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ベルリン・ドイツ響をフィルハーモニーホールで聴く(ドイツ音楽三昧 その1) [海外音楽旅行]

ベルリン、ドレスデン、ライプツィヒを巡る怒濤のドイツ音楽三昧の第一日、ベルリンの初夜です。

ヘルシンキ経由の空旅は極めて順調で、ベルリン・テーゲル空港に到着したのは予定の18:00より少し早めでした。空港からバス(TXL系)に乗って中央駅近くのホテルにチェックインしたのは19時前。着換えもせずにその足で地下鉄(Uバーン)に乗ってポツダム広場へ。そこから徒歩5分ほどでベルリン・フィルハーモニーに到着です。

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さすがに今回は到着当日のチケットは購入していませんでした。窓口で当日券を求めて、さっそくベルリン・フィルの本拠地フィルハーモニー大ホール初見参です。

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ヴィンヤード型の代表的なホールとして有名なこの大ホールは、建築としてもいまでもその空間構成のモダンな機能美の輝きは色あせることがありません。ホール座席下の空間をホワイエとして構成する構造は、横浜・神奈川県立音楽堂(1954年、設計:前川國男)に見られますが、こちらははるかに規模が大きく洗練されています。とはいえ、あまりに立体的なデザインはホールへの入口が階段で入り組んでいて初めての私たちにはちょっとわかりくいものでした。

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ホールに入った印象は、どうしても同じヴィンヤード型のサントリーホール(1986年)との比較になってしまいますが、こちらは2440席と大きく、1階席の傾斜もきつくてステージを取り囲む空間的なふところの深さを感じさせます。照明や音響設備など後から設置されたものも多いせいか細部を見ると多少雑然としたところもありますが、建設後50年を経たとは思えないほど磨き込まれた艶と輝きです。世界的名ホールの席についた昂揚感は抑えがたく、ホールの隅々を見渡すと思わず深呼吸をくり返してしまったほどです。

この日は、お目当てのベルリン・フィルではなく、ベルリン・ドイツ交響楽団。指揮は常任指揮者のソキエフ。ソリストはアックスと申し分のない顔ぶれ。かつて西ベルリンのアメリカ軍占領地区放送局(RIAS放送: Radio In the American Sector)のオーケストラとして創設され、初代首席指揮者フェレンツ・フリッチャイのもとでの活躍は私のような世代にはなじみ深い名門オケ。近年は、東ベルリン側の放送交響楽団であったベルリン放送響が躍進し、一時はこのベルリン・ドイツ響を吸収合併するとの話しもあったようです。

アックスのピアノは、ほんとうに優しく暖かい。

私には、パールマンやヨーヨー・マらとのデュオやアンサンブルでなじみ深く、ソリストとして聴くのは初めて。このブラームスの難曲をこともなげに弾いてしまう確かな技巧がありながら、過度な表現はなくオーケストラとの対話を楽しみながら丁寧に音を紡いでいく。それだけにともすれば凡庸な印象も拭えず、オーケストラも音楽的につかみどころがないと感じるのか、多少とも頼りない印象でした。

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後半は、ショスタコーヴィチの大曲。

ブラームスでは14型だった編成は、フル編成にまで拡張されます。

この休憩時間でのステージ転換はなかなか興味深いものがありました。ステージ前面に張り出したサブステージ上には、前半のコンチェルトではソリストのピアノが設置されていたのですが、ここがエレベーター式になっていてピアノごと沈められ舞台下へと片づけられていきました。

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さて…

オーケストラの機能性と物量が遺憾なく発揮される大編成による熱演は、このオーケストラの技量を大いに感じさせる好演でした。何よりも音が明晰でトゥッティでも音が飽和したり音色が濁ることがないのはホールのアコースティックのよさと空間容量の大きさを示すものだと感心しました。むしろ残響は短めで響きがクリーンであることもあってヨーロッパの伝統的なホールとは一線を画す現代的な響き。ホール全体に音が行き渡る感覚も十分です。

その反面、やや響きが寂しく、味気ない印象も受けました。そのことは指揮者やオーケストラの力量ということもあったかもしれませんし、曲のせいもあったのだろうと思います。『1917年』というレーニンに主導された十月革命(ロシア革命)を象徴する副題とともに紹介されることの多い曲で、いささかプロパガンダと社会主義的リアリズムに徹した作風で、他の作品に見られるようなひねりやユーモア、音楽の響きに深みや厚みが欠けているという印象です。

この演奏を聴いていると、30年ほど前に聴いたシカゴ響による第7番『レニングラード』を思い出してしまいました。当時、客演したスラトキンの指揮によるショスタコーヴィチ・ツィクルスが進行していたのですが、ただただ大音響を叩きつけるような音楽にいささか辟易したものです。スラトキンは、ショスタコーヴィチの他の交響曲の演奏も凡庸で、以来、すっかり聴く気が失せてしまいました。この指揮者は、数年前、メットで大失態を演じたのですが、さもありなんという気がしました。今回の12番は、曲そのものの本質なのか、あるいはオーケストラや指揮者の音楽的力量不足のせいなのかはよくわかりませんが同じ印象を受けたというわけです。演奏そのものはミスもなく、リズムのキレとダイナミックやボリュームもあって文句のつけようがないのですが、感動に乏しいのです。これなら、何もベルリンまでやって来て聴くほどのものではないという気がしました。

ベルリンのフィルハーモニー大ホールの響きは、アムステルダムのコンセルトヘボウや、プラハのドヴォルザークホールのような圧倒的な名ホールというほどの印象ではないと感じました。…けれども、後日、これはとんでもない間違いだったと思い知らされたのです。

(続く)






ベルリン・ドイツ交響楽団定期演奏会
2015年12月15日(火) 20:00
ベルリン・フィルハーモニー大ホール

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 Op.83
ショスタコーヴィチ:交響曲第12番ト短調 Op.112

エマニュエル・アックス(ピアノ)
トゥーガン・ソキエフ(指揮)

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