Type-Cには裏表がある [オーディオ]
スマートフォンやタブレットなどで採用され、急速に普及したUSB Type-C (タイプC) USB Type-Cは、PCオーディオにも確実に浸透しています。
その特徴は高速データ転送と強力な電力供給ですが、もうひとつはなんと言ってもリバーシブルデザイン。
ところが、最近、リバーシブルだがその接続の裏表によって音が違うという記事が目を引きました。
やってみると、確かに違う!
投稿では、最近、注目の安価なMQA対応のDACとオーディオPC間の接続の話しです。私の場合は、オーディオPCと外付けHDDの間の接続。DACとの接続なら違いがわかっても、デジタル機器同志、双方向デジタル信号のやり取りではそんな違いがあるのだろうかと半信半疑でしたが、試してみると確実に違いを感じるのです。ちょっとした衝撃でした。
私のシステムのハード構成は極めてシンプルです。
すなわちスタンドアロンのPCだけで、音源は外付けHDDケースにSSDを2連装したものです。PC/DAC間はUSB TypeA→TypeB、PCと外付けHDD間がtype-Cとなっています。このtype-Cで極性の試聴実験をしました。
DAC ←(TypeB/A)→ Beelink EQ Mini PC →
→ (Type-C)→ Yottamaster HDD/SSDケース 2.5" 2BAY
ホスト側(HDD)とデバイス側(PC)双方の裏表(極性)がありますので、全部で4ケースとなります。(なお、ケーブルの方向性があるとするならその2倍の8ケースとなりますが、ケーブル方向性は無しと仮定して今回は捨象しています。)
この結果、1/4のただひとつだけが優位性があって音が良く、あとの3ケースは同じですべて同等に劣位すると感じました。何回か繰り返しましたが迷いは生じません。
ネットにあるType-Cの解説を読んでみました。
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/1511/17/news009.html
素人の私には読んでもちんぷんかんぷん。
要するに信号線などは対称だが、コンフィギュレーションチャンネル「CC1」(またはCC2)と電力供給「VCONN」(レセプタクル側はSBU)だけが入れ替わるということ。このことで電力供給の経路が変わり電流/電圧が違ってくるということなのでしょうか(?)。
USBに一般的に言えることですが電力ライン(Vbus)が信号に影響を与えているので、Type-Cでも正逆挿し方で影響度が変わるということなのかもしれません。しかし理屈はまったくわかりません。
あえてHDDは自己電源(5V)のものをあえて選択しているので、PDラインはあくまでも機器認識のためだけで、電力供給はしていないはずです。PDラインはUSB機器のシステム認識上どうしても必要なのでカットするわけにもいかずそのまま使っています。USB Type-Cは、信号への影響はほとんど感じないというのがこれまでの認識でした。
実は、Type-Cケーブルもいろいろとあって、それによってはPCがHDDを認識してくれず苦労しました。手当たり次第に試して、結局、認識してくれたのが《Popolier USB PD3.0対応/ 100W/5A eMarker搭載》で、以来、そのまま使用し続けています。この認識する/しない、どういう仕様のものが認識してくれるのかはわからずじまいのままです。…Type-Cは、まだまだ訳のわからないことだらけです。
どこかで理屈がわかってくると、また新たな対策や機器選択なども見えてくるのですが…。
その特徴は高速データ転送と強力な電力供給ですが、もうひとつはなんと言ってもリバーシブルデザイン。
ところが、最近、リバーシブルだがその接続の裏表によって音が違うという記事が目を引きました。
やってみると、確かに違う!
投稿では、最近、注目の安価なMQA対応のDACとオーディオPC間の接続の話しです。私の場合は、オーディオPCと外付けHDDの間の接続。DACとの接続なら違いがわかっても、デジタル機器同志、双方向デジタル信号のやり取りではそんな違いがあるのだろうかと半信半疑でしたが、試してみると確実に違いを感じるのです。ちょっとした衝撃でした。
私のシステムのハード構成は極めてシンプルです。
すなわちスタンドアロンのPCだけで、音源は外付けHDDケースにSSDを2連装したものです。PC/DAC間はUSB TypeA→TypeB、PCと外付けHDD間がtype-Cとなっています。このtype-Cで極性の試聴実験をしました。
DAC ←(TypeB/A)→ Beelink EQ Mini PC →
→ (Type-C)→ Yottamaster HDD/SSDケース 2.5" 2BAY
ホスト側(HDD)とデバイス側(PC)双方の裏表(極性)がありますので、全部で4ケースとなります。(なお、ケーブルの方向性があるとするならその2倍の8ケースとなりますが、ケーブル方向性は無しと仮定して今回は捨象しています。)
この結果、1/4のただひとつだけが優位性があって音が良く、あとの3ケースは同じですべて同等に劣位すると感じました。何回か繰り返しましたが迷いは生じません。
ネットにあるType-Cの解説を読んでみました。
https://edn.itmedia.co.jp/edn/articles/1511/17/news009.html
素人の私には読んでもちんぷんかんぷん。
要するに信号線などは対称だが、コンフィギュレーションチャンネル「CC1」(またはCC2)と電力供給「VCONN」(レセプタクル側はSBU)だけが入れ替わるということ。このことで電力供給の経路が変わり電流/電圧が違ってくるということなのでしょうか(?)。
USBに一般的に言えることですが電力ライン(Vbus)が信号に影響を与えているので、Type-Cでも正逆挿し方で影響度が変わるということなのかもしれません。しかし理屈はまったくわかりません。
あえてHDDは自己電源(5V)のものをあえて選択しているので、PDラインはあくまでも機器認識のためだけで、電力供給はしていないはずです。PDラインはUSB機器のシステム認識上どうしても必要なのでカットするわけにもいかずそのまま使っています。USB Type-Cは、信号への影響はほとんど感じないというのがこれまでの認識でした。
実は、Type-Cケーブルもいろいろとあって、それによってはPCがHDDを認識してくれず苦労しました。手当たり次第に試して、結局、認識してくれたのが《Popolier USB PD3.0対応/ 100W/5A eMarker搭載》で、以来、そのまま使用し続けています。この認識する/しない、どういう仕様のものが認識してくれるのかはわからずじまいのままです。…Type-Cは、まだまだ訳のわからないことだらけです。
どこかで理屈がわかってくると、また新たな対策や機器選択なども見えてくるのですが…。
USB接続のノイズが消える(出川式 USB‐PDFIX current+CPM) [オーディオ]
A&RラボのUSB‐PDFIX current+CPMがすごい。
PCオーディオは、DACのUSB入力につないでいます。
USBオーディオインターフェースは10年ほど前に較べると大違い。今や完全にDAC入力のデフォルトにまりました。それでも泣き所は、PD(Power Delivery)。給電のためのVBUSとGNDの2ラインが信号ラインと同居している。
信号ラインにとっては不要のはずだけれど、接続を認識するためにどうしても必要とする。5Vの直流だからさほどの影響ではないはずだが、これがばかにならない。この2ラインだけ離すなどの対策ケーブルの売られている。このPDの問題は、i2SでもHDMIケーブルで接続するならおそらく同じだろうと思っています。
これまでは、iFi audioのiDefenderを使っていました。当初は、さらに、5V給電には、バッテリー電源に加えて、同じiFi audioのmicro iUSB3.0を通じてiDefenderに給電するという念の入れようでした。ところがバッテリー電源(日本トラストテクノロジー/モバイル・パワー・バンク)の経年劣化でかえってノイズ源になってしまい、これをGaNアダプターに置き換えて現在に至っています。
GaN整流は、スイッチング周波数を従来のものから倍以上に上げてノイズを可聴帯域のはるか圏外に追い出すという画期的なものでした。しかし、A&Rラボの出川さんに言わせれば、それはあくまでも電圧変換回路の話しであって整流回路はダイオードということで変わらないとのこと。±が交差するゼロクロスでの負荷電流欠落は免れず、ここでスパイクノイズが発生することは変わらないということです。
出川さんの測定したオシロ画像には、この電流欠落やノイズが明確に観察できますし、PDFIX current+CPMでノイズが激減できることもわかります(写真)。
私のDACとは、すなわちESOTERIC GRANDIOSO-K1のUSB入力のことですから、パスパワーは関係ありませんので、本当かいな?と半信半疑でした。
ところが、USB接続に“USB‐PDFIX current+CPM”をかませてみたところ、一聴して違いがわかりました。ちょっとがく然とするほど。
周波数帯域の高低の両端で解像度がさらに改善しました。高域の厳しいハーモニーや音型でのキツさやささくれがさらに解消に向かいます。それでいて音の手触りのリアル、低音楽器の存在感が聞こえてきます。立体音場の広がりが半端なく、スピーカーのミリ単位のセッティングの違いなど、どこかへ吹っ飛んでしまいます。
