三浦友理枝さんのピアノは、昨年12月に聴いたばかり。「東京六人組」のアンサンブルでしたが、今回は久々のソロ。

三浦さんは、以前にもフィリアホールでラヴェルの全曲演奏に挑んでいます。あのラヴェルは、同じ頃に聴いた萩原麻未さんの小悪魔的な魅力とはまた違う、透明度の高さと輪郭の鮮烈さ際立つ明解なラヴェルで、すっかり魅了されました。とかく比較対照されるドビュッシーはどう弾くのかととても楽しみにしていました。



ステージ中央のピアノへと笑みをたたえて歩む三浦さんのワンピースドレスが可愛い。樺色というのでしょうか、あるいは春に芽吹くハゼかしら…赤みがかった黄色がとてもシックな花柄のドレス。

前半と後半とで「映像」の第1集と第2集をそれぞれにメインに据えて、前半には「版画」、後半には「子どもの領分」が合わせられる。いずれもドビュッシーが「印象派」と呼ばれたスタイルを確立した時期の作品で、傑作ばかりです。



最近は、トークが入るコンサートというスタイルも定着しつつあります。このリサイタルでも三浦さん、曲の合間に簡単な曲紹介があります。簡単な説明ですが要を得て演奏者の気持ちもうかがえるスピーチ。その代わりプログラムのほうは曲名のみと、とても潔い。

三浦さんのドビュッシーは、ハーモニーもリズムも、やはり、とても明解。ドビュッシーの音楽は説明的で絵画的な標題がついていますが、それは洒落た詩文のようなキャッチコピーであって音楽に意味づけとかストーリーを示唆するものではないようです。複雑な拍節の変化と、持続的な鼓動のような律動、意表を突くようなハーモニーや旋法の転回は、光と陰のコントラストをとても明晰に表出していて、私たち聴き手を倦ますところがありません。もちろん、「金色の魚」みたいに錦鯉のジャンプとさざめく水面を想起させイメージ豊かな音楽もありますが、それだって音の感触とか色彩を楽しむもの。そういう知的でなおかつフィジカルな美意識や愉悦が三浦さんのドビュッシー。

意外だったのはピアノが、スタインウェイだったこと。

三浦さんは、本来、ヤマハ弾きだったはず。ラヴェルの時もヤマハでした。休憩時間のほとんどを使って調律師の方が入念にチューニング。思わず席を立つこともなくずっと聴き入ってしまいました。ある音がひっかかったのか、聴いていてもわかるほどにいったん緩めてから調律し直し。休憩終了間際になっていたので、ちょっとはらはらしました。その音色はとても均質でヤマハとよく似ていますが、やや硬質な透明度が引き立つところがハンブルク・スタインウェイらしいところ。単音のうなりもほとんどありません。

ほぼ年代順に機械的に並べられたプログラムですが、最後はちょっとひとひねり。アンコールピースとしてもよく弾かれる「喜びの島」が最後に置かれ大いに盛り上げる。そして最後に、次回のメインとなる前奏曲集と作曲年が重なる「レントより遅く」。アンコールも兼ねた予告編といったところでしょうか。

フィリアホールは、春から耐震化工事のため1年ほど休館となるそうです。だから第3回の具体的な日取りは未定。楽しみは後に取っておきましょう。





土曜ソワレシリーズ 第298回
三浦友理枝
ドビュッシー・ピアノ作品全曲演奏会 第2回(全4回)
横浜市・青葉台 フィリアホール
2022年1月29日(土) 17:00

ドビュッシー:
仮面
映像 第1集
   1.水の反映
   2.ラモーを讃えて
   3.運動
コンクールのための小品
版画
   1.塔
   2.グラナダの夕べ
   3.雨の庭

小さな黒人
子供の領分
   1.グラドゥス・アド・パルナッスム博士
   2.象の子守歌
   3.人形のセレナード
   4.雪は踊っている
   5.小さな羊飼い
   6.ゴリーウォーグのケークウォーク
映像 第2集
   1.葉ずえを渡る鐘の音
   2.荒れた寺にかかる月
   3.金色の魚
ハイドンを讃えて
喜びの島
レントよりも遅く