先だって日記にグラウンドアンカーということを書きました。

そのなかで、電気回路には電圧の基準となるGND(シグナルグラウンド/SGND)があって、最終的にはこのSGNDラインが金属製の箱(シャーシ)に接続される。それがフレームグラウンド(FGND)というもの…という主旨のことを書きました。

このフレームグラウンドの接続ポイントがとても大事なのです。それがグラウンドアンカーという言葉にすることで、どこにアンカーを降ろすかということがとても大事だということに改めて目覚めました。そのことは、古来、アンプ製作の諸先輩方が口を酸っぱくして説いてきたことです。

そこで、ずっと気になっていたことを実行してみました。

それは自作の金田式プリアンプのシャシーアースポイントの変更です。実に簡単なことなのですが、その効果はあっけないほどに明らかでした。


気になっていたのは、フォノ再生時のミューティングスイッチです。



金田式プリアンプの回路は、極めてシンプル。信号ラインは、全て直結になっていて、接点は皆無です。フォノとラインの切り換えは、トグルスイッチひとつ。ロータリースイッチのような接点は一切入っておらず、切り換えはそれぞれ一方の信号ラインをアースに落としてしまうというようになっています。フォノのミューティング回路も同様で、ミューティング・オン時には、アースに落としてしまい信号をフラットアンプに流れないようにするというシンプルな手法です。

前々から気になっていたのですが、このミューティングスイッチの切り換えでボツッという大きなノイズが出ます。最初だけで2回目からはほとんど聞こえなくなるのですが、このスイッチに指が触れるとガサゴソとノイズが出ます。特に身体に静電気がたまる冬場にはこれがひどくなります。

スイッチ不良を疑って、半田づけをやり直したり、スイッチを新品に交換してもみましたが改善がみられません。もう一度交換するしかないかと思い悩みましたが、その前にアースのことも再考してみることも必要だと感じていました。そう思いながらもなかなか実行しなままでいたのです。

もともとは、ヘッドフォンジャックにつないでいました。このジャックの取り付けがシャシーに導通しているからです。

ところがこのジャックがクセ者で、構造上、絶縁が不完全で使用しているうちに左右chでクロストークが発生するというトラブルになりました。それでヘッドフォンをやめてしまいました。ジャックは一応新品に換装しましたが、それきりヘッドフォンで聴くこともなくなり信号ラインも外してしまったのですが、アースポイントはそのままにしていたのです。

一方のシャシーアース端子は、同様にシャシーに導通しています。設計者は、ループを避けるためにヘッドフォンジャックでフレームグラウンドが落ちるのでシャシー端子には何もつながないようにしているのです。つまり、シグナルアースとシャシー端子間はアルミフレームでつながっているというわけです。

今回、作業を前にして製作記事をよく読み直してみると、ヘッドフォンジャックを省略する場合は、フォノ入力の左ch(アース端子に近い側)のコールドから端子に落とすようにと明記されていました。何のことはありません、設計者はちゃんと明示していたのです。これで気が楽になりました。



つなぎ換えてみると…

やはり、ノイズは出ます。ダメかな。

…ところが、3日か4日経ってみると、あれあれ、ものの見事にノイズが出なくなってしまいました。その効果は明らかでした。



それにしても結果が出るまでに3日も4日もかかるとは。

グラウンドアンカーという考え方は、機器の電位をより電荷容量の大きな堅固なグラウンドにつないで安定させるということです。そのグラウンドの電位が低ければ低いほど、機器の信号グラウンドの電位も下がりSNが上がります。つまり電荷容量の大きさ、電位(≒接地抵抗)の低さの両方があってこそアース効果が大きくなるわけです。

ところが、この電位の移動は、亀の歩みほども遅いのです。

電気信号の伝播速度は光速に準ずるのだから、電子は目にもとまらぬ速さで移動していると思われがちですが、それは間違いです。信号伝播はあくまでも電磁波です。波動現象とモノの移動は別物です。

「ゆく川の流れは絶えずして、また、もとの水にあらず」(方丈記)と言われますが、電気はその逆。「ゆく電気の流れは絶えずして、また、電子はもとのままにありき」なのです。電荷そのものの移動には時間がかかり、すなわち、アース線でつないだ基板や機器間のグラウンドが平衡に達するのには時間がかかるようです。

このことは、仮想アースの効果発揮にはかなりのエージング期間が必要だという事実によって体験済みのことです。

なるほど、そういうことだったのかと腑に落ちる思いがしました。



気持ちの問題かもしれませんが、音も落ち着いて音色の深みや休符や空間の静けさがさらに増したような気がします。