徳永二男さんといえば、私のような世代からすれば実兄の徳永兼一郎さんとともにN響の顔というべき存在でした。その徳永さんも今年で55年のキャリアになるそうです。後進の育成ということでも重鎮というべき存在ですが、ばりばりの現役として活躍されています。



この日も、広島とのあいだを新幹線で往復しての公演だそうです。明日はコルンゴルドのコンチェルトを演奏するとかで、昨夜は広響とのリハーサル後に帰京、今日のこの公演後、取って返すように広島戻って明日の本番に備えるのだとか。お歳を考えると信じられないほどのタフなスケジュール。

そういう大御所お二人による、いかにも盛春にふさわしいヴァイオリンの名曲中の名曲ともいうべき二曲。

一曲目の「春」は、さすがに出だしではなかなか楽器がお目覚めではないようで、多少、音色が粗く弾きにくそうにされていましたが、第一楽章の後半からはぐいぐいと調子を上げられます。徳永さんのリサイタルは初めてですが、美音というよりは厚めの音色で男性的。「春」とは後世になっての他人がかたったものと思わせる、むしろいかにもベートーヴェンらしい「春」。古城の天守を背景にした満開の桜という風情です。

二曲目のフランクは、いわゆるフランコ=ベルギー派の看板ともいうべきヴァイオリンの名曲。ベートーヴェンもデュオ・ソナタの性格が色濃いのですが、この曲は、まさにヴァイオリンとピアノが対等に渡り合う対話的な楽想に満ちています。それだけに、男女ペアの演奏を想起しやすい曲なのですが、ここではちょっと思いも寄らぬサムライ同士のフランク。



清水さんによれば、フランクはもともとがオルガニストなので、左手が重く響き、しかも、指遣いが難しいのだそうですが、そんなことは感じさせない高音の輝きと透明感は、さすが清水さんで、しかもフランクらしい厚い豊麗な響き。一方の徳永さんは、フランコ=ベルギー派の美音というよりは、ハンガリー派のような力強く厚みのある色彩なので、まさにこれはなかなか聴けない男同士のフランクのソナタという風情なのです。

ピアノとヴァイオリンの会話が醍醐味のこの曲、その互いの間合いや懐への飛び込み方が難しい面があるのですが、そこは手練れのお二人。少しも息が乱れることもなく、最後は一気に感情を盛り上げる濃厚なロマンチシズム。まさに気の合った古武士二人が久々に情熱をたぎらせる花の宴とでもいうのでしょうか、とても聴き応えのあるフランクでした。




芸劇ブランチコンサート 名曲リサイタル・サロン
第11回「徳永二男」
20210年3月10日(水)11:00~
東京・池袋 東京芸術劇場コンサートホール
(1階 P列18番)

ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第5番 ヘ長調 Op.24「春」
フランク/ヴァイオリン・ソナタ イ長調

ヴァイオリン:徳永二男
ピアノ:清水和音
ナビゲーター:八塩圭子