?」とのお答えでした。実のところ、私はそういう話しは、今まで例外的にたったお一人の方からしか聞いたことがなかったのです。あまり知られていないディープなウンチクなのか、あるいは、営業妨害になるのであまり語られていないのか…。
 
Yさんは、オーディオ的な知識、独自の工夫やノウハウも素晴らしく豊富ですが、それがさらに音楽の知識やセンス、耳の良さに裏打ちされているのがすごい。後で、懇親会でお聞きしたら若い頃はジャズバンドでドラムスを担当されていたとのこと。なるほど。
 
この完成度の高い練達のサウンドが、ウェルデルタの導入でようやく達成できたとか、それがつい最近のことだとのお話しは、にわかには信じられません。それほどウェルデルタはすごい最後の最後の決定的なワンピースだったのでしょうか。ビフォー・アフターが聴いてみたかったですね。


タグ:訪問試聴記
nice!(0)  コメント(0)