PDラインの高周波ノイズが減少したと感じた瞬間でした。
それにしても、PDラインのノイズが、これほどデジタル信号の伝送ラインに影響していたとは予期しないことでした。これはDACというアナログを含む回路に直結しているところだけに起こる現象のようです。
これで、PC→DAC間の種々のノイズ対策アクセサリーが除去され、一本のUSBラインだけということでシンプルになりました。
PCオーディオは、DACのUSB入力につないでいます。
USBオーディオインターフェースは10年ほど前に較べると大違い。今や完全にDAC入力のデフォルトにまりました。それでも泣き所は、PD(Power Delivery)。給電のためのVBUSとGNDの2ラインが信号ラインと同居している。
信号ラインにとっては不要のはずだけれど、接続を認識するためにどうしても必要とする。5Vの直流だからさほどの影響ではないはずだが、これがばかにならない。この2ラインだけ離すなどの対策ケーブルの売られている。このPDの問題は、i2SでもHDMIケーブルで接続するならおそらく同じだろうと思っています。
これまでは、iFi audioのiDefenderを使っていました。当初は、さらに、5V給電には、バッテリー電源に加えて、同じiFi audioのmicro iUSB3.0を通じてiDefenderに給電するという念の入れようでした。ところがバッテリー電源(日本トラストテクノロジー/モバイル・パワー・バンク)の経年劣化でかえってノイズ源になってしまい、これをGaNアダプターに置き換えて現在に至っています。
GaN整流は、スイッチング周波数を従来のものから倍以上に上げてノイズを可聴帯域のはるか圏外に追い出すという画期的なものでした。しかし、A&Rラボの出川さんに言わせれば、それはあくまでも電圧変換回路の話しであって整流回路はダイオードということで変わらないとのこと。±が交差するゼロクロスでの負荷電流欠落は免れず、ここでスパイクノイズが発生することは変わらないということです。
出川さんの測定したオシロ画像には、この電流欠落やノイズが明確に観察できますし、PDFIX current+CPMでノイズが激減できることもわかります(写真)。
私のDACとは、すなわちESOTERIC GRANDIOSO-K1のUSB入力のことですから、パスパワーは関係ありませんので、本当かいな?と半信半疑でした。
ところが、USB接続に“USB‐PDFIX current+CPM”をかませてみたところ、一聴して違いがわかりました。ちょっとがく然とするほど。
周波数帯域の高低の両端で解像度がさらに改善しました。高域の厳しいハーモニーや音型でのキツさやささくれがさらに解消に向かいます。それでいて音の手触りのリアル、低音楽器の存在感が聞こえてきます。立体音場の広がりが半端なく、スピーカーのミリ単位のセッティングの違いなど、どこかへ吹っ飛んでしまいます。
PDラインの高周波ノイズが減少したと感じた瞬間でした。
それにしても、PDラインのノイズが、これほどデジタル信号の伝送ラインに影響していたとは予期しないことでした。これはDACというアナログを含む回路に直結しているところだけに起こる現象のようです。
これで、PC→DAC間の種々のノイズ対策アクセサリーが除去され、一本のUSBラインだけということでシンプルになりました。
オールホーンの音作り(Tさん宅訪問)後編 [オーディオ]
Tさん宅をお訪ねしたオフ会の報告の続きです。
訪問のテーマは「立体音場再生」。
「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」のか??という、こちらでのやりとりが、きっかけでした。
実際にお伺いして聴いてみれば、「立体音場再生」の思いも目指す方向性も、私と同じ、ということでした。
「立体感」というと、奥まった音場空間に幽霊のような音像がホログラフィックに林立するというイメージが一般には多いようです。特に「ハイエンド」を標榜するような人々。ここでの「立体音場再生」というのはそういうことではありません。もちろん録音によってはそういうものもあるのでしょうが、むしろ、それはコンサートフィデリティということではかえって人工的で不自然。
ひと言で言えば、眼前のステージが拡がる感じ。ホールにワープするような感覚。決してシャープでキレのあるということに限らない。音楽が部屋いっぱいに展開する。空気の共有感…。
どのようにしてそれを目指すのか?ということをTさんに聞いてみました。普段心がけていることとか、どんなことに注意を払っているかとか…。
一番のキーワードは『音圧』なのだそうだ。
実は、これまでもブログなどでTさんが『音圧』ということを仰っていることは知っていました。ところが、その言葉の意味がピンと来なかったのです。今回、直接お聴かせいただきながら会話させていただけたことでわかったような気がしてきました。
まず、強調されていたことは〈タイムアライメント〉。
ドライバーの振動面を合わせること。
各ユニットの設置位置を厳密に合わせる。それはドライバー振動面とリスニングポジションまでの距離を厳密に合わせるということ。言い換えれば、ドライバー振動面を仮想的に点音源とするように面を厳密に合わせることになります。中核となっている中低音ホーンの開口部が突出していて、しかもワンターンの折り曲げホーンになっているので見た目では気づきにくいのですが、ドライバー面はぴったり合っているそうです。ウーファーも後の壁際にあたりまえのように置いてあるのですが、よく見ればツィターも後の壁際にあって、すべてのユニットの振動源は後の壁際の二次元面にぴたりとそろっています。
勝手な思い込みかもしれませんが、『音圧』の意味合いは、全てのユニットがタテヨコぴったりと合っていること。タテ(片chの上下)だけでなくヨコ(両chの対応する左右)もピッタリと合わせてある。ネットワークも相当に年季の入ったもので時間をかけてバランスを細密に調整されてきたのではないでしょうか。
つまりは、レガッタのエイトのオールみたいなもの。
ボートは、複数のオールで漕ぐもの。エイトともなると8人で8本のオールを合わせる。ひとりひとりの体力と技術もさることながら、8本のオールをぴたりと合わせることでとてつもないスピードの差を生みます。スピーカーで全ての振動源がぴたりと合うことがすなわち『音圧』。
ホーンスピーカーの振動板は小さく、スロートを絞っているので点音源に近い。数理的に計算されたホーン形状で抑制された拡散なので干渉や反射の無い純粋な波動が得られる。その点ではコーン形よりもずっと有利です。純度の高さという意味では平面型も近いものがありますが、点音源ということではホーン型には敵わない。
ホーンスピーカーの欠点、扱いの難しさは山のようにあって、なかなか一般的普及には耐えないわけです。さらにウーファーまでホーン型というのはなかなか実現できない。たいがいはコーン型ウーファーを使うのですが、それだけでつながりが悪くなり致命的にバランスを崩してしまう。その点でもTさんは徹底しています。お聞きするとネットワークは6dB/octの一次フィルターなんだとか。これも驚きです。帯域はかなり被ってしまうわけですが、それを丹念に調整してきたのでしょう、結果として各ユニットの位相や音色のつながりが完璧に近い。しかもドライバーユニットは全て励磁に改造してあるという徹底ぶり。
振動源を合わせ焦点密度を高めたことから生まれるサウンドのエネルギーと純度は素晴らしいものがありました。もちろん、「立体音場再生」という点で部屋全体をホール音響で満たし、その中に包み込まれる。そういうオーディオの豪奢な愉悦は極上のものでした。
もうひとつ共感したのは、ジャンルの幅の広さ。
よく、クラシック向き、ジャズ向き、ロック向きだとか、ジャンルに合わせてシステムを何通りも使いわけることを自慢する人がおられます。完璧なオーディオなんて存在しないというのはわかりますが、かといって何か特定のものに合わせたものというのは主客転倒の独りよがりに過ぎないと思うのです。どんなジャンルであっても音楽ソースの隅々までバランスよく鳴らすことができてこその完成度。様々な音楽ソースを聴いてチューニングを重ねるということがオーディオの本道だと思うのです。ソースによって多少の調整をしたければトーンコントロール(あるいはグライコ)による帯域バランスの調整で十分だし、それが本道。
立体音場再生のテーマからは外れますが、モノラル再生あるいはカートリッジの比較なども楽しませていただきました。特にEMTやデッカのカートリッジのキャラクターの違いが面白かった。デフォルトはオルトフォンですが、そのことにも納得。それと比較すると、なるほどこういうことだったのかと、その違いがとても鮮やか。認識を改めました。これもまた趣味のオーディオ。ジャンルや自分の好みという独り合点の型にはめるというのではなくて、ユニットそのものの音味の違いを楽しむということ。それもオーディオの趣味性だと思うのです。
最後に、昭和歌謡をリクエストさせていただいたら、取り出したのは何と因幡晃の「わかって下さい」。低音はご謙遜だったのに、そのイントロのパイプオルガンのサウンドにはあっけにとられました。
残念だったのは、やはり、アンプや励磁電源、ネットワークのコンディショニングでしょうか。次回はぜひ、トラブル無しで安定したベストチューニングでお聴かせください。
