怒濤のドイツ音楽三昧の旅は、いよいよゲヴァントハウス見参となります。



歌劇場と広場をはさんで向かい合うように建っている現ゲヴァントハウスは、1981年に建て直されたもので、歌劇場とは対照的に現代的な外観をしています。地元のひとに道を聞くと「ああ、あたらしいゲヴァントハウスね」といささか冷淡な言い方が返ってくるのは、やはりここも先代のゲヴァントハウスが空襲を受けて破壊されてしまった記憶が消えないのでしょうか。その廃墟は20年以上にわたって保存されていたそうです。



大ホールの中に入ると、ここもベルリンのフィルハーモニーと同じようなヴィンヤード型で、席数はやや少なめで1920席。色合いの違いからか、サントリーホールというよりは横浜みなとみらいとかすみだトリフォニーを連想させますが、客席はしっかりとステージを取り囲むような野外劇場のようんで六角形の形をしています。正面には東ドイツ時代最大といわれる6638本のパイプを持つパイプオルガンがそびえています。



その響きは現代的で明晰で透明度の高い素晴らしい音響効果を持つものでした。席数からするとちょうど横浜みなとみらい・ミューズとすみだトリフォニーホールとの中間ぐらいの大きさでほとんど変わらないのですが、ステージがとても近く感じられて、それだけ音楽がストレートに伝わってきます。



ブロムシュテットが、かくしゃくとして登場。とても88歳とは思えません。

カペルマイスターを7年務めたブロムシュテットは人気があるらしく、彼が現れた途端に客席はわき返り大拍手で迎えられました。オーケストラとの相性もよいらしく演奏も素晴らしく闊達で明快、これが本来のブロムシュテットのサウンドだと胸のすくような思いがしました。

この日のプログラムは、ベートーヴェンとシベリウスのふたつの交響曲。ともに2番でニ長調というのが面白い。

ベートーヴェンは、ここ数年聴いたベートーヴェンのなかでもベスト。久々に心の底から快哉を叫びました。

ブロムシュテットのスタイルというのは、細部のデフォルメや意味ありげなポーズに満ちた過度なロマンチシズムを戒め、速めの快適なテンポと推進力、アウフタクトのアクセントを強調した活力と闊達さ、構築のしっかりとした安定した造築というところでしょうか。そのことが、ゲヴァントハウスの現代ドイツを代表するといってよいような歯切れの良い明快な響きとも相まって、若く野心に満ちていたベートーヴェンの新鮮な意匠をみごとに表出していました。

後半のシベリウスは、まさに白熱の名演。

2015年は、生誕150年というシベリウスイヤーでした。北欧出身のブロムシュテットにとっては得意のお国もの。

実は、私は、7年ほど前にN響を振ったブロムシュテットの同曲の演奏を聴いています。それは私の心に残るN響の名演のひとつで、民族の誇りと情熱がたぎるような演奏でした。今回の演奏は、民族的というよりももっと人類普遍の生きることへの情熱とか誇りのようなことなのでしょうか、生命力の強さという点では7年前を上回るもの。あの時のN響は木管群が北欧の森林や澄んだ空気を思わせるような透明な響きでしたが、ゲヴァントハウスの管楽器群は、そういう透明な空気をひき裂き、白光が輝くような熱を帯びたようなサウンドです。

ここでもゲヴァントハウス管の機能性が高くスリムな音のフォルムと軽快な運動性という資質が冴えわたります。壮大なコーダが響き渡ると、それこそホールを揺るがすような大喝采となりました。何度も呼び出して北ドイツでは珍しい会場総立ちのスタンディングオベーション。



外の空気は、北ドイツの12月とは思えぬ穏やかなものでしたが、興奮で火照った顔を冷ますにはとうてい適うようなものではありません。ドイツまでやって来た充実感で胸が満たされる思いがしたのですが、翌日のベルリンではこれがまだまだということを思い知らされたのです。

(続く)


ライプツィヒゲヴァントハウス管弦楽団定期公演
2015年12月18日(金) 20:00
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス

ヘルムート・ブロムシュテット(指揮)

ベートーヴェン:交響曲第2番ニ長調作品26
シベリウス:交響曲第2番ニ長調 作品43