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ベルリン国立歌劇場 「ファウスト」 (ドイツ音楽三昧 その9-最終回) [海外音楽旅行]

ついにドイツ音楽三昧の旅も最終章。最後の夜となったのは、ベルリン国立歌劇場による大作「ファウスト」です。

残念なのは、ウンター・デン・リンデンの本来の歌劇場(リンデン・オーパー)は改修中だということ。2010年に3年の計画で改修工事が始められましたが、2015年末になってもいまだに完成せずいまのところ竣工見通しは2017年とのことです。

ベルリン国立歌劇場は、東西分断の時代には東ベルリン側にありました。ベルリンの音楽芸術のチャンピオンは、オーケストラが西側へ、オペラは東側へ、と分断する結果となったのです。西側では市立歌劇場であったベルリン・ドイツ・オペラを対抗馬として押し立て盛り上げます。1963年ベームらに率いられたベルリン・ドイツ・オペラの初来日は、カラヤン率いるベルリン・フィルの来日とともに日本の戦後音楽史を飾る大イベントでした。

そのいわば東西ベルリンのオペラの両雄が、いまやビスマルク通りをはさんでご近所同志というわけです。ベルリン国立歌劇場のオーケストラやスタッフには東ベルリン出身者が多いのでいささか不本意でしょう。しかも仮住まいも5年も経ってしまうと本拠地のことを全く知らない団員も増えているとのことです。

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シラー劇場は、ごくふつうの劇場で、NYのブロードウェイの大きめのミュージカル・シアターといったところです。席数は900席ほどでしょうか。オペラ上演会場としてはいかにも小さい。

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プロセニアムも小さいので、スペクタルには不向きと言わざるを得ません。古典的な歌劇場も意外に小さなものですが、ドレスデンやライプツィヒでは、さらに客席にも演出上の舞台を広げて空間を目一杯立体的・ダイナミックに使う工夫がされていましたが、ここでは客席そのものも小さく1階と2階だけの映画館のような構造なのでなかなかそうも行かないようでした。

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それでも物事には、一長一短の両面があるものです。

私たちは例によって、最前列の正面席に陣取って、かぶりつきの観劇です。歌手陣の生々しい演技や、その艶やかな声量豊かな美声を身体いっぱいに浴びるような感覚に気持ちが奮い立つ思いがしました。

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若返ったファウストを演じるブレスリクがとても新鮮で瑞々しい歌唱と演技で、いわば自分の野心や上昇志向と、良心と悔悛の情との板挟みに思い悩む青年を活き活きと演じています。「ファウスト」というのは、悪魔に魂を売って若返るという伝説説話というふうに単純にとらえていましたが、そういう伝説を元にしながらも決して荒唐無稽なものではなく、社会的成功と倫理との矛盾と相克という現代に通ずる普遍の深みを感じます。

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やはり、メフィストフェレス役のルネ・パーぺが巧くて、この歌劇全体を支配しているという感じでした。『悪役』というのは劇全体を引き締める重要な役どころだと痛感させられます。彼のメフィストは、決して悪魔的なものではなく、どちらかといえば運命とか宿命とか、そういうものを皮肉な形で示してくれる父性的な演技。後悔の念にかられた本心とはうらはらに、マルグリートの兄との決闘に勝利し彼を殺してしまう。ファウストの背後にまとわりつく、そういう抗うことのできな宿命とか不条理のもつ《日常性》を象徴するような演技です。

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そのマルグリートのタチアナ・リスリックもとてもフレッシュ。ファウストとの不倫、子殺しの罪に問われ、ついには気が狂ってしまうという悲惨このうえないマルグリートなのですが、あくまでも清純無垢で清々しく、廃墟のなかに咲く一輪の花のような《救済》を清らかに演じきっていました。

何といっても素晴らしかったのは、シモーネ・ヤングの熱っぽい指揮ぶりです。

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最前列中央なので、彼女の熱気がほんとうにじかに伝わります。もちろん、オーケストラピットが深いので彼女の頭と肩より上しか見えませんが、ちょっとふり返ると舞台そでに据えられたモニターで彼女の指揮ぶりがよく見えるのです。これほど身体を大きく動かして、体全体でオーケストラを動かしていくその熱い指揮ぶりにほんとうに感動してしまいました。ブレスリクも、パーぺも、抑制の効いた理知的な歌唱なのですが、それでも歌劇全体に大きな悲劇性と感情の起伏があるのは、ヤングの熱いサウンドがあったからだと思います。

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もし、このオペラがリンデン・オーパーで行われていたら…と、ちょっぴり未練はありましたが、今回の音楽三昧の掉尾を飾るにふさわしいすばらしいオペラ体験でした。








ベルリン国立歌劇場 グノー「ファウスト」
2015年12月20日(日) 20:00
ベルリン シラー劇場

シモーネ・ヤング指揮
ベルリン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ベルリン)

ファウスト:パヴォル・ブレスリク
メフィストフェレス:ルネ・パーペ
マルグリート:タチアナ・リスニック ほか




Faust
Opera by Charles Gounod

Conductor Simone Young
Director Karsten Wiegand
Set Design Barbl Hohmann
Costume Design Ilse Welter

Choreography (Act 1 + 2) Otto Pichler
Choreography (Act 3 + 4) Kathlyn Pope

Light Design Olaf Freese
Chorus Master Martin Wright


Faust nach der Verjungung
Pavol Breslik

Mephistopheles
Rene Pape

Valentin
Alfredo Daza

Marguerite
Tatiana Lisnic

Siebel
Marina Prudenskaya

Marthe Schwerdtlein
Constance Heller

Faust vor der Verjungung
Stephan Rugamer


20. Dec 2015 | 19:00 H
Staatsoper im Schiller Theater

Staatskapelle Berlin
Staatsopernchor

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