楽しい時間をありがとうございました。
訪問のテーマは「立体音場再生」。
「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」のか??という、こちらでのやりとりが、きっかけでした。
実際にお伺いして聴いてみれば、「立体音場再生」の思いも目指す方向性も、私と同じ、ということでした。
「立体感」というと、奥まった音場空間に幽霊のような音像がホログラフィックに林立するというイメージが一般には多いようです。特に「ハイエンド」を標榜するような人々。ここでの「立体音場再生」というのはそういうことではありません。もちろん録音によってはそういうものもあるのでしょうが、むしろ、それはコンサートフィデリティということではかえって人工的で不自然。
ひと言で言えば、眼前のステージが拡がる感じ。ホールにワープするような感覚。決してシャープでキレのあるということに限らない。音楽が部屋いっぱいに展開する。空気の共有感…。
どのようにしてそれを目指すのか?ということをTさんに聞いてみました。普段心がけていることとか、どんなことに注意を払っているかとか…。
一番のキーワードは『音圧』なのだそうだ。
実は、これまでもブログなどでTさんが『音圧』ということを仰っていることは知っていました。ところが、その言葉の意味がピンと来なかったのです。今回、直接お聴かせいただきながら会話させていただけたことでわかったような気がしてきました。
まず、強調されていたことは〈タイムアライメント〉。
ドライバーの振動面を合わせること。
各ユニットの設置位置を厳密に合わせる。それはドライバー振動面とリスニングポジションまでの距離を厳密に合わせるということ。言い換えれば、ドライバー振動面を仮想的に点音源とするように面を厳密に合わせることになります。中核となっている中低音ホーンの開口部が突出していて、しかもワンターンの折り曲げホーンになっているので見た目では気づきにくいのですが、ドライバー面はぴったり合っているそうです。ウーファーも後の壁際にあたりまえのように置いてあるのですが、よく見ればツィターも後の壁際にあって、すべてのユニットの振動源は後の壁際の二次元面にぴたりとそろっています。
勝手な思い込みかもしれませんが、『音圧』の意味合いは、全てのユニットがタテヨコぴったりと合っていること。タテ(片chの上下)だけでなくヨコ(両chの対応する左右)もピッタリと合わせてある。ネットワークも相当に年季の入ったもので時間をかけてバランスを細密に調整されてきたのではないでしょうか。
つまりは、レガッタのエイトのオールみたいなもの。
ボートは、複数のオールで漕ぐもの。エイトともなると8人で8本のオールを合わせる。ひとりひとりの体力と技術もさることながら、8本のオールをぴたりと合わせることでとてつもないスピードの差を生みます。スピーカーで全ての振動源がぴたりと合うことがすなわち『音圧』。
ホーンスピーカーの振動板は小さく、スロートを絞っているので点音源に近い。数理的に計算されたホーン形状で抑制された拡散なので干渉や反射の無い純粋な波動が得られる。その点ではコーン形よりもずっと有利です。純度の高さという意味では平面型も近いものがありますが、点音源ということではホーン型には敵わない。
ホーンスピーカーの欠点、扱いの難しさは山のようにあって、なかなか一般的普及には耐えないわけです。さらにウーファーまでホーン型というのはなかなか実現できない。たいがいはコーン型ウーファーを使うのですが、それだけでつながりが悪くなり致命的にバランスを崩してしまう。その点でもTさんは徹底しています。お聞きするとネットワークは6dB/octの一次フィルターなんだとか。これも驚きです。帯域はかなり被ってしまうわけですが、それを丹念に調整してきたのでしょう、結果として各ユニットの位相や音色のつながりが完璧に近い。しかもドライバーユニットは全て励磁に改造してあるという徹底ぶり。
振動源を合わせ焦点密度を高めたことから生まれるサウンドのエネルギーと純度は素晴らしいものがありました。もちろん、「立体音場再生」という点で部屋全体をホール音響で満たし、その中に包み込まれる。そういうオーディオの豪奢な愉悦は極上のものでした。
もうひとつ共感したのは、ジャンルの幅の広さ。
よく、クラシック向き、ジャズ向き、ロック向きだとか、ジャンルに合わせてシステムを何通りも使いわけることを自慢する人がおられます。完璧なオーディオなんて存在しないというのはわかりますが、かといって何か特定のものに合わせたものというのは主客転倒の独りよがりに過ぎないと思うのです。どんなジャンルであっても音楽ソースの隅々までバランスよく鳴らすことができてこその完成度。様々な音楽ソースを聴いてチューニングを重ねるということがオーディオの本道だと思うのです。ソースによって多少の調整をしたければトーンコントロール(あるいはグライコ)による帯域バランスの調整で十分だし、それが本道。
立体音場再生のテーマからは外れますが、モノラル再生あるいはカートリッジの比較なども楽しませていただきました。特にEMTやデッカのカートリッジのキャラクターの違いが面白かった。デフォルトはオルトフォンですが、そのことにも納得。それと比較すると、なるほどこういうことだったのかと、その違いがとても鮮やか。認識を改めました。これもまた趣味のオーディオ。ジャンルや自分の好みという独り合点の型にはめるというのではなくて、ユニットそのものの音味の違いを楽しむということ。それもオーディオの趣味性だと思うのです。
最後に、昭和歌謡をリクエストさせていただいたら、取り出したのは何と因幡晃の「わかって下さい」。低音はご謙遜だったのに、そのイントロのパイプオルガンのサウンドにはあっけにとられました。
残念だったのは、やはり、アンプや励磁電源、ネットワークのコンディショニングでしょうか。次回はぜひ、トラブル無しで安定したベストチューニングでお聴かせください。
楽しい時間をありがとうございました。
タグ:訪問オフ会
オールホーンの音作り(Tさん宅訪問)前編 [オーディオ]
Tさん宅をお訪ねしました。
Tさんは、オールホーン・システム。大変なオーディオ遍歴を重ねられてきた方で、その果てにこのシステムがあります。古典的なユニットに真空管アンプで、アナログオンリー。とにかくハンドメイドの独自の世界観があるオーディオです。
そもそもは、私が「立体音場再生」と題して投稿した記事へのレスのやり取りです。Tさんが「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」「リアルサウンドでステージを実現できている」というので、それでは是非聴かせてください…となったわけです。
…というわけで、訪問のテーマはあくまでも「立体音場再生」。
到着までに一波乱。
励磁スピーカーの電源のひとつが壊れてしまったとのこと。予熱を入念にと準備中に物が落下して電源に当たってしまったそうです。車で旧知のショップで応急修理。私が駅に到着するまでに間に合いましたが、その重い電源を車内に積んでのお出迎え。
オーディオルームに入ってからも、いろいろとお取り込み。午前中からの入念な準備と十分な予熱という思惑は大ハズレ。アンプ類も励磁電源も全て到着してからの点灯というわけです。もうお気の毒と言ってよいほどのドタバタです。
案の定、最初はなかなか安定しません。言い出せばキリが無いほど気になる点が満載なのです。Tさんも最低でも2時間はかかると仰います。
しかし…
最初からおや?…と思いました。先入観として持っていたホーンのマルチウェイのイメージとは違う。確かに、音の拡がりとナチュラルなハーモニーとステージ感があります。
私の耳慣れた音源ということで、持参したレコードを優先して聴かせていただきました。上述のような暖機不足ですのでいろいろと思うところはありましたが、次第にこちらの耳も慣れてきて、このオールホーン・システムの本質が見えてきました。
最初にかけていただいたショルティ/シカゴのワグナー。
国内廉価盤なのですが、これがこういうハイクラスのオーディオにはけっこう鬼門。やっぱりそうかとちょっと落胆はしたのですが、ホルンやトロンボーンなどには気がつかなかったリアリティ。このLPは、暖機の進捗にともなって何回かかけ直しました。そのたびにこのシステムの素晴らしい素性を感じさせるようになっていきました。
次にかけたのは中本マリのボーカル。
Tさんは、低音の量感を求めないと公言しています。低域であってもあくまでも弾むような溌剌としたリアリティを追求。ユニット2本のショートホーンは巨大なもので、多少のご謙遜はあるとは思いますが、確かにとてもタイトで低域の遅れが音に被ってしまうことが皆無。ただし、周波数の加減なのか、このLPはかなり低音が気になりました。東芝音工の力作プロユース・シリーズ――洒脱なボーカルと原田政長の弾むようなウッドベース、ビッグバンドのパワフルなサウンドが魅力ですが、気になったのはキックドラム。ガツンと甲高い衝撃になってしまって低音にならない。――この原因は最後の最後に、低音ユニットの励磁電源の電圧が上がっていなかったことと判明しました。
驚いたのは、シャルランレコードが見事に鳴ったこと。
たいがいのシステムには鬼門のはずのこのレーベルが見事に鳴りました。ヴィヴァルディの四季ですが、これほどアンサンブルがほぐれて輝かしい弦楽器の蠱惑的な音色が立体的に再生されたのはあまり聴いたことがありません。この演奏にはコントラバスが含まれていないので、バランス上、前述のウーファーが悪さしなかったということもあったのかもしれません。
