私たちの怒濤のドイツ音楽旅行も、いよいよ最終日です。

フィルハーモニーでのオルガンコンサートがはねた後は、夜のベルリンシュターツオパーまで時間があるので、少しだけベルリン市内観光を楽しみました。まずは、フィルハーモニーの向かいにある「絵画館」に行きました。



特別展示の「ボッティチェリ・ルネサンス」はラッキーでしたが、私たちのほんとうのお目当てはフェルメールの「真珠の首飾りの女」でした。紛らわしいのですが「真珠の首飾りの少女(青いターバンの少女)」は、すでに一昨年、オランダ・デン=ハーグの美術館で観ています。

絵画館の後は、夫婦別行動。

というのも、私にはどうしても訪ねてみたかった場所があるのです。



地下鉄を乗り継いで、市の中央から南西の郊外ダーレムに向かいます。ベルリン・フィルの野外コンサートが開かれるヴァルトビューネにほど近い、自然豊かな閑静な住宅街にその教会があります。



ここはカラヤン時代に数々の名録音を残したイエス・キリスト教会。

大きな教会ですが、外観はごくふつうのモダンなもの。何の案内もありませんが、中に入ると見覚えのあるステンドグラスの列が眼前にあります。



それでも内装も質素でふつうの教会です。中ではクリスマス・イブに演ずるのでしょう、子供たちのクリスマス劇の練習中でした。そのおかげで、多少なりともここのアコースティックを体感することができました。



教会といっても、残響はそれほど長くはなく、ほどよく抑制されたクリーンでバランスのとれた響きです。録音会場としては理想的な響きだったのでしょう。竣工間もないフィルハーモニーのデッドで貧しい響きに満足できなかったカラヤンが録音場所としてここにとどまり続けたのもよくわかります。

さほどスペースがあるとは思えないのですが、椅子を後方に片づけると大編成のオーケストラもすっぽりと収まってしまうのです。容量としても、十分かつ大きすぎず録音には最適だったというわけです。



白黒写真は、1972年1月のヴェルディ/レクイエムの録音セッション。ミレッラ・フレーニ、クリスタ・ルートヴッヒ、カルロ・コッスッタ、ニコライ・ギャウロフらが参加しました。



今でもここで盛んに録音セッションが行われていることは、その響きのよさの証左です。録音会場としていまだに現役なのは、響きのよさとともにそのアクセスの良さと抜群の周囲環境に恵まれているからだと思います。周囲は森や林に囲まれていてほんとうに静かです。地下鉄の駅から徒歩10分ほどでの場所ですし、自動車もほとんど通りません。

テルデックのスタジオも、ここから歩いて2~30分ほどの距離にあるのですが、さすがに徒歩で往復するのは時間もかかります。外観だけでもとは思いましたが、夕闇も迫ってきてさすがに断念しました。

こんなところを訪ねたところで何もないのですが、やはり音楽ファン、オーディオファンとしては、とても豊かな気持ちになります。よい想い出になりました。

さて、いよいよ、今夜は最後のイベント、グノーの歌劇「ファウスト」です。

(続く)