この日の白眉は、なんと言っても池松 宏さんをソリストに押し出してのトゥビンのコントラバス協奏曲。




オーケストラも、実は、この協奏曲が最大の編成。前後のシューマンやメンデルスゾーンはオーソドックスな2管編成ですが、この曲では、さらにトロンボーン3台、テューバが加わり小太鼓とハープも参加する。木管は2台ずつだけれどピッコロ、コーラングレ、バスクラリネット、コントラファゴットと持ち替えがあって、とにかく極彩色。


作曲者のトゥビンは、エストニア出身だが1944年に故国がソ連に占領されたためにスウェーデンに亡命。その後、生涯の大半をストックホルムで過ごす。この曲は、彼と同郷でベルリン・フィルを経てボストン響のコントラバス奏者を務めたルートヴィク・ユフトのために作曲されたそうです。


曲はとてもわかりやすい。かといって低音を強調したサーカスの曲芸のようなものではなくて、リズミカルでメロディたっぷりにコントラバスが歌ったり軽快に踊ったり。演奏はチェロのように座って抱きかかえて弾きます。極限といってもよいほどのハイポジションの連続。ソロ用は別の楽器を使用されていて、どうも先日の町田のサロンで使用していた楽器と同じようです。高域の音は甘く滑らかでチェロとはまた違った魅力。第2楽章ではハープ伴奏でしっとりと歌い、超絶のカデンツァ。第3楽章はとにかく華やかでユーモアたっぷり。あっという間の20分でした。


アンコールが、これまたハイポジションの歌を朗々と聴かせて秀逸でした。




この日の紀尾井ホール管は、ちょっとした世代交代を感じさせます。特に管楽器がリフレッシュされていて鮮度が高い。そこにベテランの古部賢一さんのひなびたオーボエの音色が配剤されていていつもよりも彩色が鮮やか。トランペットの鮮烈さも格別でとにかく音程が良い。ホルンは、いつもの顔ぶれですが日橋辰朗さんを3番ホルンに据えてとにかくとても安定していてハーモニーが気持ちよい。


ただでさえオールスター・オーケストラが本領発揮という観があるのですが、マナコルダさんのリードに揺るぎないものがあって、団員にはすみずみまで曲のコンセプトが行き渡り、その上でひとりひとりが自由にやりたいように伸び伸びと演奏している。


気がつけば池松さんも加わっていて、コントラバスは3台、低音が気持ちよい。配置は、紀尾井では珍しい対向両翼型で、チェロは左、コントラバスは右。弦5部の響きがまんべんなく溶け合います。スコットランド交響曲は、ともすれば重く暗くなりがちなのですが、とても軽やかで明朗、メロディも流麗で、響きや色彩のバランスがとてもよい。この指揮者は、室内オーケストラというものをよく知っている。




素晴らしい指揮者ですね。


暑い日が続いてぐったりしがちでしたが、久々にわくわくしました。





紀尾井ホール室内管弦楽団 第131回定期演奏会

2022年7月232日(土) 14:00

東京・四谷 紀尾井ホール

(2階センター 2列13番)


アントネッロ・マナコルダ 指揮

池松 宏 コントラバス・ソロ

玉井 菜採 コンサートマスター

紀尾井ホール室内管弦楽団


シューマン:序曲、スケルツォとフィナーレ ホ長調 op.52

トゥビン:コントラバス協奏曲 ETW22[トゥビン没後40年記念]

(アンコール)

マイヤース:カヴァティーナ~映画「ディア・ハンター」より


メンデルスゾーン:交響曲第3番イ短調《スコットランド》op.56, MWV N 18