4way10ユニットのオールホーンをこれだけマネージするというのは大変なこと。しかも、アンプやプレーヤーもかなりの年代物です。その大変さの一端をはからずも目撃することになりましたが、大変さを苦労とせずに嬉々としてやっておられる。これこそ趣味のオーディオ。
(続く)
Tさんは、オールホーン・システム。大変なオーディオ遍歴を重ねられてきた方で、その果てにこのシステムがあります。古典的なユニットに真空管アンプで、アナログオンリー。とにかくハンドメイドの独自の世界観があるオーディオです。
そもそもは、私が「立体音場再生」と題して投稿した記事へのレスのやり取りです。Tさんが「オールホーンのマルチウェイでも立体再生はできる」「リアルサウンドでステージを実現できている」というので、それでは是非聴かせてください…となったわけです。
…というわけで、訪問のテーマはあくまでも「立体音場再生」。
到着までに一波乱。
励磁スピーカーの電源のひとつが壊れてしまったとのこと。予熱を入念にと準備中に物が落下して電源に当たってしまったそうです。車で旧知のショップで応急修理。私が駅に到着するまでに間に合いましたが、その重い電源を車内に積んでのお出迎え。
オーディオルームに入ってからも、いろいろとお取り込み。午前中からの入念な準備と十分な予熱という思惑は大ハズレ。アンプ類も励磁電源も全て到着してからの点灯というわけです。もうお気の毒と言ってよいほどのドタバタです。
案の定、最初はなかなか安定しません。言い出せばキリが無いほど気になる点が満載なのです。Tさんも最低でも2時間はかかると仰います。
しかし…
最初からおや?…と思いました。先入観として持っていたホーンのマルチウェイのイメージとは違う。確かに、音の拡がりとナチュラルなハーモニーとステージ感があります。
私の耳慣れた音源ということで、持参したレコードを優先して聴かせていただきました。上述のような暖機不足ですのでいろいろと思うところはありましたが、次第にこちらの耳も慣れてきて、このオールホーン・システムの本質が見えてきました。
最初にかけていただいたショルティ/シカゴのワグナー。
国内廉価盤なのですが、これがこういうハイクラスのオーディオにはけっこう鬼門。やっぱりそうかとちょっと落胆はしたのですが、ホルンやトロンボーンなどには気がつかなかったリアリティ。このLPは、暖機の進捗にともなって何回かかけ直しました。そのたびにこのシステムの素晴らしい素性を感じさせるようになっていきました。
次にかけたのは中本マリのボーカル。
Tさんは、低音の量感を求めないと公言しています。低域であってもあくまでも弾むような溌剌としたリアリティを追求。ユニット2本のショートホーンは巨大なもので、多少のご謙遜はあるとは思いますが、確かにとてもタイトで低域の遅れが音に被ってしまうことが皆無。ただし、周波数の加減なのか、このLPはかなり低音が気になりました。東芝音工の力作プロユース・シリーズ――洒脱なボーカルと原田政長の弾むようなウッドベース、ビッグバンドのパワフルなサウンドが魅力ですが、気になったのはキックドラム。ガツンと甲高い衝撃になってしまって低音にならない。――この原因は最後の最後に、低音ユニットの励磁電源の電圧が上がっていなかったことと判明しました。
驚いたのは、シャルランレコードが見事に鳴ったこと。
たいがいのシステムには鬼門のはずのこのレーベルが見事に鳴りました。ヴィヴァルディの四季ですが、これほどアンサンブルがほぐれて輝かしい弦楽器の蠱惑的な音色が立体的に再生されたのはあまり聴いたことがありません。この演奏にはコントラバスが含まれていないので、バランス上、前述のウーファーが悪さしなかったということもあったのかもしれません。
4way10ユニットのオールホーンをこれだけマネージするというのは大変なこと。しかも、アンプやプレーヤーもかなりの年代物です。その大変さの一端をはからずも目撃することになりましたが、大変さを苦労とせずに嬉々としてやっておられる。これこそ趣味のオーディオ。
(続く)
タグ:シャルラン・レコード 訪問オフ会
ベルイマン邸で聴き較べ [オーディオ]
ベルイマンさん宅を訪問しました。
ちょっとした比較の検証。まあ、体の良い検聴とか比較試聴のすり合わせというわけですが、その結果に驚愕しました。
比較 その1
OPPOのユニヴァーサルプレーヤーの設定変更。
OPPO UDP-205は、あらゆるディスクメディアのあらゆるフォーマットを高音質で再生できると人気の高かったユニヴァーサルプレーヤー。ところがOPPOは、その1年後に突如ユニバーサルプレーヤーの新規製品の企画・開発中止を発表し、このUDP-205も生産中止となりました。
それが、OPPOのエンジニアリングを引き継いだプレーヤーがまた新たに登場したそうだ。それでマニアの多くの乗り換えを始めたおかげで、UDP-205が中古市場で入手し易くなったのだとか。
UDP-205は、様々なサラウンド設定が可能で音質のみならず機能面でもその高いユニヴァーサリティということで優れもの。先ずは、SACDを何枚かサラウンド再生で聴かせていただいた。
比較は、その設定の変更。
これで同じSACDを2ch再生で聴く。……これには仰天!
まったく違う録音を聴いていると思えるくらいに違う。素晴らしい音質と立体感。
この設定は、どういうものかというと多岐にわたるサラウンド設定機能をバイパスしてしまうこと。だから、5.1chサラウンド再生はできない。その代わりに、SACD 2-track DSDの素のままの音が聴ける。
設定機能をスルーすると、これほどまでに音が良くなるのか!ということ。逆に、様々な設定機能を使うということは、DSD信号をいったんPCM信号に変更しているということ。PCMでなければDSPは不可能。このPCM変換とDSPが結局は音の鮮度を落としてしまう。
あまりの違いに驚いてしまいます。いったい今まで聴いていたのは何だったのかという気分。ベルイマンさんは、私の感想を聞いて、やっぱりそうですか…とちょっと暗い表情。
比較 その2
ベルイマンさんはパワーアンプの新規導入を検討中。最も気に入ったA社のアンプの導入を決めて、ショップ貸出で試聴中。選択肢は、a.フラッグシップの大パワーアンプと、b.ワングレード下のアンプ。
SACDのみならず私の持参したCDを中心に試聴。
一通り聴いたところで、アンプを入れ換える。何しろ50キロぐらいありそうなアンプを30キロぐらいのものに入れ換える。持ち上げるだけでも大変なこと。それにしても、a.とb.とでは、出力は300W/8Ωと150W/8Ω、価格だって倍半分の違いがある。同じメーカーの現行品だから、それは値段次第だろう。それを、あえて聴き較べするというのだから、何か含むところがあるのだろう。
聴いてみて、これまた意外で驚いた。
出力も価格も半分のb.の方が、音の色艶に優れていて明らかに表情が豊か。
その差はごくわずかだろうと予測したけれど、「聴いたとたんに勝負あったという感じですね」と言うと、ベルイマンさんもやっぱりそうですかとうなずく。これは、安いに越したことはないから、とてもうれしそう。ハンドリングも楽だし、拡張性も有利だ。
ベルイマンさんは、大変な爆音派。しかもスピーカーは大変なローインピーダンスで帯域によっては2Ωを下回る。a.も、b.も、もちろん目いっぱいの爆音で同じ音量での比較試聴。それでも、b.はビクともしない。つまりはa.の出力はオーバースペックに過ぎないということ。
こういうフラッグシップとの逆転は、ままあることでそれほど驚かないが、こんなにあからさまだということは意外でした。
では、なぜ、そのようなことが起こるのか?これは私の推測だけれども、パラレルプッシュプルの弊害だとしか思えない。a.の出力段は、10パラレル・プッシュプル。出力半分のb.は、6パラレル。
パラレルなんて、やらないほうが良い。ベストはシングルだ。それでも出力面で素子の限界はあるのでパラレルにせざるを得ないとしても、それは数が少ない方がよい。どんな優れた素子であっても個体のバラツキは避けられない。回路設計や実装面でも数が多くなればなるほど難しい。
少なければ少ないほどよい――そう思っています。
そのことがこれほど如実に出るのかと驚きましたし、メーカーというものはそれが音質面であからさまに出ても構わずカタログをそろえるのだということは意外でした。
ちょっとした比較の検証。まあ、体の良い検聴とか比較試聴のすり合わせというわけですが、その結果に驚愕しました。
比較 その1
OPPOのユニヴァーサルプレーヤーの設定変更。
OPPO UDP-205は、あらゆるディスクメディアのあらゆるフォーマットを高音質で再生できると人気の高かったユニヴァーサルプレーヤー。ところがOPPOは、その1年後に突如ユニバーサルプレーヤーの新規製品の企画・開発中止を発表し、このUDP-205も生産中止となりました。
それが、OPPOのエンジニアリングを引き継いだプレーヤーがまた新たに登場したそうだ。それでマニアの多くの乗り換えを始めたおかげで、UDP-205が中古市場で入手し易くなったのだとか。
UDP-205は、様々なサラウンド設定が可能で音質のみならず機能面でもその高いユニヴァーサリティということで優れもの。先ずは、SACDを何枚かサラウンド再生で聴かせていただいた。
比較は、その設定の変更。
これで同じSACDを2ch再生で聴く。……これには仰天!
