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ライプツィヒ歌劇場「ラ・ボエーム」(ドイツ音楽三昧 その3 続き)

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ペーター・コンヴィチュニーの演出による「ラ・ボエーム」。

ステージの奥行きの深さに加えて、オーケストラピットの前に設けられた特設エプロンステージという立体的な空間をフルに使った演出で「あっという驚き」の体験…というお話しです。

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「ラ・ボエーム」というのも、いわばクリスマスもの。クリスマスイブに出会って恋に落ちたロドルフォとミミのふたり。芸術家を目指し気ままな貧乏暮らしで自由を謳歌する若い仲間たちと、そのイブの夜にカルチェラタンに繰り出して大騒ぎ…という筋書きです。

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コンヴィチェニーに限らないのかもしれませんが、昨今のドイツは舞台装置や衣装を簡素化し、時代設定も原作から現代などに大胆に改変してしまう「モダン演出」が大流行です。「ラ・ボエーム」ではさすがにそうした大きな改変は控えていますが、簡素な舞台は例外ではありません。第一幕の「屋根裏部屋」のシーンもほとんどがらんどう。遠くにパリの夜景を俯瞰するような背景だけのステージです。演出は、オペラというよりも演劇的で歌手たちは大きく立ち位置を変えます。けれども背景の夜景や、家賃を催促に来る大家が、ステージのセリから床扉を開けて登場するなど「屋根裏」の立体感がみごと。

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ふたりの出会いの場面では、ステージが何もないだけに暗闇のなかで手探りのふれあいの中から一目惚れの恋に落ちていくふたりやりとりに集中できるのです。ロドルフォの「何て冷たい手」も、それに応える「みんなは私をミミと呼びます」も、ほとんどセリフのような詠唱にしか聞こえませんが、それでいてとてもリリカル。

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ミミ役のトカールは、2012年ミュンヘン国際音楽コンクール声楽部門優勝のウクライナ出身のソプラノ。若くて愛らしく、ミミにぴったり。大スターの貫禄はまだありませんが、それだけにいかにも細くて健気なヒロインそのもの。

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予想はしていたもののそういうシンプルな舞台がはちきれんばかりに大スペクタル的に躍動するのが第2幕のカルチェラタン「カフェ・モミュス」の場面。

裏ヒロインともいうべきムゼッタの登場でステージは大波乱となり、ごったがえす群衆の雑踏に大勢の子供達が走り回り、ついには巨大なくるみ割り人形まで引き出されてステージははちきれんばかりに大にぎわいとなります。そのなかで、ボヘミアン仲間とミミはムゼッタの奔放さに振り回されるわけですが、その最後のドタバタが私たちの目前のエプロンステージでくり広げられるというわけです。このやりとりはありきたりの演出では群衆に埋もれてしまうのですが、そこをエプロンステージに持ってくることで明快にハイライトされるのです。何しろ目前に仰向けになったムゼッタが下着も露わに足を上げて「この足よ!」と絶叫。あわててマルチェッロを先頭に仲間全員が駆けつけてくる。可憐なミミ(オレナ・トカール)までスカートを振り乱して迫ってくるのですから、見ている私はドギマギしてしまいます。ついに勘定書をだらしなく酔った金持ちジジイのアルチンドロの懐に突っ込むと、みんなとんずら。綿ぼこりが眼前で舞うような大迫力に度肝を抜かれてしまいます。勘定書のくだりなども、平凡な演出ではわかりにくいのですが、大群衆のステージと分けてエプロンステージを設けた効果は実に明瞭でした。

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ムゼッタ役のユ・ウンイは大熱演。韓国ソウル出身のユは、この奔放さがかえっていじらしい、情の濃いムゼッタを好演していて、ミミとロドルフォの恋とは対照的な破綻と再生のコントラストをよく浮かび上がらせています。とはいえムゼッタが「私が一人で街を行くとき」とその妖艶さをふりまく聴かせどころは演技に忙しく、歌にかける思いが全開とは言えなかったような気がします。演出が勝ちすぎる悩ましさというところでしょうか。

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第三幕のアンフェール街も、ほとんど黒一色の闇。関税の門の灯りだけが寂しくともり、そこに森々と雪が降り続けます。歌舞伎「忠臣蔵」の名場面「南部坂雪の別れ」を連想させるような雪の情景で、本当の想いを胸の奥にしまいこんだロドルフォと、その苦しい「嘘」に打ちひしがれるミミとの心の行き違いが切々と心に浸み入ります。日本の歌舞伎の様式美の影響を推し量るのはあながち的はずれではないかもしれません。

第四幕は再び屋根裏部屋。再びほとんど何もないステージでロドルフォとミミが真の想いのたけを交わし合う哀切極まりない場面。ムゼッタがここでもとても大事な役どころで、きままな生活に身を任せてきたボヘミアンたちだからこそ分かち合えた強い「絆」が浮かび上がってきて、その中心にいたのが実はムゼッタだったということが伝わります。

ミミの最後が受け入れられないロドルフォの悲しみには無力でしかないほかの四人が背中を向けて舞台奥へと去っていく。こういう演出にはどこか既視感がありますが、旧東ドイツで育ったコンヴィチェニーの体質的なものなのでしょうか。そう思いつつも胸を打つシーンでした。

終幕は、暗転することがありません。抱き合ったまま横たわる主役のふたりがようやく湧き上がった拍手に応えてにこやかに立ち上がるところはちょっと斬新でした。

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それにしても、ピットのゲヴァントハウス・オーケストラにほんとうに感服しました。もちろん本シーズンからカペルマイスターに就任したクリストフ・ゲッショルトにもブラヴォーです。いたずらにイタリア的歌謡になることなくプッチーニの実はとても多彩でしっかりしたサウンドがとびきりの深みを湛えた色艶で湧き上がっていきます。ピット間近の最前列ではともすればアラが見えがちなのですが、そのようなことは一切ありませんでした。

翌日のシンフォニーがいよいよ楽しみになってきました。



プッチーニィ「ラ・ボエーム」
2015年12月17日(木) 19:30
ライプツィヒ歌劇場


Dirigent Christoph Gedschold
Inszenierung Peter Konwitschny
Buhne und Kostume Johannes Leiacker
Einstudierung der Chore Alexander Stessin
Einstudierung Kinderchor Sophie Bauer

Mimi: Olena Tokar
Musetta: Eun Yee You

Rodolfo: Gaston Rivero
Marcello: Mathias Hausmann
Schaunard: Jonathan Michie

Colline: Milcho Borovinov
Alcindoro: Keith Boldt
Benoit: Jurgen Kurth
Parpignol: Ki Jun Jung

Opernchor
Kinderchor

Gewandhausorchester




指揮: クリストフ・ゲッショルト
演出: Peter Konwitschny
背景&衣装: Johannes Leiacker
合唱監督:Alexander Stessin
児童合唱監督: Sophie Bauer

ロドルフォ: Gaston Rivero
マルチェッロ: Mathias Hausmann
ショナール: Jonathan Michie
ミミ: Olena Tokar
ムゼッタ:Eun Yee You
アルチンドロ: Keith Boldt
ブノア: Jurgen Kurth
パルオイニョール: Ki Jun Jung

ライプツィヒ歌劇場合唱団&児童合唱団

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