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「日本の財政」(佐藤主光 著)読了 [読書]

日本の財政赤字が、いつ破綻してもおかしくない古今未曾有の危機的状況にあることは、誰だって薄々わかっている。それでいて、東日本大震災にせよコロナ禍にせよ、あるいはたびたび襲う地震や台風、大雨災害の有事にはいくらでも緊急対策があって、カネはざくざく湧いて出てくる。論点は、財源というよりはどうカネが行き渡るかの政治的な手続き論に終始する。

このままでは必ず「天は落ちてくる」と経済学者は言う。そのこと自体は間違いなさそうだ。他国では、今の日本より赤字の比率が小さいのに破綻している。歴史的にも、論理的にも、間違いない。

――それでも、天は一向に落ちてくることがない。

実際のところは、誰もがそんなことは、どこ吹く風とでも言うような風情だ。破綻回避策を訴えても、政治は知らぬ顔でバラまき政策に専心する。増税などと言おうものなら国民はこぞって反対し、「増税政治家」のレッテルを貼る。自治体行政は、DXなどとは無縁で旧態依然の手仕事を続けている。徴税は、源泉徴収という体のいい給与天引きで、企業と自治体に丸投げの社会――世界に冠たる徴税効率を誇る国だからそれを変えようというのは愚の骨頂。

著者の言う5つの提言とは……

1.賢く効果的な支出「ワイズスペンディング」
2.産業経済の新陳代謝「ゾンビ企業の退出とスタートアップ支援」
3.税制改革(マイナンバーによる所得補足)
4.セーフティネット(社会保険の租税化)
5.財政規律の回復(ペイアズユーゴー)

どれもため息が出るような虚しい提言だ。いったい誰に対して何をしろと言っているのだろうか。

著者は、政府の諮問委員会などに多く関わっているし、紫綬褒章までもらっている御用学者。それだけに確かに内容は緻密で網羅的だけれど、実現性ということには著者自身も半信半疑であることが見え透いている。実行は、あくまでも政治の問題だという他人事。

学者というのは、そういうものなのだろうか。それでも経済学者はまだマシなほうだ。政治学者などは、特定の保守政治家に擦り寄るばかりで、政治改革への具体的な方策すら提言しない。本書を読むと、破綻の責任は民主主義政治体制にあるとしか思えなくなってくる。それなら、いよいよ政治学者の出番なのだろうか。

新書というのは啓蒙の書。一般国民に訴えるのなら、もっと端的であってほしい。知恵はついても、気持ちが萎えて虚しいだけだ。



日本の財政.jpg


日本の財政
――破綻回避への5つの提言

佐藤主光 著
中公新書
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