まったく違う録音を聴いていると思えるくらいに違う。素晴らしい音質と立体感。
この設定は、どういうものかというと多岐にわたるサラウンド設定機能をバイパスしてしまうこと。だから、5.1chサラウンド再生はできない。その代わりに、SACD 2-track DSDの素のままの音が聴ける。
設定機能をスルーすると、これほどまでに音が良くなるのか!ということ。逆に、様々な設定機能を使うということは、DSD信号をいったんPCM信号に変更しているということ。PCMでなければDSPは不可能。このPCM変換とDSPが結局は音の鮮度を落としてしまう。
あまりの違いに驚いてしまいます。いったい今まで聴いていたのは何だったのかという気分。ベルイマンさんは、私の感想を聞いて、やっぱりそうですか…とちょっと暗い表情。
比較 その2
ベルイマンさんはパワーアンプの新規導入を検討中。最も気に入ったA社のアンプの導入を決めて、ショップ貸出で試聴中。選択肢は、a.フラッグシップの大パワーアンプと、b.ワングレード下のアンプ。
SACDのみならず私の持参したCDを中心に試聴。
一通り聴いたところで、アンプを入れ換える。何しろ50キロぐらいありそうなアンプを30キロぐらいのものに入れ換える。持ち上げるだけでも大変なこと。それにしても、a.とb.とでは、出力は300W/8Ωと150W/8Ω、価格だって倍半分の違いがある。同じメーカーの現行品だから、それは値段次第だろう。それを、あえて聴き較べするというのだから、何か含むところがあるのだろう。
聴いてみて、これまた意外で驚いた。
出力も価格も半分のb.の方が、音の色艶に優れていて明らかに表情が豊か。
その差はごくわずかだろうと予測したけれど、「聴いたとたんに勝負あったという感じですね」と言うと、ベルイマンさんもやっぱりそうですかとうなずく。これは、安いに越したことはないから、とてもうれしそう。ハンドリングも楽だし、拡張性も有利だ。
ベルイマンさんは、大変な爆音派。しかもスピーカーは大変なローインピーダンスで帯域によっては2Ωを下回る。a.も、b.も、もちろん目いっぱいの爆音で同じ音量での比較試聴。それでも、b.はビクともしない。つまりはa.の出力はオーバースペックに過ぎないということ。
こういうフラッグシップとの逆転は、ままあることでそれほど驚かないが、こんなにあからさまだということは意外でした。
では、なぜ、そのようなことが起こるのか?これは私の推測だけれども、パラレルプッシュプルの弊害だとしか思えない。a.の出力段は、10パラレル・プッシュプル。出力半分のb.は、6パラレル。
パラレルなんて、やらないほうが良い。ベストはシングルだ。それでも出力面で素子の限界はあるのでパラレルにせざるを得ないとしても、それは数が少ない方がよい。どんな優れた素子であっても個体のバラツキは避けられない。回路設計や実装面でも数が多くなればなるほど難しい。
少なければ少ないほどよい――そう思っています。
そのことがこれほど如実に出るのかと驚きましたし、メーカーというものはそれが音質面であからさまに出ても構わずカタログをそろえるのだということは意外でした。
ダイレクト・カット盤の再生 [オーディオ]
秋葉原アムトランスでの新忠篤氏ミニコンサート。
今回のテーマは、ダイレクト・カット盤の再生。
ダイレクト・カットとは、磁気テープを介さずに直接、収録現場でラインミックスしたものをそのままカッティングマシンでラッカー盤をカットするというもの。
今回再生されたのは7枚。いずれも凄い音がした。
01 日本のキンテート・レアル VOL.1
02 ロイ・エヤーズ・クァルテット
03 ザ・スリー
04 ダイレクト・フロム・クリーヴランド
05 アーサー・フィードラー・アンド・ボストン・ポップス
06 ワーグナー、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ロス・アンゼルス・フィル
07 テルマ・ヒューストンとプレッシャー・クッカー
先鞭をつけたのは日本コロンビアだったそうだ。01はその第一弾。来日して連夜のショーで人気を博していたタンゴ演奏グループに声をかけたところ快諾。深夜のスタジオで収録。恐ろしいほどのリアルさと、眼前で生の音を浴びるようなエネルギーで、文字通りダイレクトな音がする。45回転だからなおのこと。
02は、やはり来日したハービー・マンのクィンテットに声をかけたら即座にOK。ただしハービー・マンはアトランティックとの契約の縛りがあって参加できない。言ってみればマン抜きの、ハービー・マン・クァルテット。こちらも45回転。
03は、1974年に設立された日本のジャズ・レーベル。設立者は伊藤八十八。LAに遠征して収録。ラッカー盤をそのまま日本に持ち帰ったのだとか。クルセイダーズのジョー・サンプルが、レイ・ブラウン、シェリー・マンと組んだ豪華な顔ぶれのスペシャル・セッション。
ダイレクト・カットはやがて米国レーベルへと波及する。
04は、世界初のクラシックのダイレクト・カットと銘打ってテラークが手がけたもの。後のテラークのワンポイント的な音場感は皆無で、ちょっとのけぞってしまうような近接感。あからさまなハイ上がりにむせかえる。……と、思ったその瞬間、新さんの手が伸びる。
新さん設計・自作のフォノイコライザーアンプはEQ可変式。SPを聴くためにあらゆるEQカーブに対応できる。切り換え式ではなくて、ターンオフ/ロールオーバーをそれぞれ連続可変で調節できるのでトーンンコントロールのようにも使える。ステレオレコードを、ffrrだ、ColumbiaだというRIAA否定派とRIAA統一派との不毛な論争の双方をあっという間に黙らせてしまうような新さんの瞬間技に感じ入ってしまう。このアンプは、21世紀の真空管ユニットで組んであって、しかもバッテリー駆動。
こうしたダイレクト・カットは、簡単に再生できるわけではない。なかなかダイレクト盤らしい本領を発揮するのは実は難しい。そのことは実体験で知っているつもり。今回の再生のカギは、カートリッジ。
使用されたのは、クラング・クンストの10A。
ラッカーマスターのカッティング状態チェック用に開発されたもの。いかにもダイレクト再生にふさわしいが、そんじょそこらのカートリッジではない。その秘密は、コイルが、カンチレバーを介さずスタイラス真上に直接ついている。最近、フィデリックスが新開発したMC-F1000やオーディオテクニカがモデルチェンジしたART1000Xのいわば本家本元。
セッティングもかなり難しそうでなかなか素人にできることではないようだ。
推奨針圧は最大5.5gだそうだが、それを7gまでかけている。もっとかけたいところだそうだが盤を痛めかねないのでこれが限界なんだとか。バイブやピアノ、あるいは06のようなクラシックのフルオーケストラの大音量でもびくともしない。とびきりの安定度に驚いてしまう。大針圧のせいか盤によってはハイハットやパーカッションの高域がちょっと粗っぽいところがあるが、その広帯域、広ダイナミックレンジには腰が抜けるほど。アナログとは思えないが、その音にはデジタルには感じられないリアルな音の振動感覚がある。電気吹き込み以前のSPレコードは、すなわちダイレクト・カットだったので、どんなにレンジが狭かろうが、サーフィスノイズがあろうが、その魅力はこの音感覚がある。いわばアナログの魅力の根源のようなもの。
「爆音でどうもすみませんでした。」と新さんもしってやったりとご満悦のようで満面の笑顔です。
ダイレクト・カッティング盤は、けっこう沢山発売された。最近ではアナログ復権の潮流にのって21世紀のダイレクト・カットと称してキングレコードもチャレンジしているようだ。
ただし、ダイレクト・カッティング盤をそのままプラッターに載せて針を落とせばたちどころに別世界……というものではない。セッティングの完成度が試される。けっこうチャレンジングなものだと思う。こんなサウンドを聴かされると、なおのことそう思いました。
使用機材
カートリッジ Klang Kunst 10A
フォノイコライザー KORG Nutube使用連続可変型フォノイコライザー
アンプ ELEKIT TU-8900
スピーカー GIP Monitor 1
今回のテーマは、ダイレクト・カット盤の再生。
ダイレクト・カットとは、磁気テープを介さずに直接、収録現場でラインミックスしたものをそのままカッティングマシンでラッカー盤をカットするというもの。
今回再生されたのは7枚。いずれも凄い音がした。
01 日本のキンテート・レアル VOL.1
02 ロイ・エヤーズ・クァルテット
03 ザ・スリー
04 ダイレクト・フロム・クリーヴランド
05 アーサー・フィードラー・アンド・ボストン・ポップス
06 ワーグナー、エーリッヒ・ラインスドルフ指揮ロス・アンゼルス・フィル
07 テルマ・ヒューストンとプレッシャー・クッカー
先鞭をつけたのは日本コロンビアだったそうだ。01はその第一弾。来日して連夜のショーで人気を博していたタンゴ演奏グループに声をかけたところ快諾。深夜のスタジオで収録。恐ろしいほどのリアルさと、眼前で生の音を浴びるようなエネルギーで、文字通りダイレクトな音がする。45回転だからなおのこと。
02は、やはり来日したハービー・マンのクィンテットに声をかけたら即座にOK。ただしハービー・マンはアトランティックとの契約の縛りがあって参加できない。言ってみればマン抜きの、ハービー・マン・クァルテット。こちらも45回転。
03は、1974年に設立された日本のジャズ・レーベル。設立者は伊藤八十八。LAに遠征して収録。ラッカー盤をそのまま日本に持ち帰ったのだとか。クルセイダーズのジョー・サンプルが、レイ・ブラウン、シェリー・マンと組んだ豪華な顔ぶれのスペシャル・セッション。
ダイレクト・カットはやがて米国レーベルへと波及する。
04は、世界初のクラシックのダイレクト・カットと銘打ってテラークが手がけたもの。後のテラークのワンポイント的な音場感は皆無で、ちょっとのけぞってしまうような近接感。あからさまなハイ上がりにむせかえる。……と、思ったその瞬間、新さんの手が伸びる。
新さん設計・自作のフォノイコライザーアンプはEQ可変式。SPを聴くためにあらゆるEQカーブに対応できる。切り換え式ではなくて、ターンオフ/ロールオーバーをそれぞれ連続可変で調節できるのでトーンンコントロールのようにも使える。ステレオレコードを、ffrrだ、ColumbiaだというRIAA否定派とRIAA統一派との不毛な論争の双方をあっという間に黙らせてしまうような新さんの瞬間技に感じ入ってしまう。このアンプは、21世紀の真空管ユニットで組んであって、しかもバッテリー駆動。
こうしたダイレクト・カットは、簡単に再生できるわけではない。なかなかダイレクト盤らしい本領を発揮するのは実は難しい。そのことは実体験で知っているつもり。今回の再生のカギは、カートリッジ。
使用されたのは、クラング・クンストの10A。
ラッカーマスターのカッティング状態チェック用に開発されたもの。いかにもダイレクト再生にふさわしいが、そんじょそこらのカートリッジではない。その秘密は、コイルが、カンチレバーを介さずスタイラス真上に直接ついている。最近、フィデリックスが新開発したMC-F1000やオーディオテクニカがモデルチェンジしたART1000Xのいわば本家本元。
セッティングもかなり難しそうでなかなか素人にできることではないようだ。
推奨針圧は最大5.5gだそうだが、それを7gまでかけている。もっとかけたいところだそうだが盤を痛めかねないのでこれが限界なんだとか。バイブやピアノ、あるいは06のようなクラシックのフルオーケストラの大音量でもびくともしない。とびきりの安定度に驚いてしまう。大針圧のせいか盤によってはハイハットやパーカッションの高域がちょっと粗っぽいところがあるが、その広帯域、広ダイナミックレンジには腰が抜けるほど。アナログとは思えないが、その音にはデジタルには感じられないリアルな音の振動感覚がある。電気吹き込み以前のSPレコードは、すなわちダイレクト・カットだったので、どんなにレンジが狭かろうが、サーフィスノイズがあろうが、その魅力はこの音感覚がある。いわばアナログの魅力の根源のようなもの。
「爆音でどうもすみませんでした。」と新さんもしってやったりとご満悦のようで満面の笑顔です。
ダイレクト・カッティング盤は、けっこう沢山発売された。最近ではアナログ復権の潮流にのって21世紀のダイレクト・カットと称してキングレコードもチャレンジしているようだ。
ただし、ダイレクト・カッティング盤をそのままプラッターに載せて針を落とせばたちどころに別世界……というものではない。セッティングの完成度が試される。けっこうチャレンジングなものだと思う。こんなサウンドを聴かされると、なおのことそう思いました。
使用機材
カートリッジ Klang Kunst 10A
フォノイコライザー KORG Nutube使用連続可変型フォノイコライザー
アンプ ELEKIT TU-8900
スピーカー GIP Monitor 1
「氷の世界」井上陽水は透けたほうがよい? [オーディオ]
「氷の世界」井上陽水。
実は、ポリドール・プレス盤とビクター・プレス盤があって、しかも、ビクター・プレス盤が良い音だという指摘に目からウロコ。
ビクター・プレス盤の見分け方は、レコードが透けて見えるかどうかなのだそうだ。
私は、マトリックスやらプレス・マークなどというものはよくわからない。だから、見分け方が透ける透けないと言われればもはやそれを信じるしかない。
それにしても、所蔵の「氷の世界」は、リアルタイムで買い求めたもの。それがOMEだなんてはずは無い。もともとこのディスクは素晴らしい音で悦に入っていたもの。オフ会などでもこれ見よがしにかけたこともある。
久しぶりにかけてみて、絶好調!
