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ゼンパーオーパー『ヘンゼルとグレーテル』 (ドイツ音楽三昧 その2) [海外音楽旅行]

ベルリン、ドレスデン、ライプツィヒを巡る怒濤のドイツ音楽三昧の第二日です。

ベルリンから鉄道で2時間ほど。ドイツ東部の古都ドレスデンに到着です。夏の南ドイツ旅行では散々な目に遭いましたが、冬場の北ドイツの鉄道はかつての正確な運行のままでした。中央駅から旧市街にあるホテルまで徒歩で20分ほどかかりますが、荷物ひとつの私たち夫婦はゴロゴロとスーツケースキャスターを転がしながら市街散歩です。

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途中にはアルトマルクト広場があって、昼前からクリスマスマーケットが大にぎわい。クリスマスシーズンともなると、ドイツ国中の街でマルクトが開かれていますがドレスデンはそういうクリスマスマルクトの発祥の地と言われてひときわにぎやかです。

聖母(フラウエン)教会のあるノイマルクト広場近くのホテルにチェックインすると、さっそく旧市街見物です。家人はやっぱりクリスマスマーケット巡りでいろいろな屋台ショップを冷やかしてまわるのに夢中。この時期はどこにもシュトレンを売っていて、大きさやスタイルもいろいろ。土産のひとつはこれにしようと言うわけで研究怠らないという風です。

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ドレスデンはエルベ河両岸に拡がる美しい古都ですが、第二次世界大戦の爆撃で徹底的に破壊されました。のべ1300機の爆撃機が参加し計3900トンの爆弾を投下するという大空襲による死者は2.5万人とも15万人とも言われていて、ドイツ敗色濃厚ななかでの非人道的破壊は、広島・長崎への原爆投下、東京大空襲とならび連合国側の汚点として今も語り継がれています。当時ソ連軍のドイツ東部への侵入により避難民や負傷兵が殺到して混乱のさなかにあっただけに、その無差別爆撃はいっそう悲惨な混乱を招いたとされています。

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実は、美しいゼンパーオーパーの建物もこの爆撃でがれきの山と化し、復元再建されたのは1985年のことでした。戦後復興の苦難に東西分裂、ソヴィエト・ロシアの専政下のなかでドレスデン市民が幾多の苦難を乗り越えての再興でしたが、その完成は皮肉なことに東西冷戦終焉間近だったというわけです。再興の年にここで行われた、シュライヤーとリヒテルの「冬の旅」の録音を聴くと、そういう再興にかけた執念と戦争の悲劇の記憶と平和への祈りがある種の霊気となってぞっとするような感動を覚えます。

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内部は、新しく復元されたものとは思えぬ歴史的意匠の美しさです。席数1310とこぢんまりとしていて、一方でステージの高さと奥行きがとても深くて、その内装の美しさだけではなく観劇としてもとてもぜいたくな空間となっています。

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もうひとつのぜいたくは、ここの専属の管弦楽団。シュターツカペレ・ドレスデン(SKD)と呼ばれるオーケストラは、シンフォニーオーケストラとしても超一級で、現在、首席指揮者のティーレマンが『ドイツ語圏で伝統の響きを保持している楽団はドレスデンとウィーン・フィルだけ』とその伝統のサウンドに称賛を惜しまないほど。私たちの席は前2列目中央でしたが、間近のピットから立ち昇る芯がしっかりしてなおビロードのような深みのある肌触りの音色に、そのドイツ伝統の響きを感じ取ったのです。

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フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」は、クリスマスものの出し物で、実際、子供を連れた家族が多かったのですが、ワーグナーの高弟だったフンパーディンクの書法はとても充実したもので演奏が始まると、これがドイツ的なサウンドだと大いに納得しました。そういうドイツ伝統のサウンドとともに魅力的なメロディラインが聴けるこの歌劇は、決して子供向けの軽い歌劇ではなく本格的なものだとということにも納得させられました。

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第2幕で、森のなかで野いちごを食べて眠ってしまったヘンゼルとグレーテルの兄妹が夢見る幻想的なおとぎ世界は、ステージを立体的に使ったサーカスと夜空の星々による視覚的演出で、まるで「シルク・ドゥ・ソレイユ」ばりのアクロバチックなショーになっていました。まさに大人のファンタジック・メルヘン。第一幕開始や第三幕で多用される影絵の効果とともに、これがこのプロダクションの最大の見せ場になっていました。

その分、第3幕のお菓子の家はまるで段ボールハウスのようにちゃちで竈に投げ込まれる魔法使いの老婆の最後もあっけない。一方では、解放された大勢の子供達の合唱が楽しくて、まあ、こうやってさらりとシンプルに終幕するのが現代演出の粋というものかもしれません。

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キャストは、新進気鋭というべき顔ぶれで勢いとかフレッシュさの反面でどうしても軽輩という感じも免れませんが、なかなかの熱演。指揮者のミケル・キュトソンは、実に手際よく音楽をまとめてバランスもよく、この名門オーケストラから魅力的で充実したサウンドを引き出してくれました。エストニア出身だそうでアンサンブル金沢の2013年ヨーロッパ公演を率いて故郷のリガでも好評を得たとか。

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ヘンゼル役のガラ・ハディディは、エジプト出身。この歌劇場で『カルメン』のタイトル・ロールをやって大好評だったとか。エジプト人の本格的なオペラ歌手というのはまだまだ珍しく、快挙と評判になっているそうで、難しいズボン役ですがなかなか楽しい歌唱演技でした。

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グレーテル役は、ナジャ・マッキャンタフ。フーズム/シュレースヴィヒ = ホルシュタイン州生まれの若手ソプラノ。とてもチャーミングなグレーテルでした。

DSKの本格的なシンフォニー・コンサートも聴きたかったのですが、スケジュールがどうしても合いませんでした。とはいえ、クリスマスマーケットでにぎわう古都ドレスデンを堪能するにはこれ以上ないというクリスマス・メルヘンの出し物。美しいゼンパーオーパーで私たち夫婦はとても幸福なひとときを過ごすことができました。

(続く)



ドレスデン州立歌劇場 エンゲルベルト・フンパーディンク「ヘンゼルとグレーテル」
2015年12月16日(水) 19:00

MUSICAL DIRECTOR
Mihkel Kutson
STAGING
Katharina Thalbach
SET DESIGN & COSTUME DESIGN
Ezio Toffolutti
LIGHTING DESIGN
Jan Seeger
CHOREOGRAPHY
Erica Trivett
DRAMATURGY
Hans-Georg Wegner

HANSEL
Gala El Hadidi
GRETEL
Nadja Mchantaf
PETER(VATER)
Matthias Henneberg
GERTRUD(MUTTER)
Sabine Brohm
HEXE
Tichina Baughn
SANDMANNCHEN
Tuuli Takala
TAUMANNCHEN
Tuuli Takala

Children's choir of the Saxon State Opera Dresden
Members of Sinfoniechor Dresden -Extrachor der Semperoper
Children of the Palucca Hochschule fur Tanz Dresden
Staatskapelle Dresden
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