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《エレクトラ》 (東京春祭――千秋楽) [コンサート]

東京・春・音楽祭2024も千秋楽。

その掉尾を飾るにふさわしい素晴らしい公演でした。

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オーケストラの壮大にして華麗な音響が、大ホールの空間全体に響きわたる。いささかクールなこのホールを鳴らしきるのは、外来の、しかも世界トップクラスのオーケストラが大編成で来日し、その本気を発揮したときだけに限る.…という思い込みを吹き飛ばすような読響の快演。ヴァイグレの指揮は、いつになく大きな身振りで熱のこもったものですが、あくまでも冷静。単なる大音響だけでなく、バランスがよく多様な色彩を引き出していました。歌手陣がとにかく豪華で粒ぞろい。全てが何もかも行き渡った最上級の演奏でした。

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大興奮の客席は、総立ちのスタンディングオベーション。まさに20周年を迎えたこの音楽祭の最終公演にふさわしい盛り上がり。東京のクラシック音楽がここまで来たかと思うほどの内容の充実振り、公演の数の多さ、そのひとつひとつの質の高さには感無量。よくぞこれだけの陣容がそろうものだという意味でも、20周年の公演最後を飾るにふさわしい。そのことに思い当たると感動が心から湧き上がってきます。

もともと、この公演は読響が企画したもの。コロナ禍のまっただ中で、水際対策のために断念させられた公演企画を復活させたもの。タイトルロール以下、出演者も完璧に同じ顔ぶれ。執念の公演実現ということでもあります。

力の限りの大音響のオーケストラに、歌手陣が少しも埋もれることがありません。そこにはヴァイグレの職人的な緻密な計算もあるし、歌手がコンサートホールのアコースティックのステージ前面で歌うという演奏会形式の優位性も確かにあるのですが、とにかく歌手陣の声量の大きさには圧倒させられました。

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先ずはタイトルロールのパンクラトヴァを絶賛しないわけにはいきません。7年前のミュンヘンでの「タンホイザー」(ヴェーヌス)でも圧倒されましたが、実にたくましい。それでいて声を変幻自在に操りエレクトラの怒気を含んだ執念、狂気、時折見せる弱音などを表情豊かに表現する。ともすればこのオペラは、終始、金切り声を上げ続ける鬱陶しいまでの単調さに辟易させられることが多いのですが、パンクラトヴァの表現力はそういう思い込みをねじ伏せてしまいます。

相対するクリソテミスのアリソン・オークスは、新しい才能の発見でした。柔らかで若く幼ささえ感じさせる声色ですが、パンクラトヴァのエレクトラに声量でまったく負けていない。対話で成り立つこのオペラですが、演出の粉飾の助けがない演奏会形式でありながら音楽的な対比、調性の性格付けだけで対話劇を描いていくシュトラウスの音楽の雄弁さを見事に演じる二人のコントラストが実に見事。

クリテムネストラの藤村実穂子の老練さにもあらためて惚れ惚れとします。とにのかくドイツ語のディクションが明らかなまでに抜きん出ている。似合いそうにもない老けた悪役は、まだまだ藤村にはふさわしくないようにも思うのですが、その歌唱だけによる性格付けは実に精妙で奥の深さを感じさせます。

さすがと思ったのは、オレストのルネ・パーペ。もうこの人が現れて歌い出すだけでステージが一瞬にして締まります。その美質のバスはほんとうに心奪われるし、ドラマの転換にふさわしい。リサイタルにも足を運ぶべきだったかと後悔しきり。

エギストのリューマガマーも凜としたテノールで魅力的でしたが、今回、つくづくと感心させられたのは侍女役を演じた日本人女性歌手の面々。声量面でもまったく不足がなく、それぞれの立ち位置をぴったりの声色と歌唱で歌い分ける。重唱を排したこのオペラでもどこかアンサンブル的なものが立っています。

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最後は、とにかく大変な大騒ぎ。2時間にもならない場面転換だけの一幕オペラというのは、演奏会形式でこそ堪能できるということもありますが、手の込んだシュトラウスの音楽だけではない、何かとてつもなく大きく重みのあるものが巻き起こした大興奮といった風のカーテンコールでした。東京でもこんな音楽シーンがあるんだ。

そんな感動も込めて、東京・春・音楽祭の20年の歩みと、ここまで来たその事業マネジメントにもブラボーです。




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東京・春・音楽祭2024
《エレクトラ》(演奏会形式/字幕付)
2024年4月21日(日)15:00
東京・上野 東京文化会館大ホール

R.シュトラウス:歌劇《エレクトラ》op.58(全一幕)

出演
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
エレクトラ(ソプラノ):エレーナ・パンクラトヴァ
クリテムネストラ(メゾ・ソプラノ):藤村実穂子
クリソテミス(ソプラノ):アリソン・オークス
エギスト(テノール):シュテファン・リューガマー
オレスト(バス):ルネ・パーペ
第1の侍女(メゾ・ソプラノ):中島郁子
第2の侍女(メゾ・ソプラノ):小泉詠子
第3の侍女(メゾ・ソプラノ):清水華澄
第4の侍女/裾持ちの侍女(ソプラノ):竹多倫子
第5の侍女/側仕えの侍女(ソプラノ):木下美穂子
侍女の頭(ソプラノ):北原瑠美
オレストの養育者/年老いた従者(バス・バリトン):加藤宏隆
若い従者(テノール):糸賀修平
召使:新国立劇場合唱団
 前川依子、岩本麻里
 小酒部晶子、野田千恵子
 立川かずさ、村山 舞
管弦楽:読売日本交響楽団(コンサートマスター:長原幸太)
合唱:新国立劇場合唱団
合唱指揮:冨平恭平
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