横浜のMさんを訪問しての「快音レコード!持ち寄りオフ会」で、Mさんがかけてくれたレコード再生にUNICORNさんがまさかのダメ出し(!?)というお話しの続きです。



UNICORNさん曰く「これは再発盤だね。あの時代のヨーロッパオリジナル盤の音は、もっと艶やかな音のはず!」

ただでさえこのアナログ盤は入手難のレア盤。このディスクが後々の再発盤だったことは図星だったようでMさんが悔しがること悔しがること…。オリジナル盤ともなるとン十万円だそうで、…というよりもそもそも出物がなかったのだと嘆くことしきり。それにしても話しがトリヴィアルでついていけない(笑)。これよりもさらに良い音っていったいどんな音?という思いでした。



そのUNICORNさんが持参されたレコード。

こういうシンプルなものが、このシステムでは本領発揮。ダイナ・ショアのヴォーカルにくつろいだ色気があってとても艶めかしい。でもクラシック派の私にとっては若きプレヴィンのピアノがちょっと気になるところ。UNICORNさんも同じような感覚だったらしく、その気配を感じ取ったMさんが立ち上がります。

アクティブイコライザーを駆使して、盤ごとに一枚一枚音を聴きながら微妙に帯域バランスを調整していくと、わずかな調整で音のディテールが変わっていきます。その変化にも驚きますが、みるみるうちに音色のピントのようなものが絞り込まれていくことになお驚かされます。盤の音を聴くだけでなく、持参したレコードの持ち主の意見や、場合によってはその表情を読み取りながら調整していく。その知識、感性、技能の素晴らしさ。のみならず、茶事の亭主の《おもてなし》の神髄とも言うべき、ホストの心配りには感服させられてしまいます。



そういうボーカルとピアノ、あるいはアメリカンとヨーロピアンの録音の音色や空間の捉え方の違いといったことが、帯域の微妙なバランスの合わせ方で浮かび上がってくるということは、エヴァンス率いるピアノトリオと北欧の美神とが出会ったこのディスクでも同じ。まさに「降っても晴れても」という感じ。



これも、いかにも女性ボーカルに通じたLotus Rootsさんらしい選択。濃度のある声音はかなり中性的。これもまたとてもシンプルで、しかもアコースティック。社会派シンガーソングライターらしい毅然とした芯の強さには色気というものは無縁ですが、歌手との距離をとても近寄せて親しみを感じさせるサウンドです。



いたちょうさんのお得意の中本マリ。最近仕入れた中古盤だそうですが、東芝EMIのプロユースシリーズ。東芝の「不良社員」こと行方洋一氏の仕掛けた高音質シリーズですが、その音の凄みにはMさんも舌を巻いたご様子。この頃の日本のオーディオ界の元気の良さをしのばせる…そんな団塊世代の感慨にふけっている場合じゃないと思ったほど。



やはりいたちょうさんお得意の中森明菜。これも45回転の華が満開という感じでキレキレのパーカッション。これには、今度はMさんが「センターボーカルが奥に引っ込む録音が残念」とダメ出し。Mさんによると、80年代の録音のある種の流行だったのだそうです。



その意味で対象的なのが、始めにMさんがかけてくれた南沙織。これを聴いたUNICORNさんが「南沙織ってこんなにいい声だったの?」と思わぬことを口走ります。南沙織といえば我が世代にとっては青春そのもの。学生時代からジャズ一辺倒だったUNICORNさんの世間からのズレように一同爆笑。たまらずMさんが我らがシンシアのディープなウンチクをひとくさり。Mさんは学生時代に、学園祭のコンサートでPAを担当しその縁でデビュー間もない彼女に相当密着していたそうです。オーディオキャリアはその頃からのことで筋金入りなのです。



こうなるとクラシック派の私もいろいろ気になってきます。これもMさんが最初にかけてくれたディスク。

ここでもMさんのトーンコントロールの冴えが光ります。みるみるうちに音色が私好みになっていく。ライブの空気感がすーっと沸き立ってきます。ハタから見るとクラシック派というのは、いわゆるピラミッド型の抑えた高域を好むというように見られるようですが、本来はまったく逆なのです。

面白かったのは、定位とか立体感覚の違い。Mさんは、デュプレとバレンボイムが泣き別れだと仰ったのですが、聴かせていただくとけっこう二人は中央に寄り添うように定位します。ただし、リスニングポジションをあえてセンターから外すと音像がスピーカー中央から外れてしまいます。どうやらMさんは、このシステムではあえてそういう音像の焦点合わせに頓着していない。それがこのマッキンの存在価値ではない、と言わんばかり。というのも以前に別の部屋で聴かせていただいたパラゴンでは見事なまでの3D空間だったからです。



私も、始めのころにはセンターポジションにこだわっていましたが、いろいろ聴かせていただくうちに、だんだんとツボのようなものが別にあると感じてきました。センターにこだわるあまり後ろに下がると、背後のワインセラーのガラスが反射面となって中低域をぼかしてしまいます。分厚いガラスは触ってみても大音量にもびくともしませんが、一次反射面になって位相が交差してしまうのでしょう。

そのことに気がついて、センターへのこだわりを捨てて前方のかなり右寄りのソファーに移動しました。かなり右スピーカー正面に近くなり定位が崩れてしまいますが、むしろここの音がおいしい。鮮度が高く、かつ、濃厚な音色の旨味があります。気に入って後半はずっとここで聴いていました。後でMさんにその話しをすると、Mさんにとっては、実はそのソファーがスイートスポットなんだとか。何だか拍子抜けしてしまいました(笑)。



オフ会を終えて、中華街に繰り出して、懇親会。ここでも、オーディオとか歌謡界の変遷とか、いろいろな話題に花が咲きました。ちょっとここでは書き切れないほど中身の濃いオフ会で、勉強にもなりましたし、また、それ以上に仲間がこうして集えることの楽しさがぎゅうぎゅうに詰まった一日だったのです。


(終わり)