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聖トーマス教会のオルガン(ドイツ音楽三昧 その4) [海外音楽旅行]

怒濤のドイツ音楽三昧の旅も中盤にさしかかりました。第四夜は、ライプツィヒに連泊して歌劇場とは広場をはさんで対面するゲヴァントハウス。前夜にオペラ・ピットに入っていたゲヴァントハウス管によるシンフォニーコンサートです。

…と、その前に。

昼間は日帰りで、ワイマール観光。

ワイマールは、小さな地方都市ですが、かつてはザクセン=ヴァイマル公国の首都でゲーテやフリードリヒ・シラーらが活躍したドイツ古典主義の中心でもありました。また、ワイマールの名は、第一次大戦で敗北し帝政が崩壊した後に成立したワイマール憲法とワイマール共和制として私たちにもなじみがあります。ワイマール憲法は、基本的人権の尊重を定めた民主主義の嚆矢として名をとどめる一方で、戦後の苛酷な賠償や混乱を極めた経済復興のためにその脆弱な土台が揺るぎ続け、やがてナチの台頭を許した悲劇の共和国家としても歴史に名をとどめることになりました。

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市の中心にあるゲーテハウス。公国の宰相としても活躍したゲーテの広大な邸宅が市の中心にほぼそのまま残されています。

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ゲートハウスからほど近いところにある国民劇場。ゲーテやシラーが自作の演劇作品を上演した劇場であるというとともに、1919年、ここで国民議会が開催され、ようやくドイツ革命と戦後体制をめぐる騒乱に終止符が打たれ、新たな憲法が制定されます。これがワイマールの名がその憲法と共和体制に冠される根拠となった建物です。

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もちろん、ここはバッハのゆかりの地でもあります。バッハの初就職はワイマール宮廷楽団のヴァイオリン奏者。オルガニストなどを経て最終的には楽師長まで出世しますが若いバッハの生活は決して楽ではなかったそうです。いわばバッハの新入社員時代がこのワイマール時代なのです。

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我々のもうひとつのお目当てはバウハウス。大戦直後にここにグロピウスらが学校を設立。合理主義的・昨日主義的な20世紀のモダン建築や美術に大きな影響を与えた教育運動のメッカです。グロピウスとともに日本の桂離宮を称賛しその簡素な意匠美と深い精神性を再発見したブルーノ・タウト、美術面でも吉田秀和が愛したカンディンスキー、あるいはパウル・クレーなどもここで学んでいます。

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モダニズムを徹底的に嫌ったナチスによってこのワイマールの拠点を追われたために、今はバウハウス大学のキャンパスとしてその遺構をとどめるだけですが、バウハウス建築が大好きな家人としては有名ならせん階段の実物を見ただけで十分に満足できたようです。

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そのバウハウスのすぐそばに、フランツ・リストの住居(リスト・ハウス)があります。リストは、私たちが夏に訪れたバイロイトで没しますが、自身が最後の棲家としていたのはこちらでした。リストは、ワイマール宮廷楽長を辞した後もここに住み続けていたのです。とても簡素で無駄のない空間と質実な内装は、ワーグナーが岳父のために建てたバイロイトの寓居よりも質素なほどで、リストの誠実な姿勢と深い精神性にあらためて感銘を受けました。

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一室には、音の出ない可搬型の小さなピアノ。リストがツアーに持ち歩き、これで指慣らしをしたそうです。

さて、ライプツィヒに戻り、いよいよ音楽の夜なのですが…、

コンサートは8時とまだ間があるのでバッハゆかりの聖トーマス教会のオルガン・コンサートに足を運びました。

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オルガン・コンサートといっても、《金曜オルガン晩課》とでも訳すべきもので、オルガンの演奏とともに聖歌を歌ったりする日没時の典礼のかたちをとっています。私たちのような観光客も少なくないのですが、みなさん、ちゃんと聖歌を歌っているので感心しました。

パイプオルガンは2台あって、最初は祭壇に対して側面側に設置された新しいオルガンでの演奏。私たちの席からは正面真下にあたりその豪壮な音色に圧倒されました。いわゆる天から降ってくるようなというのではなく、空気そのものが震えるような音に身体ごと包み込まれる感覚です。側面なので壁が向き合っているせいか定在波がむき出しのところもあってある意味では音の迫力というのは歪みと紙一重なのだということを実感しました。

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中間は、祭壇に向き合う形で設置されているオリジナルのパイプオルガン。すなわちバッハが弾いたオルガンです。典雅で優しい音がします。こちらも天から降るという響きではありませんが、空間にさわやかに拡散していくという感覚です。教会の空間も大きさや形が違い、また、同じ空間環境であっても楽器の音色の個性ばかりではなく、響きそのものの動的な《形》があるのだと実感しました。

さて、いよいよゲヴァントハウスでのコンサートです。

(続く)



2015年12月18日(金) 18:00
ライプツィヒ 聖トーマス教会 金曜オルガン晩課
オルガン:ダニエル・バイルシュミット
        J.S.バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 ほか

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