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「高音質保証! 麻倉式PCオーディオ」(麻倉怜士著)読了 [読書]

オーディオの新しい楽しみ方であるパソコン&ネットオーディオの解説書。パソコンの使いこなしとか利便性で先行したPCオーディオだが、いまやCDプレーヤーなどオーディオ専用機器にもまさるほどの高音質が注目されている。音楽プレーヤーソフトやDAC(デジタル-アナログ変換機)なども含めて、徹底的に比較して聴き込んで語り尽くすPCオーディオの極意書というのがウリ。

本書を手にしたのは、前の日記で話題にした「CDプレーヤーの二度がけ」を盛んに提唱されているひとということがわかり、そのことを確認したかったから。

日進月歩のこの世界なので、2011年8月初版の本書の内容はもはや時代遅れ。とはいえ、読んでみる価値はある。というのも、PCオーディオを扱った本は、ムック本の断片的な記事の寄せ集めや入門オリエンテーション的なガイド本ばかりで、まとまった解説書がない。本書は、それなりにまとまりがあって掘り下げた内容となってい、この手のものとしてはては希少な存在。読んでみると、私のような門外漢にも、なるほどそうだったのかと腑に落ちるところも多い。

特に、著者は、日経新聞社などのジャーナリストとしての経験を持つだけに、取材インタビュー記事はなかなかに読ませる。

例えば、元マイクロソフトの川手雅之氏へのインタビューから、OSがいかに深く音声処理にかかわっているのかがわかる。氏は、Windowsのオーディオ展開を積極的に進めてきたエンジニアのひとり。階層構造のOSで、統合的な音声処理を担ったのがカーネル。その多機能で統合的な機能ゆえに貧相な音質だったカーネルを回避させたのがASIOなどのデバイスドライバー。そしてハード側もこれに呼応してASIO対応のUSB-DACが次々と開発されて世界が変わった。

あるいは、元バーブラウンのデジタル伝送技術者でUSBオーディオデバイスの開発に携わった岡村善博氏。転送速度の規格にも何通りかありそれによって転送モードが違う。速度が速いことは必ずしもオーディオ音質によいわけではない。転送方式には、使用するデバイスの特性に合わせて方式に違いがある。さらにデータ同期の方法にも大きな違いがあってノイズやジッターに大きく関わる。本書の当時、アシンクロナス(非同期)方式は、主要OSの再生系ではサポートされていなかったので、アダプティブ同期が主流だったという。岡村氏は、アシンクロナス転送の普及拡大をここで予見していた。

もうひとつのハイライトは、LINNの日本法人社長山口伸一氏への取材。ネットワークオーディオの画期的商品となったLINN DS開発の興味深い経緯が語られている。その開発を主導したのは創業者の子息であるギラード・ティーフェンブルン氏。氏は携帯電話用のソフトウェア開発に携わりITを修行してから社に戻ってくる。当時のLINNは、パソコンベースのHDD内蔵型再生機をラインナップしていた。日本とは違って、欧米では、ひとつのサーバーからクライアントのある各部屋で操作再生する《マルチルームオーディオ》に大きな関心が寄せられていたからだ。内蔵ではメンテナンスに問題が多い。そこでギラードは本格的なネットワーク方式への転換を提唱する。しかもトップエンド機種からの大胆な転換は社内を驚かせたという。

著者は、パソコンオーディオの本格的な音質向上に向けて実践的な検証と提言をとりまとめている。その第一は、OSのミキサー・ジャンプ。この頃、WindowsOSは、Windows7+WASAPIで大きく音質が飛躍しつつあった。第二は、振動。SSDという無振動メディアの導入だ。SSDは、動作上、課題も多かったが、その後にその改善が進んでいる。第3は、オーディオ専用PCとそのセッティング。OS内部を徹底的にオーディオ指向にアジャストすることにより、ユーザーサイドにおいて大胆な音質向上が実現できると予見していた。Windows Tweakerを使ってカスタマイズしていく過程での音質評価などなかなかリアリティに富んでいる。こうしたオーディオにシステムリソースを集中させていくカスタマイズが、趣味性の観点からも大いに注目すべき切り口だと、この当時すでに予見している。

さらに章を変えて、パソコンオーディオは使いこなしこそ命だと、その使いこなしについても実践的な方法論を詳述している。それは、まず、電源。レギュレーター電源による音質向上、ACアダプター電源とバッテリー電源の比較評価などにも触れつつ、特に、ノートパソコン用専用電源の威力を力説する。また、USBケーブルによる音の違いにも着目し、アコースティックリヴァイブの電源供給ライン分岐型のケーブルを激賞する。三点目の振動対策では、インシュレーターの材質などためつすがめつでなかなかに興味深い。

いずれも、具体的内容はあくまでも当時のもので、製品紹介などは日進月歩のこの世界では、現時点で読めばほとんど時代遅れでもはや無用。というよりも盲信盲従は禁物というべきだろう。けれども、ファイル再生を目指すオーディオファンにとって、現時点での取り組みや今後を見通すうえで、本書は格好の《過去時制》の良書だ。





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高音質保証! 麻倉式PCオーディオ
麻倉怜士 (著)
アスキー新書
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