先日、秋葉原のオヤイデへ行ったついでに懸案のFALを訪ねてみた。


田中伊佐資さんの「ジコマン開陳」で紹介されている究極の位相整合フラットスピーカーだ。




末広町のちょっと横町を入ったところにショップを兼ねた工房と試聴室がある。社長の古山さんがにこやかに招じ入れてくださりいろいろ聴かせていただいた。




これは一聴に値する。


「どのスピーカーが鳴っているかわからない」というのは本当だ。




「スピーカーが消える」ということを一笑し理解しようとしないマニアや、ステレオの音像定位をピンポンステレオのことだと勘違いしているひとが多い。そういうひとは一度ここにきて聴いてみるとよい。




不思議なのは音像に高低があること。奥まった音像は高い位置に定位する。社長の言うように、ティンパニや金管はステージ奥の台の上から鳴っている。しかし、奥の音像は例外なく高く、近距離は例外なく低いというのは不思議。三善朗の変則的な編成のアンサンブルで、冒頭のコントラバスが中央奥でまるで空中浮遊しているような高い場所で鳴るのにはちょっと違和感があった。そもそも録音が高低差を自然にとらえているかどうかは疑問だ。何かありそう。


このスピーカーシステムの弱点は、やはり帯域が狭いこと。特に低音。位相整合を徹底追求するとマルチウェイにできないのだろう。低域が軽くて薄く、迫力やリアリティが弱い。高域は伸びているように聞こえるが解像度が不足する。美音で聴きやすいヴァイオリンだが真正の強い弓音が聞こえない。音像がすべて引っ込む方向で、音楽が妙に冷静で消極的なことも気になる。


これほどの奥行きは驚嘆に値するが、三次元音空間の「スピーカーが消える」という再生は自分なりに実現できていると思う。6dB/octの自然な分割と小型モニターのマルチドライブの成果だ。あるいはDEQXでのデジタルによる位相整合の可能性も目の当たりに体験している。だから飛びつきたくなるような衝動は起きないが、やはりこの奥行きは魅力だ。


すごい。