LEDライトで試してみた。
なんと透ける!
ためしにドイツ・グラモフォン国内盤をかたっぱしから取り出して試してみた。
透けない!
陽水のひとつ前のアルバム「センチメンタル」は……透けない!
ポリドール内製とビクターでは音が断然違うというコメントは、クラシックのドイツ・グラモフォン国内盤を聴く限り信じられないが、わざわざ音が悪いという内製盤を探して聴く気にもなれないから、本当かどうかはわからない。
音が良いことではこちらも随一とも思っている「あおぞら」岩崎宏美もかけてみた。
こちらも透ける!まあ、ビクターレーベルなんだから当たり前か。
実は、ポリドール・プレス盤とビクター・プレス盤があって、しかも、ビクター・プレス盤が良い音だという指摘に目からウロコ。
ビクター・プレス盤の見分け方は、レコードが透けて見えるかどうかなのだそうだ。
私は、マトリックスやらプレス・マークなどというものはよくわからない。だから、見分け方が透ける透けないと言われればもはやそれを信じるしかない。
それにしても、所蔵の「氷の世界」は、リアルタイムで買い求めたもの。それがOMEだなんてはずは無い。もともとこのディスクは素晴らしい音で悦に入っていたもの。オフ会などでもこれ見よがしにかけたこともある。
久しぶりにかけてみて、絶好調!
LEDライトで試してみた。
なんと透ける!
ためしにドイツ・グラモフォン国内盤をかたっぱしから取り出して試してみた。
透けない!
陽水のひとつ前のアルバム「センチメンタル」は……透けない!
ポリドール内製とビクターでは音が断然違うというコメントは、クラシックのドイツ・グラモフォン国内盤を聴く限り信じられないが、わざわざ音が悪いという内製盤を探して聴く気にもなれないから、本当かどうかはわからない。
音が良いことではこちらも随一とも思っている「あおぞら」岩崎宏美もかけてみた。
こちらも透ける!まあ、ビクターレーベルなんだから当たり前か。
アンプも電源次第 (出川邸訪問記) [オーディオ]
立体音場再生には、まず電源が重要ということで盛り上がっていたところでしたので、出川さん宅を訪問できたのは実にタイムリーでした。
出川さんは、あの出川式電源で知られるA&Rラボの主宰。
整流ダイオードは正負逆転する一瞬(毎サイクル2回、約950μ秒)は電流が流れないので10%は音が欠落しているという。それを補間的な回生回路で遮断時間を解消するという独自のデバイスを案出されている。理屈はともかくその効果は聴いてみるとすぐわかります。
この回生回路の原理は、回路内の配線のインダクタンスによって発生する逆起電圧にも適用できる。私のアンプはすべてバッテリーによるDC電源だけれでも、出川式モジュールで強化しています。この回路はACアダプター内に発生する高周波ノイズにもノイズフィルターとしても機能するのです。
今回は、真空管アンプのチョークインプット電源を出川式で改造強化しているものが聴けるとのことで、従来型との比較試聴を期待して訪問したのですが、もはや、そういう切り換え比較はやめてしまったと破顔大笑。
真空管アンプの試聴はそこそこに、「デジタルアンプもいい音するよ」と取り出したのが、いわゆる中華デジアン(Fosi Audio TB10D)。
これが、(失礼ながら)真空管アンプ顔負けの素晴らしいサウンド。
しかし、これはあくまでも電源次第。
試しにと、付属のACアダプター(32V)にすると、たちまちショボい音になる。
とはいえ、最初にいきなり出川式電源で聴いていたからそう感じるだけで、1万円ちょっとの手のひらサイズのアンプの出音とは信じられないパワーと高音質であることには呆れてしまうほど。
このACアダプターに、出川式のFIXコネクタ(欠落電流補填回路&高周波ノイズ回生回路)をつなぐと、ぐっと音の品格が上がる。
持参した窒化ガリウム(GaN)アダプタにすると、ほぼ出川式のリニア電源に匹敵する。これは持参した自分としては、してやったりの気分。さらにFIXコネクタを通すとやはりグレードが上がった感じがすることも同じ。スイッチング電源というのは窒化ガリウムといえども、入り口はダイオード整流だから10%欠落は免れないからだそうです。
しかも、このアダプターはPC用に使っていたもので、電流容量も小さく、そもそも19V用。やはり、このデジアン(電源min18-max48V)のポテンシャルを最大限に発揮するのは、出力電圧の高い出川式のリニア電源なのかもしれません。
それにしても、デジアンは電源次第ということを痛いほど実感します。
そのまま、このデジアンでプリアンプの比較試聴をしました。
この日のデフォルトのプリアンプは、アース配線はまだ未完でバラ配線のままという出来たてのほやほやのもの。
比較したのは、ヘッドアンプ初段が私の金田式バッテリーアンプと同じSONY 2SK97のもの。イコライザアンプはオペアンプMUSES 02(旧・新日本無線→現・日清紡マイクロデバイス)で組んであります。やっぱりなかなか良い音です。それにしてもデフォルトのプリアンプは、明らかに頭が抜けている。こちらのヘッドアンプは、2SK97よりずっと以前のメタルキャンタイプのデュアルFETのようです。EQアンプもディスクリート構成。
けれども聴いてみると、音の質を圧倒的に支配しているのは電源部のようです。
図抜けているデフォルトのプリアンプの電源は、別筐体で立派なカニトランスを備えた大変な力作。
使われている出川式第2世代電源モジュールや回生回路もモジュールの容量はパワーアンプ並み。定電圧回路も、ノイズを撒き散らす3端子レギュレーターではなくてしっかりとパワートランジスタを使用したデスクリートで構成されています。そして、件の真空管パワーアンプのチョークインプット電源強化に使用されているライン・コントロール・モジュール(LCM)で構成されているコンデンサには、なんと0.1μFの大容量マイカコンデンサが使われています。なかなかこれに敵う電源はないでしょう。
電源というものの重要性をまた改めて実感させていただきました。
アナログアンプも、やっぱり電源次第ということなのです。
出川さんは、あの出川式電源で知られるA&Rラボの主宰。
整流ダイオードは正負逆転する一瞬(毎サイクル2回、約950μ秒)は電流が流れないので10%は音が欠落しているという。それを補間的な回生回路で遮断時間を解消するという独自のデバイスを案出されている。理屈はともかくその効果は聴いてみるとすぐわかります。
この回生回路の原理は、回路内の配線のインダクタンスによって発生する逆起電圧にも適用できる。私のアンプはすべてバッテリーによるDC電源だけれでも、出川式モジュールで強化しています。この回路はACアダプター内に発生する高周波ノイズにもノイズフィルターとしても機能するのです。
今回は、真空管アンプのチョークインプット電源を出川式で改造強化しているものが聴けるとのことで、従来型との比較試聴を期待して訪問したのですが、もはや、そういう切り換え比較はやめてしまったと破顔大笑。
真空管アンプの試聴はそこそこに、「デジタルアンプもいい音するよ」と取り出したのが、いわゆる中華デジアン(Fosi Audio TB10D)。
これが、(失礼ながら)真空管アンプ顔負けの素晴らしいサウンド。
しかし、これはあくまでも電源次第。
試しにと、付属のACアダプター(32V)にすると、たちまちショボい音になる。
とはいえ、最初にいきなり出川式電源で聴いていたからそう感じるだけで、1万円ちょっとの手のひらサイズのアンプの出音とは信じられないパワーと高音質であることには呆れてしまうほど。
このACアダプターに、出川式のFIXコネクタ(欠落電流補填回路&高周波ノイズ回生回路)をつなぐと、ぐっと音の品格が上がる。
持参した窒化ガリウム(GaN)アダプタにすると、ほぼ出川式のリニア電源に匹敵する。これは持参した自分としては、してやったりの気分。さらにFIXコネクタを通すとやはりグレードが上がった感じがすることも同じ。スイッチング電源というのは窒化ガリウムといえども、入り口はダイオード整流だから10%欠落は免れないからだそうです。
しかも、このアダプターはPC用に使っていたもので、電流容量も小さく、そもそも19V用。やはり、このデジアン(電源min18-max48V)のポテンシャルを最大限に発揮するのは、出力電圧の高い出川式のリニア電源なのかもしれません。
それにしても、デジアンは電源次第ということを痛いほど実感します。
そのまま、このデジアンでプリアンプの比較試聴をしました。
この日のデフォルトのプリアンプは、アース配線はまだ未完でバラ配線のままという出来たてのほやほやのもの。
比較したのは、ヘッドアンプ初段が私の金田式バッテリーアンプと同じSONY 2SK97のもの。イコライザアンプはオペアンプMUSES 02(旧・新日本無線→現・日清紡マイクロデバイス)で組んであります。やっぱりなかなか良い音です。それにしてもデフォルトのプリアンプは、明らかに頭が抜けている。こちらのヘッドアンプは、2SK97よりずっと以前のメタルキャンタイプのデュアルFETのようです。EQアンプもディスクリート構成。
けれども聴いてみると、音の質を圧倒的に支配しているのは電源部のようです。
図抜けているデフォルトのプリアンプの電源は、別筐体で立派なカニトランスを備えた大変な力作。
使われている出川式第2世代電源モジュールや回生回路もモジュールの容量はパワーアンプ並み。定電圧回路も、ノイズを撒き散らす3端子レギュレーターではなくてしっかりとパワートランジスタを使用したデスクリートで構成されています。そして、件の真空管パワーアンプのチョークインプット電源強化に使用されているライン・コントロール・モジュール(LCM)で構成されているコンデンサには、なんと0.1μFの大容量マイカコンデンサが使われています。なかなかこれに敵う電源はないでしょう。
電源というものの重要性をまた改めて実感させていただきました。
アナログアンプも、やっぱり電源次第ということなのです。
カデンツァ (Lotus Roots邸訪問オフ会) [オーディオ]
Lotus Rootsさんのシステムは、とてもシンプルでスマートです。
それでいて、そのサウンドはとても濃厚。
5年前と、基本的な構成も使用機器もほとんど変わっていません。中核となっているのは、ウィーンアコスティックのスピーカー。今はそれをクラッセの小粋なプリメインアンプでドライブしている。中低音音域が厚めなのは、何と言ってもウーファーが三つのBeethoven Concert Grandのキャラクター。アンプによっては低音が出すぎて悩ましい。それをモニターライクなクラッセでクセのない音に仕上げておられます。
5年前からのウェルフロート遣いであることはそのまま。さらに進化してウェルデルタをここかしこに重用されています。部屋の調音もいろいろ工夫されておられるのは、やはり低音の過剰とかぶりをいかに抑え込みながら、ウィーンアコスティックの持ち味を活かしていくのかということなのだと思います。
その中低音の滑らかな濃密さは、女性ボーカルを聴かせていただくとあっという間に悩殺されてしまいかねないほど。
オフ会の楽しさのひとつは、やはり、いろいろと自分の知らない音楽ソフトを教えていただけること。同行された、やはりウィーンアコスティック遣いのVafanさんの持参したLPレコードといい、女性ボーカルの魅力に打ちのめされてしまいます。
オランダの歌姫、トレンチャは以前もLotus Rootsさんに教えていただいたのですが、またまた新たなCDを聴かせてもらって、さっそく購入してしまいました。
ディエゴのギターとシリルのボーカルは、オーディオ的な生々しさ満点で、びびっと来ます。こちらのCDは到着待ち。
もうひとつは、ヴェロニカ・エーベルレのベートーヴェンの協奏曲。こちらはその日のうちにネットからダウンロード。
とにかく遅い。第一楽章だけでもフルに26分かかります(ちなみにハイフェッツなら20'40")。全部聴くわけにいかないのでカデンツァを聴かせてもらうと、これがエグい(笑)。
この曲のカデンツァというとアウアー、ヨアヒム版を良く聴きます。最近は、ベートーヴェン自身によるピアノ協奏曲編曲版のカデンツァの逆編曲も大はやりです。こちらは新作のカデンツァで、そのモダンな技巧はぶっ飛びもの。しかも、ピアノ版のようにティンパニが加わり、しかも、コントラバスまで合いの手を入れる。低音でぶいぶい聴かせられて思わずのけぞってしまいました。まさに、Beethoven Concert Grandならばこそ。
大の字がつく名曲中の名曲で、誰が弾いても食傷気味ですが、これは思わず手を出してしまったというわけです。
オフ会後は、懇親会で大いに盛り上がってしまいました。お店には、ちょっとこだわりの銘柄も置いてあって、酔いに任せてついついウンチクを垂れてしまったのはオーディオ界の老害そのものだと、大いに反省です。
タグ:訪問オフ会
スピーカーが無い (kikiさん邸訪問記) [オーディオ]
kikiさんのお宅を訪問しました。
よく「スピーカーが消える」と言います。
でも…
kikiさんのスピーカーは、始めから《無い》――存在していません。
唯一無二のユニークな再生システムです。それは何と言っても「対向型」とでも言うべきスピーカーセッティングによる立体音場再生です。マンションの6畳ほどのリスニングルームに案内されると、まず目を引くのはリスニングポジション正面にスピーカーが無いこと。スピーカーは、足元のフロア左右に向き合うようにセットされていて、こちらを向いていません。目の前にスピーカーがある一般のセッティングとは違う。スピーカーが《無い》というわけです。
ちょっとレトロな機器を使い込んでいて、スピーカー、アンプと幾種類かの組み合わせで、それぞれ独立したラインアップでいろいろと工夫を重ねながら楽しむというのがkiki流。「対向法」と言っても、ご自身があれこれスピーカーの振り角などを試行錯誤しているうちに行き着いたものだそうです。「対向法」というのは、誰かがそう呼んでいると後で知ったそうです。この日は、残念ながらQUAD ESLはお休み。ちょっと不調だそうです。
一番奥と手前にENSAMBLE ANIMATA。真ん中にaudio physic BRILON 1.0SLE。いずれも小型スピーカーですべて足元のフロア置き。それぞれかなりの仰角がつけられています。オーディオシステムの面構えとしてはかなりユニークです。
いきなり「お持ちのCDをおかけください」と言われて、ちょっと戸惑いました。立体音場再生の検証用にと、ごく限られた調整用のCDしか持ってこなかったからです。気を取り直して、常用定盤リファレンスCDをかけていただきました。
最初に、奥のANIMATAから。こちらはAccuphase A-20Vを2台ブリッジでドライブしているそうです。
正直申し上げて、これはあまり感心しませんでした。音場が中央に寄ってしまい音像定位がはっきりしません。奥行きはありますが、音場が小さく狭くまとまってしまいステージが見えてきません。パッヘルベルのカノンではハーモニーは綺麗に響くのですがカノンの3つのパートが分離してくれない。
幸田浩子のアヴェ・マリアではボーカルが奥に薄く遠くなってしまいます。これはいかにも位相が甘い。スピーカーのセッティングが云々という以前にアンプの位相がちゃんとしていないのでしょう。ブリッジ接続があだになっているのではないでしょうか。
次に、真ん中のBRILONです。
これは良い!…と思いました。BRILONは私が使用しているスピーカースタンド(サイドプレス)の原点ともなったスピーカーなので名前は知っていたのですが実見するのは初めて。こんなに小さいのかと意外でしたが、このサイズは音場再生にはうってつけ。ただ残念なのは音色がいまひとつ。高域が粗っぽい。その責めはどうやらこれまたアンプにあるようです。中華製の真空管アンプをベースに改造したものとのことですが、真空管なのかあるいは他のデバイスなのか素性が良くないのかもしれません。
最後に、一番手前のANIMATA。
これが、音場も音色も申し分ない。「どれがいいですか?」と聞かれて、ためらわずに「これです」とお答えしました。同じスピーカーであり、それぞれ存分に詰めたセッティングなので、判別しているのはアンプということになります。こちらはKYOCERA(B-910)の純A級アンプ。初めて知りましたが、京セラが90年代に突然オーディオに参入した時の、いわば幻のアンプ。これを2台左右独立でプリアンプでバランス出力を形成して接続しているとのご説明でした。
プリアンプは、kikiさん自作のもの。バッテリー駆動ということ以外の詳細はよく理解できませんでしたが、音量は従来の前段・後段の中間のアッテネーターで減衰するのではなくて出力段のゲインをコントロールするもののようです。グランドについても独自の考え方があるそうです。回路の詳細はともかく、一聴してSNが素晴らしく音色もとびきり自然なものだということがわかります。
ただし、聴いているうちに微かに不満が残ります。高域での左右定位がよくないのです。そのことはパッヘルベルのカノンでも、アヴェ・マリアでも感じます。中域以下の音域で定位を作っている分には申し分ないのですが、ヴァイオリンなど高域でなおかつ倍音成分がたっぷりの音像となるとおかしくなってしまいます。
ふと思いついて、ANIMATAのサランネットを外してもらいました。
これが正解でした。どうしても対向型ですとツィターの指向限界で左右定位を作ることになります。ANIMATAのツィターはドーム型で指向性は良いはずですが、さすがに対向型はシビアなのでサランネットで位相が拡散してしまっているのだと推測したわけです。対向型で音場を作るということは、ツィターの素性、特に指向性が極めてシビアにならざるを得ないと感じます。
ここからは、音楽鑑賞にスイッチが切り替わります。様々な音源をお聴かせいただきました。
ひとつだけご紹介すると、ブレンデルのモーツァルト。
ブレンデルのモーツァルト・ソナタというのは意外に思われるかも知れませんが、あまり多くは録音していません。このCDは初めて知りました。モーツァルトというのはピアニストに言わせると演奏が最も難しいそうです。汲めども尽きぬ深遠があって、平易な楽譜はかえってつかみどころがない。ファジル・サイなどを聴くと、何だか行きつく所まで来たとげんなりさせられますが、このブレンデルには、オーソドックスな完璧なまでのモーツァルトで、心が洗われるような思いがします。
このCDは、フィリップスの正規版にもかかわらず、すべてライブ収録だということが異色。
しかも、ヴェニューが違う。
最初に聴かせていただいたK570は、アムステルダムのコンセルトヘボー。その豊かな響きが透明度を伴って息を呑むほど純度が高い。いささか朴訥なあのホールの縦長のシューボックスの形が見えてきます。
一方、次に聴かせていただいたトルコ行進曲は、イギリスのスネイプのモルティングハウス。ウィスキーのモルト工場を改装したホールのウッディな暖かみのある韻が心地よく、ホールの高さよりもがフロアや壁が鳴るようで木組みのホールの姿が目に浮かぶよう。こちらはBBCがクレジットされていて、フィリップスのクルーではないようです。やはりホールの音を知り尽くしているということなのでしょうか。
よく音楽知らずのオーディオ耳と揶揄されますが、それはそういう虚飾で歪められた音ばかり聴いているからに過ぎません。究極の音場再生とは、演奏が収録される会場やホールの形さえもが見えてきます。
そういう再生システムにようやく出会えたような気がしました。
よく「スピーカーが消える」と言います。
でも…
kikiさんのスピーカーは、始めから《無い》――存在していません。
唯一無二のユニークな再生システムです。それは何と言っても「対向型」とでも言うべきスピーカーセッティングによる立体音場再生です。マンションの6畳ほどのリスニングルームに案内されると、まず目を引くのはリスニングポジション正面にスピーカーが無いこと。スピーカーは、足元のフロア左右に向き合うようにセットされていて、こちらを向いていません。目の前にスピーカーがある一般のセッティングとは違う。スピーカーが《無い》というわけです。
ちょっとレトロな機器を使い込んでいて、スピーカー、アンプと幾種類かの組み合わせで、それぞれ独立したラインアップでいろいろと工夫を重ねながら楽しむというのがkiki流。「対向法」と言っても、ご自身があれこれスピーカーの振り角などを試行錯誤しているうちに行き着いたものだそうです。「対向法」というのは、誰かがそう呼んでいると後で知ったそうです。この日は、残念ながらQUAD ESLはお休み。ちょっと不調だそうです。
一番奥と手前にENSAMBLE ANIMATA。真ん中にaudio physic BRILON 1.0SLE。いずれも小型スピーカーですべて足元のフロア置き。それぞれかなりの仰角がつけられています。オーディオシステムの面構えとしてはかなりユニークです。
いきなり「お持ちのCDをおかけください」と言われて、ちょっと戸惑いました。立体音場再生の検証用にと、ごく限られた調整用のCDしか持ってこなかったからです。気を取り直して、常用定盤リファレンスCDをかけていただきました。
最初に、奥のANIMATAから。こちらはAccuphase A-20Vを2台ブリッジでドライブしているそうです。
正直申し上げて、これはあまり感心しませんでした。音場が中央に寄ってしまい音像定位がはっきりしません。奥行きはありますが、音場が小さく狭くまとまってしまいステージが見えてきません。パッヘルベルのカノンではハーモニーは綺麗に響くのですがカノンの3つのパートが分離してくれない。
幸田浩子のアヴェ・マリアではボーカルが奥に薄く遠くなってしまいます。これはいかにも位相が甘い。スピーカーのセッティングが云々という以前にアンプの位相がちゃんとしていないのでしょう。ブリッジ接続があだになっているのではないでしょうか。
次に、真ん中のBRILONです。
これは良い!…と思いました。BRILONは私が使用しているスピーカースタンド(サイドプレス)の原点ともなったスピーカーなので名前は知っていたのですが実見するのは初めて。こんなに小さいのかと意外でしたが、このサイズは音場再生にはうってつけ。ただ残念なのは音色がいまひとつ。高域が粗っぽい。その責めはどうやらこれまたアンプにあるようです。中華製の真空管アンプをベースに改造したものとのことですが、真空管なのかあるいは他のデバイスなのか素性が良くないのかもしれません。
最後に、一番手前のANIMATA。
これが、音場も音色も申し分ない。「どれがいいですか?」と聞かれて、ためらわずに「これです」とお答えしました。同じスピーカーであり、それぞれ存分に詰めたセッティングなので、判別しているのはアンプということになります。こちらはKYOCERA(B-910)の純A級アンプ。初めて知りましたが、京セラが90年代に突然オーディオに参入した時の、いわば幻のアンプ。これを2台左右独立でプリアンプでバランス出力を形成して接続しているとのご説明でした。
プリアンプは、kikiさん自作のもの。バッテリー駆動ということ以外の詳細はよく理解できませんでしたが、音量は従来の前段・後段の中間のアッテネーターで減衰するのではなくて出力段のゲインをコントロールするもののようです。グランドについても独自の考え方があるそうです。回路の詳細はともかく、一聴してSNが素晴らしく音色もとびきり自然なものだということがわかります。
ただし、聴いているうちに微かに不満が残ります。高域での左右定位がよくないのです。そのことはパッヘルベルのカノンでも、アヴェ・マリアでも感じます。中域以下の音域で定位を作っている分には申し分ないのですが、ヴァイオリンなど高域でなおかつ倍音成分がたっぷりの音像となるとおかしくなってしまいます。
ふと思いついて、ANIMATAのサランネットを外してもらいました。
これが正解でした。どうしても対向型ですとツィターの指向限界で左右定位を作ることになります。ANIMATAのツィターはドーム型で指向性は良いはずですが、さすがに対向型はシビアなのでサランネットで位相が拡散してしまっているのだと推測したわけです。対向型で音場を作るということは、ツィターの素性、特に指向性が極めてシビアにならざるを得ないと感じます。
ここからは、音楽鑑賞にスイッチが切り替わります。様々な音源をお聴かせいただきました。
ひとつだけご紹介すると、ブレンデルのモーツァルト。
ブレンデルのモーツァルト・ソナタというのは意外に思われるかも知れませんが、あまり多くは録音していません。このCDは初めて知りました。モーツァルトというのはピアニストに言わせると演奏が最も難しいそうです。汲めども尽きぬ深遠があって、平易な楽譜はかえってつかみどころがない。ファジル・サイなどを聴くと、何だか行きつく所まで来たとげんなりさせられますが、このブレンデルには、オーソドックスな完璧なまでのモーツァルトで、心が洗われるような思いがします。
このCDは、フィリップスの正規版にもかかわらず、すべてライブ収録だということが異色。
しかも、ヴェニューが違う。
最初に聴かせていただいたK570は、アムステルダムのコンセルトヘボー。その豊かな響きが透明度を伴って息を呑むほど純度が高い。いささか朴訥なあのホールの縦長のシューボックスの形が見えてきます。
一方、次に聴かせていただいたトルコ行進曲は、イギリスのスネイプのモルティングハウス。ウィスキーのモルト工場を改装したホールのウッディな暖かみのある韻が心地よく、ホールの高さよりもがフロアや壁が鳴るようで木組みのホールの姿が目に浮かぶよう。こちらはBBCがクレジットされていて、フィリップスのクルーではないようです。やはりホールの音を知り尽くしているということなのでしょうか。
よく音楽知らずのオーディオ耳と揶揄されますが、それはそういう虚飾で歪められた音ばかり聴いているからに過ぎません。究極の音場再生とは、演奏が収録される会場やホールの形さえもが見えてきます。
そういう再生システムにようやく出会えたような気がしました。
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